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7,試験合格

「ここは?」


 目覚めると見知らぬ天井が視界に入った。いったいここはどこなのだろうか。周りを見渡してみるが視界に入るのは生成り色のカーテンのみ。


「お気づきになりましたか、ブランシュお嬢様?」

「え、コレット?」


 勢いよく開かれたカーテンから顔を覗かせたのはコレットだった。頭がぼんやりして何があったのか思い出せないけど、心配そうなコレットを見るかぎり私はまた倒れてしまったようだ。


「お嬢様、学院から倒れたと連絡がありまして慌てて駆け付けたんですよ! どこか痛いとか気持ち悪いとかないですか?」

「そ、それより、ここどこ? 何があったの?」

「ここは学院の医務室で、君は入学試験の最中に現れた暴走したベヒモスを魔法を使って無力化した結果、魔力不足で意識を失ってここに運ばれたのだ」


 私の質問に答えたのは、コレットの後ろから現れた試験官だ。そうだ思い出した。ベヒモスが襲ってきたので危ないと思って無我夢中で魔術を使って足止めしたんだった。しかしあの後全く記憶が無い。おそらく試験官が対処してくれたに違いない。何せ有名な付与魔術師(エンチャンター)らしいし。

 それに比べ私なんてただ自分で出現させた土壁の破片で頭を打って、失神していただけの役立たずでしかなかった。

 彼の話では、例のベヒモスは従魔師(テイマー)科の生徒の従魔であること、暴走の原因は現在調査中であること、怪我人は私と試験官以外には出なかったこと、今後暴走したベヒモスがどうなるかはまだわからないことを聞いた。

 窓の外は真っ暗。壁にかかっている時計を見れば、短い針は七の数字を過ぎている。二次試験の為にグラウンドに集まったのが午後一時だということを考えれば既に試験は終わっていると考えていいだろう。

 二次試験を受けずにここで眠っていた私は当然不合格、という事になるんだろうな……。

 しかしベヒモスが生徒の従魔ということは、学校側に責任があるはずだ。なら改めて試験を受けさせてくれたりはしないだろうか……。期待を込めてちらりと試験官に視線を向けた。私の願いが通じたのか、試験官が思い出したように口を開いた。


「ああ、そう言えば君の入学試験のことだが……」


 日を改めての試験。いえ、贅沢は言いません。今からでも構わないので試験を受けさせてください!


「ベヒモス暴走のせいで受けることが出来なかったので、日を改めて第二試験を受けるという話が出た」


 よかった、これで首の皮一枚つながった。


「出たのだが、私の一存でそれは却下した」


 なんでそんなことするんですか! せめて受けるだけでも受けさせてください! 試験の為に田舎からわざわざ出て来たんですから! みんなが応援して送り出してくれたというのに、二次試験中に寝てて不合格なんて言ったら笑われるどころか、呆れられてしまうだろう。

 マクシムお兄さまに至っては盛大に怒鳴られるに違いない。いや、怒られるのはまだましな方だ。「試験を受けずに寝てたなんてオトテール家の恥だ! 出てけ! 金輪際お前は妹でもなんでもない!」ぐらいは言うかもしれない。想像したら胃がキリキリしだした。

 私が絶望に項垂れていると、正面から笑い声が聞こえた。ドアの横に佇んでいるコレットも笑い声は上げないまでも、明らかに笑いを堪えているのがわかる。

 主人が試験に落ちて落ち込んでいるのに酷い。出かけに応援していると言ってくれたのは嘘だったのだろうか。


「君は本当に考えていることが、顔に出やすいな」


 慌てて顔を押さえてみてももう遅いし、そんな行為に意味などないのは分かっているけれど何を考えていたかバレバレなのは非常に恥ずかしいのでせめて顔くらい隠したい。


「安心したまえ。君は合格だ、ブランシュ・オトテール」

「え?」


 告げられた言葉に思わず顔を隠していた手を退けてまじまじと試験官の顔を見てしまった。その表情には揶揄いの意図はくみ取れない。


「でも、私……二次試験受けてないですよ」

「なんだ、不合格にされたいのか」

「ち、違います!」


 今度は口の端が少し上がっていたので、今のは揶揄っていたのだろうか。


「すでにあれほどの魔術を使えるのだ、合格にしない方がおかしいだろう」


 私が試験官の前で使った魔法と言えば土の壁を発動したぐらいだ。とはいってもベヒモスにすぐに破壊されてしまったのでたいして役には立たなかった。その上破壊された土壁の破片で頭を打って気絶してしまったので、むしろ私としては忘れたい記憶でもある。


「ブランシュお嬢様、おめでとうございます。お嬢様なら試験など楽勝で通過できると信じておりました」


 信用されないのもさみしいけれど、過度の期待をかけられるのもそれはそれでプレッシャーを感じてしまう。でもなんとかコレットの期待を裏切るようなことにならなくて良かった。

 しかし悦ぶのはまだ早い。今試験から合格を貰ったのは二次試験の結果だ。これで入学試験が終りではない。おそらくこの後に第三次試験が待っているに決まっている。なぜならこの国一番の魔術学院の入学試験がこんなに簡単であるわけがないのだから。


「それで第三次試験は、いつどこでおこなわれるのですか?」


 正面にたつ試験官質問すると、彼の眉が軽く吊り上がった。


「なんだそれは? そんなものはない」


 何を言っているんだと言わんばかりに視線が私を突き刺す。

 第三次試験がないってことは、第二次試験って終わりってことだよね? ということはまさか、


「入学親権は合格。間違いなく君は春からここ魔術学院ソルシエールの生徒だ」

「よかったですね、お嬢様」


 驚いた様子もなく、さも当然のような態度のコレット。


「お嬢様が気絶されている間に、先に説明を受けました」


 知っていたのならもっと早くに教えてほしかったな。余計な恥をかいてしまった。


「お嬢様、お祝いは明日にいたしましょうね」


 お祝いには何を作ろうかとウキウキのコレット。指折りながらあれを作ろうこれも作ろうなんて言っている。私そんなにいっぱい食べれないからね。


「ところで、一つ質問をしてもいいかね?」


 改まった様子で聞いてきた試験官に私は頷く。真剣な表情に何を聞かれるのか、ドキドキしてしまう。


「魔法は誰に習った? 君の素晴らしい魔法の技術は独学で得たものではないだろう。御高名な魔術師の元で師事していたのではないだろうかと思っているのだが、どうだろうか」

「いちおう師匠は宮廷魔術師のダヴィド・バロワンです」


 魔法を習った覚えはないけれど、いちおう私の師匠であることには間違いない。


「ダヴィド・バロワン、だと」


 先ほどまで期待した眼差しを向けていた試験官だったが、私の返答を聞いた瞬間表情を一変させた。数日は跡が取れないのではないかと心配をしてしまうほど深い皺を眉間に刻み、怒りとも困惑ともつかない顔で盛大な舌打ちをする。


「アイツが弟子をとるとか、なにを企んでいる……」


 憎々し気になにかを呟くと、無言でドアに向かって歩いて行く。


「入学手続きなど詳しいことは、あとで担当の者をよこすのでそちらに聞いてくれたまえ。私はこれで失礼させてもらう」


 そのまま部屋を出て行くのかと思いきや彼は矢継ぎ早に必要なことだけを口にすると、こちらを振り返ることもせずに部屋を出て行った。

 師匠の名前を聞いた途端にあの態度、もしかして師匠は何かやらかしたのだろうか。あの人のことなのであちこちでやらかしていてもおかしくはないだろうけど。



 ◆


 分厚い雲が月を覆いつくし、辺りは暗闇に溶け込む。

 ベヒモスが暴れまわったせいで荒れ果てたグランドを窓辺から見下ろす影がある。


「ペネロープ王女が進学を取りやめたと聞いて今年は聖女候補者はいないと思っていましたが、ダークホースが出てきましたね」


 試験のために訪れた者たちは既に帰り、昼間とはうってかわり静かになった校舎で一人呟く影があった。

 影は従魔舎のある方向へ目をやり、そして現在ブランシュがいる医務室へと視線を向けた。

 その顔には笑みを浮かべて。


「これは面白くなるかもしれませんね……」


 弾むような声が影から漏れる。

 雲から顔を現した月に照らされた人物は誰の目にも映ることなく闇へと消えていった。

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