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20、王都からやってきた宮廷魔術師(side:ダヴィド2)

 グルグルとフルーレティが唸り声をあげる。唸り声に答えるようにやつの周りに何十もの氷の(つぶて)が現れた。


「どうやら、あいつも本気になったようだな」


 先ほどまでは俺様の実力を図るために、様子見していたようだが、攻撃をうけてやっと本気を出すようだ。俺様も舐められたものだ。

 フルーレティが尾を振ると全ての礫が、俺に向かって飛んできた。


「っは!」


 いくら空中と言えども、この程度躱せない俺様ではない。飛行魔術のスピードを上げて全ての礫を軽く躱した。


「ガゥ!」


 全てを躱し終えた直後に、待ってましたとばかりにフルーレティが飛びかかってきた。その程度既に予測済みだ。今度は避けることなく、左腕を差し出す。何も考えずに差し出されたままに腕に噛みつくフルーレティ。

 痛みは特にない。出血もない。硬化付与で腕を硬化しているからだ。そうとは知らずに思いっきり噛みついてきたフルーレティの歯は何本かいってるかもしれない。


「おら!」


 左腕に噛みつかせたまま、ドラゴンソードを鞘に納め開いた右手に魔力を込めて全力の力で殴りつけた。

 ゴーンと鈍い音が響く。まるで金槌で鉄板を殴ったような音だ。手ごたえも同様に、獣の身体を殴ったにしては、やけに固い。フルーレティは、体の表面に氷を纏わせガードしていやがった。


「っち」


 流石悪魔と呼ばれるだけはある。攻撃だけでなく防御も完璧だという訳か……。これは中々厳しい戦いになるかもしれないな。

 左腕を振ることによって遠くにぶん投げようとしたが、フルーレティはくるりと空中で回転し攻撃態勢へと入った。

 氷の礫が再び俺様へと向かってくる。先程よりも格段に数が多い。が、何の問題もない。周囲を覆う障壁を厚くし、守りを固める。ほとんどの氷の礫は障壁によって弾かれた。

 しかし氷の礫にはかなり高濃度の魔力が込められていたらしく、二発ほど障壁を破ったものがあった。


「おいおい、マジかよ」


 急いで新しい障壁を貼ろうとするも、それを見逃すフルーレティではない。

 次は礫よりもかなり大きな氷柱を六本空中に作り上げた。フルーレティが尾を揺らすと、一糸乱れることなく六本すべて俺様へと真っすぐ向かってきた。


「っクソ」


 氷の礫よりも早い。あんなもん、当たったらただですまないどころか下手したら死んでしまう。かといって飛行魔法を維持しながら先ほど以上の強度を保った障壁は貼れそうにない。

 こうなっては逃げるしかない。無残にも背を向け逃げる俺様。ついさっきまで余裕ぶっこいてたのはどこの誰だよと言いたくなる。まあ俺様なんだけどな!

 逃げるなんて、敵に背を向けるなんて騎士のすることではない。敵前逃亡は恥だ。急ぎよく戦って散るのが騎士。

 だが今の俺は騎士ではない。生きていればどうにかなる。しっぽ巻いて逃げたふりして呪術でもなんでも使って最終的に勝つのが魔術師だ。

 だから今は逃げるのが勝ちだ!

 雪の降りしきる夜空を全力の飛行魔法で駆け抜ける。視力強化は既に切ってあるので視界は最悪。真っ暗何も見えない。しかし魔力感知は強化なしで可能なので、フルーレティの魔力を大量に注ぎ込まれた氷柱を避けるのには問題ない。

 真っすぐ飛んできた一つ目は余裕で躱せた。一つ目の後を追うように飛んできた二つ目は右腕を硬化して叩き折る。三つ目をギリギリで避けたところで四つ目が肩を掠った。


「ぐっ!」


 体制を崩した瞬間、狙ったように五つ目が足を貫いてきた。早さ重視の為に障壁魔法も解いているので震えるほど寒いはずなのに、貫かれた足だけが焼けるように熱い。

 しかしまだこれで終わりではない。視覚の隙を縫うように真上から落ちるように飛んできた最後の一つを右手で掴むとそのまま握りつぶした。

 これで全弾耐えきった。後は奴が追い付く前に逃げ切るだけだ。俺様の足を貫いたままの五つ目の氷柱を引き抜き砕くと、俺様は離脱の為に浮遊魔法のスピードを上げる。

 ちらりと後方を見やると遥か後ろにフルーレティがいる。こちらを追ってくる様子はない。逃がしてくれるというのだろうか? ならば気が変わる前にさっさと逃げてしまおう。

 王都方面に向かって今出せる全力の速さで飛ぶ。このスピードでぶつかってしまえば小さな虫程度でも大けがしかねないので、保険程度の障壁魔法だけを張り先を急ぐ。

 倒しきれなかったフルーレティ。しかしこのまま放置という訳にはいかない。放置しておくと、おそらくここら一帯はこのまま凍結されかねない。それほどにやつは強い力を持っている。

 こんな田舎などどうでもいいが、俺様とて宮廷魔術師の一人。放置しておくわけにはいかない。このまま王都へと向かい援軍を呼ぶ。それしか今の俺様にはできない。

 こんな負け犬のようなこと正直悔しいが、俺様がこのまま死んじまったら増援も呼べないままあいつが好き勝手暴れまわるだろう。それだけは阻止しなければ。

 十分ほど進んだが未だに、吹雪から脱出できないでいる。まだフルーレティの魔力圏内ってことかよ。どんだけ広いんだ。

 次第に視界がぼやけてきた。吹雪が強くなっているのかと思ったがそうじゃねぇ。ズキズキと頭が痛む。息をするのも胸が痛い。


「まさか……」


 手を握り、また開く。手がかじかんでうまく開けない。感覚がほとんどない。これは寒さで身体機能が低下しているのか?

 進むのをやめ、背後に視線を向ける。そこにはいつからいたのかフルーレティの姿があった。 いや、ずっと後を付けられていたのだ。逃げることばかり考えて後ろにまで気が回っていなかった。

 魔物の表情などわからないが、奴は今おそらく嘲笑っているのだろう。無様に逃げたのに逃げ切れることも出来ず無駄に死に行く俺様の姿を。


「っくそ、やられた……」


 知らぬ間に俺様はフルーレティの罠にはまっていたようだ。最初フルーレティが攻撃にでなかったのは、てっきり様子見なのだとばかり思っていたけれどそうではなかった。

 冷気垂れ流し、ここら一帯を極寒の空気に変えた。やつは待っていたのだ。俺様が障壁魔法を解くのを。

 そしてまんまと障壁魔法を解いた俺様は今現在寒さで身体機能が低下してやがる。

 氷属性の魔物以外の生き物はすべて、一定以上の気温低下にさらされると身体機能が低下する。障壁魔法などで多少の緩和はできるものの、魔力のこもった冷気はそれすらも超えて影響を及ぼすのだ。

 ここら一帯は今、息をするだけで肺まで凍る程に温度が下がりきっているはずだ。障壁魔法のせいで気が付くのに遅れてしまった。

 こいつやはりただの魔物じゃねぇ。悪魔と呼ばれるだけの知恵がある。

 氷属性のフルーレティは低体温になどなることはないのだろう。むしろ先ほどよりも生き生きしているようにも見えた。

 忌々しく悠々とこちらを眺めている。飛行魔術が維持できなくなり、俺様がこのまま落ちていくのを待っているのかもしれない。だがこのままやられてやる俺様じゃねぇ!

 懐から小袋を取り出す。中身は白い粒だ。これをドラゴンソードにぶちまけまぶす。

 そして再び愛刀ドラゴンソードに強化魔法をかける。「効力増加」と新たに、「切れ味強化」「耐久力強化」。強化魔法が重ね掛けされた、ドラゴンソードは淡く虹色に輝いている。

 剣だけでなく自身にも強化魔法をかける。『腕力強化』、『命中力強化』。これが今できる俺様の最大の強化だ。もう魔力は空っぽ。浮いておく程度の魔力しか残ってねぇ。

 もう逃げることすら出来ねぇってんなら、最後ぐらい騎士らしくアイツ道ずれにして、派手に散ってやんよ!


「くらいやがれ――!!」


 ドラゴンソードの柄を強く握りしめありったけの力を振り絞ってフルーレティに向かって投げた。降りしきる雪を溶かしながらドラゴンソードは真っすぐ突き進む。


「グルゥ」


 フルーレティは避けることなく、先ほどと同じように氷の盾を展開させた。予想通りだ。ドラゴンソードの切っ先が氷の盾にあたると、ひびが入ったと思った瞬間に水へと変わった。水は形を保てなくなり散っていく。

 さきほどドラゴンソードにまぶした白い粒は塩だ。遠出する時は大体持ち歩いている。

 塩には氷を解かす効果がある。そんな塩に「効力増加」の付与魔法をかけて急速に氷を溶かし水へと変えたのだ。

 ドラゴンソードはそのまま勢いを殺すことなくフルーレティへとまっすぐに突っ込んでいった。


「!?」


 まさか氷の盾が突破されるとは思っていなかったのか、避けることも防御することも敵わずにドラゴンソードはフルーレティの頬を掠め、前足を深く抉った。

 残念ながら致命傷にはいたらなかったようで、フルーレティは未だに同じ場所に浮いたままだ。一方俺はというともう何一つ出来そうにもない。指一本動かすことすら厳しい。後は魔力が尽きて落ちるだけだ。しかしどうやらそれすらも相手は許してくれないらしい。

 怒りの宿った目でフルーレティが俺を見据えている。あれは俺様をその手を殺さないと気が済まないって顔をしていやがる。

 フルーレティは一声吠えると、跳ねるように飛び一瞬で俺の目の前に現れた。


「っぐぁ」

 避ける間もなく俺様の脇腹へと噛みつくフルーレティ。


 もう痛みも碌に感じない。えぐられた脇腹からおびただしい量の血が噴き出るのを他人事のように見下ろす。

 自分の血を見るのは随分と久々のような気がする。シュヴァリエ学院にいた時は毎日のように見ていたんだけどな。

 同級生と打ち合っては怪我をして、素振りをしてはマメを潰し、馬に乗っては落馬する。

 ああ、なんで最後ってときに思い出すのはシュヴァリエ学院時代なんだ。あの頃は碌な思い出も何もない。せめてカロリーヌ姉さんの笑顔でも思い出したかった。

 力を失いガクリと体が傾く。致命傷を負い、浮遊魔術すら維持できなくなったのだ。浮遊魔術が解けた俺様は、真っ逆さまに地上へと落ちていく。

 勝ち誇ったような遠吠えが聞こえる。くっそ、忌々しい。

 ああ、死ぬ覚悟は既にできていたはずなんだけど、やっぱ死にたくねぇわ。やり残してることいっぱいあるからな。

 せめてもと残りカスのような魔力をふり絞り、肉体強化にあてる。無傷では済まないだろうが、墜落の衝撃をいくらかは緩和できるはずだ。迫りくる衝撃に身構え、そして俺様は地上へとたたきつけられた。

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