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10、新しいメイド

 収穫祭の日から三週間。あの日を境に私の周辺は劇的に変化を遂げた。


「ああ、聖女ブランディーヌの生まれ変わりであるブランシュ様じゃ。ありがたやありがたや」

「ブランシュ様、ぜひうちの子を抱いてやってくれませんか? ああ、これで我が子にも聖女ブランディーヌの御加護があることでしょう」

「ブランシュ様! これは我が家の畑でとれたほうれん草です。よかったら貰ってください! いやいや、お金なんていりませんよ。聖女ブランディーヌの生まれ変わりであるあなた様からお金をとろうなど恐れ多い! これは貢物として納めてください」


 一言で言うと、なぜか私は聖女ブランディーヌの生まれ変わりだと敬われているのだ。なぜそうなったのか私には一切心当たりがない。

 私は聖女ブランディーヌの生まれ変わりではないし、そんな記憶は一切存在しない。生まれてこのかた十一年、私はブランシュ・オトテールでしかない。

 私は聖女ブランディーヌではないので、やめてほしいと言っても誰一人も聞く耳を持ってくれない。それどころか謙虚だと言われる始末。

 おそらく何らかの勘違いであるのだ。勘違いで敬われるのはかなり居心地が悪い。

 今まで私に対しての態度は、あくまで『領主の娘』でしかなかった。ある程度敬語は使うけれど、敬っているのは私ではなくお父さまだ。私はそのついで程度なもの。事実のことなので、別に気にしたことはない。

 しかし収穫祭の次の日から、領民たちは私を『領主の娘』としてではなく『聖女ブランディーヌの生まれ変わり』として敬われだした。

 オトテール領が聖女教に趣旨替えしたのかと思ったがそうでもないらしい。

 今までも見に覚えのないことで、褒められたり称賛されたことはあった。それらもあまり居心地の良いものではなかった、あくまで家族たちだけだった。仲のいい家族だという自覚もあるので、ただの身内びいきなのだろうと思っていたのだ。

 しかし今回はそうではない。屋敷の使用人たちから始まり、本村の村人たち。よその村の村人。はては、オトテール領に行商に来た村人まで私を聖女ブランディーヌの生まれ変わり扱いして敬う。

 私は私でしかないのにいい加減やめてほしい。

 しかししっかり違うと言いきると相手が悲しそうな顔をしてしまうので、なあなあになっているというのが今の現状だ。どうしたものかな……。


「……聖女ブランディーヌの生まれ変わりとか言われても困るな。……そんな記憶も何もないのに」

「あら、何をおっしゃいますかお嬢様。迫りくる魔猪を軽くいなし成敗した貴女様のお姿を、私もこの目で見ました! あの輝かしいお姿は間違いなく聖女ブランディーヌの生まれ変わりに違いありません!」


 何気なしにぽつりと呟いた私の独り言を、耳ざとく拾ったクラハが食い気味に私=聖女ブランディーヌの生まれ変わり説を推してきた。

 クラハも収穫祭の日、魔猪が現れた現場にいたらしく、一部始終見ていたという。彼女の話では、私が一対一で魔猪と対峙して浮遊魔法やら水魔法を駆使して魔猪を倒したという。

 絶対にありえない。

 あの日は確か、カロリーヌ叔母さまに手渡されたグラスをジュースと勘違いして飲み干してしまい、酔っ払ってそのまま眠ってしまったのだ。

 あの日明らかになった事実は、私が『お酒を飲んだら眠ってしまう』ということだけだ。それ以外は何もない。

 私は何もしていない。だって浮遊魔法も、土で壁を作ることも、水魔法で大きな水球を作ることも何一つ私は出来ない。

 なんでそんなに言い切れるのかって? 実は試してみたのだ。皆に出来た、やった、すごい! とあまりに言われすぎて、実は自分が気が付いてないだけで本当はすごい魔法が使えたりするんじゃないのだろうかと思って、誰も見てないところでこっそりと魔法を使ってみた。

 結果は惨敗だった。水魔法はコップ一杯分くらいしか水が出せないし、土魔法は土が少し盛り上がるだけ。風魔法は葉っぱが数秒舞う程度。

 わかってた。わかってたけど、もしかしたら自分の中に秘めた力が眠っているとか、そんなの少し憧れる年頃なのだ。

 この間読んだ小説がまさにそんな感じで、主人公がドジでおっちょこちょいで、皆に役立たずだの、出来損ないだの言われて馬鹿にされていたのだけど、ある日前世を思い出して力を開花させるって話。

 主人公は実は伝説の勇者の生まれ変わりで恐ろしいモンスターを倒して今まで馬鹿にしていた人たちを見返すの。

 私も実は聖女ブランディーヌの生まれ変わりなんじゃないかとドキドキしてたりもした。

 はい、私は聖女ブランディーヌの生まれ変わりなんかではありません絶対に。こんな碌に魔法も使えない聖女ブランディーヌなんてありえないから!

 少しでも期待した私が愚かでした。


「いや、私は魔法なんて碌に使えないから……」

「またまたー、謙遜なさって!」


 十年以上この屋敷でメイドとして仕え、私を小さい頃からよく知っているはずのクラハですらこれなのだ。もうお手上げだ。


「お嬢様には必要ないかもしれませんが、もしそのように不安ならば魔法の家庭教師を付けてもらうのはどうでしょうか? 自信にはつながると思いますよ。何せ今のお嬢様に足りないのは体力と自信だけですからね」

「……他にも色々足りてないと思うよ」


 私の小さな呟きはクラハには届いていなかった。



 ▼



 本格的な冬が来る前に、今日は庭のガーデニングの冬支度をするので、手伝うために庭へと向かう。

 ガーデニングの冬支度とは何をするのかというと、雪に弱い植物を室内に入れたり、冬囲いをしたり、マルチングをしたりする。

 冬囲いは、雪の寒さや重みから樹木を守るために紐で縛ったり、藁で巻いて保護すること。

 マルチングは、樹木の根元を腐葉土や藁などで覆うことだ。そうすることで、土の乾燥を防いだり、害虫の侵入から護ったりするのだ。

 庭には既に使用人たちが集まって冬支度の準備を始めていた。私もその輪に加わろうと庭に続く扉に手をかけた瞬間、おいと呼びとめられる。


「ブランシュ、なんて格好してるんだ!」


 振り返ると、マクシムお兄さまが眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいる。

 なんて格好とはどういう事だろうか?

 確かに今の私は礼服のようなきちんとした服は着ていない。多少汚れてもいいような着古した服を着用している。

 だがそれは今から冬支度をするために礼服なんて着ていたら泥などで汚れてしまうからだ。

 普通ガーデニングの冬支度をする時に礼装する人はいないはず、……なのだがマクシムお兄様はこの格好では不服なのだろうか?

 だがマクシムお兄さまも対して私と変わらないラフな格好だ。どう違うのだろうか?

 私が首を傾げていると、マクシムお兄さまが右手を突き出した。その手には何かが握られている。


「やる」

「え?」


 戸惑いつつも受け取ったものは、薄緑色のマフラーだった。これを付けろと言うことなのだろうか?


「寒がりのお嬢様がマフラーもつけないでお庭に出ようとしていたので、マクシムお坊ちゃまは急いで部屋に戻ってマフラーを取りに戻ったのですよ」

「クラハ!」


 クラハが私に話すと、マクシムお兄さまは焦ったように彼女の名前を呼んだ。その顔は少し赤い。


「ち、違うからな! ただ誰もいない間にブランシュが倒れたら私の監督不行き届きだと怒られるからで……。だから! 別にお前のためでは断じてない!」


 それだけを言うと、マクシムお兄さまは庭へと飛び出していった。


「わざわざ念をおさなくてもわかっているのに……」


 今お父さまは王都へ出かけており、お母さまは隣村へ行っているし、ダニエル兄さまは学校へ行っている時間だ。

 三人の不在中に何か起きればマクシムお兄さまの責任になるだろう。

 だからすぐ倒れる私に目を光らせるのは当然のことと言える。

 とはいってもよほどのことがない限り、まだ未成年であるマクシムお兄さまに責任を押し付けるようなことはお父さまもしないと思う。


「まったく素直じゃありませんこと。正直に心配だと言って差し上げればいいでしょうに……」


 クラハがため息と共に何かしら呟いたけれど、よく聞き取れなかった。

 せっかくもらったのだしと、マクシムお兄さまから渡されたマフラーを首に巻いた。


「あったかい」


 自分では寒いとは思っていなかったのだけど、いざ首に巻くと暖かさにホッとする。意外と体が冷えていたのかもしれない。

 マフラーもしないままで庭に出ていたら風邪を引いていただろう。マクシムお兄さまに感謝だ。



「意外と重いな……」


 私は冬囲いやマルチングで使う藁をみんなの所へと運んでいた。

 樹木を紐で縛ったり、プランターを運ぶのは力がいるので非力な私は比較的軽いものを運ぶこととなった。

 せっかくだし頑張ろうと多めに手に取ったのだけど、これが案外重い。見た目は結構軽そうに見えるが、量が増えるとかなり重い。

 私は何度か休憩を挟みながら藁を運んでいる。その途中、何か黒いものが私の視界をすぎさった。

 なんだろうと思い、黒い何かが落ちたところ――私の足元へと視線を向けた。

 それは五十センチほどの黒くて長い何か。黒くて長くて、突然現れるものなんて一つしか思いつかない。


「ひっ、蛇!」


 蛇が飛びかかってきたのだと思い、私は飛び上がるほどに驚いた。いや、実際に飛びあがった。数センチ程だけど。

 逃げるように咄嗟に近くの生垣へと隠れる。

 私は蛇が嫌いだ。三歳ぐらいの頃雨上がりの朝に庭で散歩していたら蛇に出くわし、驚いた私は慌てて逃げようとして近くにあった(たらい)に躓いて顔面を強打し、数針縫う大けがを負った。

 ついでに盥いっぱいに入っていた水を被ってしまい、風邪もひいた。

 怪我が原因か風邪が原因かはわからないけど、高熱が一週間続きお母さまは死んでしまうかと思ったと言っていた。

 ちなみに寝込んでいる最中、夢の中で蛇に締め上げられる夢を見続けたのが蛇嫌いになった一番の理由かもしれない。巨大な蛇に締め上げるというのは当時の私からしたらかなりの恐怖だったのだ。

 怪我をしたのも、風邪をひいたのも原因は蛇ではなく私のような気もするがそれはそれだ。

 繁みの中からチラリと蛇の様子を伺う。蛇は先ほどの場所から動いていない。不思議に思っていると呆れ気味の声が聞こえてきた。


「だっさ。それただのかれた蔦だから。蔦を蛇と間違えてビビって隠れるとかビビりじゃん」

「え?」


 言われた言葉に蛇だと思っていた黒くて長い何かをよく見ると、確かにそれはただの枯れた蔦だった。なんで私は蛇だと勘違いしてしまったのだろうか。よく見たら絶対に間違えることはないのに。

 いや、でもこの蔦は私に向かって飛んできたように見えた。だから私は蛇だと勘違いしてしまったのだろう。

 蔦が自ら勝手に飛んでくるとはない。蔦が宙を舞うなんてことは、誰かが投げたりしない限りないだろう。

 では一体だれが? 私は声のしたあたりに視線を向けた。

 視線の先にある木の陰から肩口の長さの朱色の髪に、オレンジ色の瞳の少女があらわれた。屋敷で用意している制服ではなく、私服を着ているのでおそらく使用人ではないのだろう。

 知らない子、のはずなのだけどどこか見覚えがあるような気がする。村の中で擦れ違ったことでもあっただろうか。

 少女は私を鋭い目つきで、睨みつけてくる。

 私が困惑していると、少女はこれ以上何も言うことなくすたすたとどこかに行ってしまった。

 どうやら私はあの女の子におどかされてしまったようだ。でもまあ、本物の蛇でないなら何よりだ。安心からホッとため息が漏れる。


「ブランシュ、何やってるんだ」


 マクシムお兄さまが呆れた様子でこっちを見ている。

 まさか私が枯れた蔦を蛇だと勘違いして、飛び上がって逃げた様子を一部始終見ていたのだろうか?

 う、それは恥ずかしすぎる。また私の醜態をチクチクと指摘してくるのだろうな。


「あらあら、お嬢様。こんなに藁を巻き散らしてどうされましたか? 体調がよろしくないのですか?」


 心配した様子のクラハの声で、私は持っていた藁を驚いた拍子に手放して巻き散らしていたことにようやく気が付いた。

 地面には藁が四方八方に散らばって大変な状態になっている。


「どうせまた何もないところで躓いたとかだろ」


 ぶつくさ文句を言いながらもマクシムお兄さまはクラハと一緒になって落ちた藁を拾ってくれた。

 どうやら二人の言いようを聞く限りでは、私が無残にも枯れた蔦に驚いていた所は見られていなかったようだ。

 それならわざわざいう事でもない。むしろ隠しておきたい醜態だ。


「ち、ちょっと手が滑っただけだから!」

「手が滑っただけでどうやったらこんなに巻き散らせるんだよ」


 マクシムお兄さまの深いため息が耳に入ったが、私は聞こえなかったことにした。



 ▼



 無事お庭の冬支度は終わった。私は大して役にはたてなかったけれど、それなりには頑張ったつもりだ。ずっとしゃがんで作業をしていたせいで、節々が痛い。

 それにしても私に枯れた蔦を投げてきた子はいったい誰だったのだろうか? 屋敷内にいるということは、使用人だろうか? この屋敷にはそんなに多くの使用人はいないので全員の顔は覚えているはずなのだけど……。新人さんだろうか。


「あらブランシュ。随分汚れているわね」

「おかえりなさい、お母さま」


 隣村に出かけていたお母さまが帰ってきた。冬支度が終わったばかりでまだ着替えてはおらず、今の私の着ている衣服はあちらこちらが土で汚れている。


「お庭の冬支度を手伝っていました」

「そう、お疲れさま。疲れているところ悪いけど、話があるから着替えてきたらダイニングに来てくれないかしら」

「わかりました」


 話とはいったいなんだろうか。首を傾げながら私は着替えるために自室へと向かった。



 着替えて身だしなみを整えたのち、再びダイニングへと入るとそこには先ほどの少女がお母さまの隣に立っていた。しかし着ていた服が先ほどとは違う。私服から、メイド服に変わっていた。


「っあ!」

「あら? 既にコレットと面識があったのかしら?」

「いいえ、お会いするのは初めてです。お嬢様はおそらく誰かと間違えているのでしょう」


 どうどうと嘘を言う、謎の少女。私はあまりのふてぶしさに開いた口がふさがらなかった。

 お母さまと謎の少女はどうやら知り合いだったらしい。謎の少女の話し方や着ている衣服がメイド服である所を考えれば、新しい使用人といったところだろうか?


「改めて紹介するわね。この子はコレット。今日からこの屋敷で働いでもらうことになったの」

「精一杯頑張りますので、これからよろしくお願いします」


 にこやかな笑顔で挨拶する様子は、先ほどの剣呑な様とは全く違う。まるで別人かと疑うほどだ。態度の違いに戸惑ってしまう。


「お嬢様。コレットは私の娘でして、お嬢様の二歳年上です。歳も近いことですし、これからお嬢様専属メイドとしてよろしくお願いしますね」

「クラハの娘?」

「はい」


 まさかクラハの娘だったとは。そう言われるとどことなく似ているような気がする。

 朱色の髪や、切れ長の目、女性にしては高めの背丈など類似点は多い。むしろなぜ先ほど気が付かなかったのが不思議なくらいだ。

 それにしてもクラハに娘がいることは知っていたけど、まさかこんなに大きな子どもだとは知らなかった。しかも私よりも二歳も上とか……。クラハはもっと若いのかと思っていたのだけど、実際にはお母さまとあまり変わらないのかもしれない。

 ん? コレットがクラハの娘だってことに気をとられて今大事なことを聞き逃していたような気がするのだけど……。


「え? 専属メイド?」


 確かにそうクラハは口にしていた。


「はい」

「誰の?」

「お嬢様のです」

「えぇ――――!?」


 確かにダニエルお兄さまにも、マクシムお兄さまにも一人ずつ同性の使用人が付けられている。

 しかしまさか私にまでつけられるとは思っていなかった。

 ダニエルお兄さまは次期領主だし、マクシムお兄さまは来年からオトテール領を離れて王都の学園に入学するので使用人を付けられるのはわかる。だが次期領主でも、家を出る予定でもない私に専属メイドが付けられたのは予想外だった。


「はい、お嬢様ももう十一歳ですもの。再来年には学園に通うことになりますから、今のうちからつけさせても早くはないでしょう」


 そうにこやかに話すクラハに私は一つの可能性に思い当たる。もしかしたらお父さまとお母さまは私を王都の学園に通わせようと思っているのではないだろうか?

 そうではないと今になってわざわざ専属メイドを付ける理由がわからない。

 ここ最近私が聖女ブランディーヌの生まれ変わりだの騒がれているので、面倒になっているのではないだろうか。

 おそらく事実とは無関係なことで騒がれて一番迷惑しているのは家族たちだ。私の前ではそんな顔は一切見せないが、実際には面倒に思っているに違いない。

 生まれ変わりだなんておとぎ話のようなこと言われても困るだけだし、よりにもよってそれが聖女ブランディーヌだ。

 王都では多い聖女教徒。大きな教会あり、かなり力を持っているという。

 オトテール領には、少ないが聖女ブランディーヌを信仰する聖女教徒が全くいないわけではない。敬虔な聖女教徒たちに私が聖女ブランディーヌの生まれ変わりだなんて根も葉もない噂が耳にはいってしまったら、きっと大変なことになるだろう。

 下手すると聖女ブランディーヌの生まれ変わりを騙ったと言われ断罪されかねない。

 そうなる前に私を一旦オトテール領から離して、事態の鎮静化を狙っているのだろう。

 なるほど、私に専属メイドが付けられた理由は理解できた。

 私は王都の学園に通う気は一切なかったのだけど理由が理由なのだから仕方ないだろう。別に物凄いいやという訳でもないし。

 それよりも問題はつけられた専属メイドが私に枯れた蔦を投げてきた当人だという事だ。

 あの時は声をかける間もなく行ってしまったから、なぜあんなことをしてきたのかわからない。

 庭であったときは険悪な雰囲気だったが、今はさわやかな笑顔を向けてきた。どちらが本来の彼女なのだろうか。

 コレットに視線をやると、彼女はお母さまとなにやら話している。仕事の話だろうか。その様子は時折笑顔も見せ、キツイ印象は見られない。誰に対しても攻撃的な態度をとっているわけではないことはわかった。

 まあ流石に領主夫人であるお母さまにきつい態度はとらないだろうけど。

 では自分はどうかというと、私は領主の娘だ。別に私がすごいわけでもえらいわけでもないので、敬った態度で接してほしいとは思ってはいない。

 けれど初対面で悪態をつかれるのは少し接しづらいので困る。何かしらの事情があるのならさておき、心当たりも何もないのに一方的に敵視されてしまうのは困ってしまう。

 フレンドリーに接しろとも言わないけれど、初対面で枯れた蔦を投げつけ、悪態をつくのはいかがなものかと。


「ブランシュのことをよろしくね」

「はい、奥様お任せください」


 私があれこれ考えているうちに、お母さまはクラハを連れて出て行った。

 うう、早速コレットと二人きりになってしまった。どうしようか。


「あ、あの、コレット……」


 とりあえず話してみることが先決だろう。相手のことがわからないと対処の仕方もわからない。案外勘違いだったなんてこともあるかもしれないし。


「コレットはクラハの娘なのでしょう? 家でのクラハはどんな感じなのかしら?」


 まずはお互いの共通の話題からだ。まだ出会って間もないので、どんな話題がいいのかよくわからない。となると、選択肢はお互い知っているクラハの話題しかない。


「普通の母親だと思います」


 簡潔で素っ気ない。取り付く島もない。いや、しかしコレットは私より二つ年上だ。ということはおそらく思春期に違いない。子どもは思春期になると、親の話をあまりしたがらないという。きっとコレットもそれなのだろう。

 これは私の会話の選択ミスだ。今度はもう少し慎重に行こう。


「コレットは何人兄弟なの? あ、私は上に二人兄がいるの」

「ええ、存じております。アタシは下に弟と妹がいます」

「コレットお姉ちゃんなんだ。仲いい? 私の所はダニエルお兄さまとは少し年が離れているから、仲良し兄妹って感じではないけどそれなりには仲いいと思うよ。マクシムお兄さまとは……、あんまり仲良くないかな。すぐ意地悪言ってくるし」


 そう口にした瞬間、舌打ちが聞こえてきた。びっくりしてコレットを見ると、ギロリと殺気を含んだ視線で睨まれてしまう。思わず背筋を正してしまった。

 どうしたのかと問いかけるが、コレットは答えることなく私を置いて部屋を出ていこうとする。


「コレット?」


 思わず名前を呼ぶと、不機嫌そうな顔がこちらを向いた。


「なんですか?」

「えっと、どこに行くのかな――って思って……」


 睨まれるとつい語尾がつい弱くなってしまう。


「アタシはやることがあるので、お嬢様は御自分のことは自分でなさってください。アタシは忙しいのです」


 それだけ一気にまくしたてると、コレットは部屋から出て行った。


「え、えぇ――――」


 部屋に一人取り残された私は、ただただ混乱して立ち尽くすしかなかった。

 私専属のメイドが私を放置してまでやることって何なのだろうか? いや別に一人にされたら何もできない程お嬢様じゃないからさほど問題はないからいいけどね。

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