episode3
山から帰ってきたら辺りはクリスマスムードだし気温も冬になってるし意味わからん
斐蔵に話を聞いてから3週間後、ある人物から手紙が来ていた。その人物は副丘文彦と士官学校同期の近藤郁である。
指定場所はやはり郁の家であり驚いたことに隣県の三重であった。まだ高校生である侑人にとって近場であることは財布的にも大変喜ばしいことですぐに返事の手紙を送った。
「初めまして、副丘侑人です。本日は祖父のことについてお聞きしたいと思い、手紙を出させて頂きました。よろしくお願いします」
「ハハッ、こちらこそ副丘のことならいくらでも話すよ」
郁はいかにも戦前生まれのしっかりとした足腰と背筋がしっかりと伸びており、軍人であったと言ったら誰しもが納得いくような姿をしていた。
近藤郁は副丘文彦と士官学校、そして飛行学校の同期だが、郁は開戦後すぐ体調を崩してしまい終戦まで戦場に出たことがなかった。戦後、しっかりとした治療がされ体調が戻った後は自衛隊に入り国に貢献していた。
「俺はみんなと違ってしっかりとあの戦場を生きた訳ではなく、ずっと療養生活でベッドの中で仲間たちの悲報を聞くのは地獄だった。それどころか治る見込みが無いってことで直ぐに除隊させられたから」
「しかし、学校は卒業しているんですよね?」
「あぁ、これが卒業の時の写真たちだ。これが副丘でこの横にいるのは吉川有馬。自分とこの2人は同期の中でも仲が良くてねいつも一緒に行動していたものだよ。あと同期だとラバウルの笹井醇一がいたな……3つ下には最初の特攻兵の関行男とあの戦争の中心にいた」
写真は変色していたが集合写真に写っている人物達の表情はよく分かるようになっている。皆凛々しい顔立ちで立っており、青春の1ページを覗いている感覚になる。
「兵学校卒業していつぐらいに太平洋戦争は始まったんですか?」
「……兵学校を卒業して飛行学生修了の一ヶ月後には太平洋戦争が始まったかな?でもその前から支那事変だっだりきな臭かったから、戦争の雰囲気は自分が兵学校に入隊するくらいにはしていたかな……あの時は国全体が異常だった」
ずっと人の良さそうな微笑みをしながら話していた郁の雰囲気が最後一気に冷たくなった。目が完全に冷め切っておりもしかしたら若い頃の姿はそっちなのではないかと思う。侑人は郁の冷たい表情に少し驚き縮こまってしまったが何とか話を聞き出そうとメモとペンを持ち話を聞く体勢をとる。
「祖父は昔はヤンチャな少年でしたが、実の兄が目の前で誘拐されたことによって内向的な性格になったと祖父の幼なじみから聞きました。兵学校時代の祖父はどのような人物だったのですか?」
本題に入るために堅苦しく聞いてみると郁は目を細め窓の外を飛ぶ飛行機が見えなくなるまで静かに見つめ、見えなくなると侑人の目をしっかりと見つめ返した。
「副丘はかなりの問題児だったよ。内向的?そんな訳ないじゃないか。あいつは文学が好きだが木の上だろうがゼロの中でも読んでたタイプでただのヤンチャな馬鹿だったよ」
「え、兄の誘拐事件が原因で塞ぎ込んでいたと」
「一時、そんな時もあったらしいが1年足らずで元に戻ってたらしいぞ。副丘の奥さんは丁度その頃のレア副丘に遭遇していたのだろう」
文彦の印象がどんどん変わっていき、想像していた祖父のイメージ像が崩壊していくのが分かる。あと、坊主が嫌いだったという話や体毛が生えにくい体質だった為、髭が生えずに八つ当たりをされた人もいるとか子供っぽい1面が郁の話の中には転がっていた。
「そうだな……副丘とは部屋が一緒だったんだ-------