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Episode2

お久しぶりです。

1週間山篭りなんて聞いてない

『祖父である副丘文彦の生涯を記す』

ノートの始まりはそう記されている。


1985年(昭和60年)11月

侑人が17歳の時、もう高2の冬に差しかかる中、未だに進路について定まっていなく教師や親に散々に言われ特に厳格な父は家に帰ってくるなりいつも怒鳴りつけてくる。侑人に夢がないのも父である和弘が何をするにも否定してくるのも原因の一つだ。そんな侑人に転機が訪れた。

祖母の葬式に来ていた人たちの中で侑人が声をかけた田波敦は祖父の部下であったこと、祖父がどれだけ立派だったのか凄かったのか、祖母の葬式に来てたため祖母の知り合いと思いなんの繋がりなのかと思えばまさかの父ですらあったことの無い祖父の知り合いであった。

部下であった人達が口々に言っていることを聞き、祖父のことを調べてみるのも面白そうと思った侑人は仲のいい叔母に話を聞きに行った。

「文子おばさんちょっといい?」

文子は文彦の長女で結婚し名前は変わっているが1番副丘家のことを思い、家系図を作ったり家のために動いてくれている人だ。文子は少し待っててと言われ待っていると、文彦を知っている人たちを紹介すると生前親交のあった人たちのハガキの束を持ってくる。

「この人はあの人の生まれた時からの幼なじみよ。あの人が亡くなる時までずっと親交があって、私たち子供に父のことをよく教えてくれたの」

貰ったハガキの中から1枚見せてもらったハガキは年賀状らしく子や孫、曾孫に囲まれた写真がプリントされているもので名は所斐蔵




所さんは祖父の家の近所にあった。

事前にアポを取り、所の家の近くで緊張した様子で携帯の時間をチラチラと見ている一見怪しい人間 副岡郁人が立っていた。

実を言うと、郁人も所家の孫と幼なじみで祖父たちが幼なじみだったなんて全く知らなかったのであるから驚きである。

「あいつは知ってんのか?このこと」

昔は気軽に遊びに行っていた家だが、少し緊張しながらインターホンを押す。すると馴染みのある幼なじみの母の声が聞こえてきた。名乗るとすぐに玄関が開き、年齢よりはるかに若く見える幼なじみの母が出てきた。幼なじみに用事かと聞かれ

「今日、斐じいちゃんに用事があってきたんだ」

と言うと、一応聞いていたらしくすぐに中に入れて貰えた。高校以来来ていなかったがあまり家の中が変わっておらず第2の家とも言っていいほど昔は毎日来ていたので安心する。

斐蔵が居る部屋まで案内されると斐蔵はアルバムを静かに見つめていた。

「お、郁人くん大きくなったね。さ、こっちに座りなさい」

人の良さそうな笑顔で手招きをしてくれた。小さな頃はよく膝の上に座らせてもらったものだ。斐蔵はお役所勤めを定年まで続けのんびりと孫や曾孫たちと暮らしている。

「ばあちゃんの葬式の時にじいちゃんの知り合いらしい人がたくさん来てて、じいちゃんの昔のことをよく知りたいと思って、文子おばさんに聞いたらじいちゃんのことよく知ってるのは斐じいちゃんだって聞いて」

「そうだね、文彦と自分が出会ったのは本当に昔だな。今となっては幼少期の思い出の場所は全部燃えてしまってるからね。残っているのは私の母が残してくれたこのアルバムだけなんだ」

見せてくれたのは全体的に茶色く色が変色してしまったアルバムであった。中を見せてもらうと若かりし頃の面影のある斐蔵と文彦らしき少年が笑顔で写っている写真や決めポーズを取ってる写真など成人くらいまで多くの写真が中には残っていた。

「わーじいちゃんたち若い」

「そりゃそうだ、これなんか今の郁人くんと同い年の頃の写真だよ」

見せてもらったのは、父さんより叔母さんにそっくりな祖父の学ラン姿だ。

「わ、叔母さんってじいちゃん似だったんだ」

「文彦はね、それはそれは女顔でよくからかわれてたものだよ。でも喧嘩が強くていつも上級生だろうとボコボコにして……あの頃、地元を縄張りにしていたガキ大将どころか悪さしようとする大人も倒して……正義感が強いというかヤンチャな悪がきでは無いが問題児だったね」

「へーじいちゃんはヤンチャだったんだね。でも文子おばさんからは静かな人だって聞いたけど」

「あぁ、それは蔵くん……文彦のお兄さんが誘拐されたあとだね」

ここから初めて知ったのだが、祖父は三人兄弟の次男で兄とは3歳年が離れ妹は7つ下でとても仲のいい兄弟だったそうだ。

兄である一蔵はとても正義感の強い少年で家族思いであった。呉服屋を継ぐため、小さな頃からそろばんを弾き、家の手伝いもしていた。優しく周りに人が集まりやすくいつも人の中心にいるような人だった。

周りの大人たちにも将来を期待されるような子供であったが、一蔵は11の時に誘拐され、行方が分からなくなったのだ。

その時、文彦は8歳で実は文彦と妹の侑子はその一蔵が攫われる場面を実は目撃していたのだという。

ヤンチャであった祖父が文学少年になり外で動くことを好まなくなった原因が実の兄の誘拐事件とそれを目撃していた恐怖とはなんと言っていいのか分からない気持ちになる。一蔵は文彦たちの証言により無事帰ってくることが出来たのだが、その後、文彦は兄を優先するようになり夢や希望していた学校も捨てることになる。

少し重い空気に斐じいちゃんの方を見るといつもと変わらず人の優しい表情でこちらを見つめていた。

「まさか蔵くんのこと幸子さんにも言ってなかったのか?……文彦と初めて会ったのは、私が虐められているところに突然突っ込んできた時だね」

斐じいちゃんは少しため息をついて当時を思い出したのか少し面白そうに話してくれた


1921年

1人の少年は同い年くらいの少年たちに囲まれ尻もちをついていた。

「お前、虫も掴めないとか本当かよ!」

「走るのも遅いし虫も掴めんとかお前本当に男なのか!?」

周りの少年たちの汚い笑い声に周囲を通る同年代の少年少女は顔をしかめるが、相手はここら辺で有名な家の息子でここらを牛耳っているガキ大将なのだ。

誰も助けてくれない。所斐蔵少年は涙目になりながらも歯をかみ締め、何がなんでも泣いてなるものかと意地でも泣かないように耐えていた。いつもガキ大将たちが飽きれば去っていく、今日もそれを辛抱強く待つのみとじっとと気を経つのを待つ筈が

「ねえ、そこ邪魔なんだけど」

声変わりのしていない知らない高い声が聞こえたと思った瞬間、目の前になっていたガキ大将が斐蔵の前に倒れ込んできた

「何すんだ痛てぇな!!!!」

「は?こんな通り道で邪魔だって言ったんだが、でかい下品な笑い声のせいで聞こえなかったんじゃないか?」

斐蔵は何とかガキ大将の間から声の主を見ようといじめっ子達に気づかれないように体を動かす。

そこに立っていたのは女の子ではないかと思うくらい可愛い顔をした少年がムスッとした顔で立っていた。

「お前誰だよ!!!!ここは俺の縄張りだぞ!」

「ふーん、それなら今日から俺に頂戴。俺の名前は副丘文彦」

文彦は人の良さそうな顔で笑うと次の瞬間、ガキ大将を地面に沈めていた。本当にあっという間に周りにいたいじめっ子たちを倒している姿はとても楽しそうでキラキラ輝いているように見えた。

「おーい、お前大丈夫?」

これが副丘文彦と所斐蔵の初めての出会いである。実は文彦はこの斐蔵と出会った日が名古屋に来た日だということは数十年後に本人から聞いた時の斐蔵の心境は察してもらいたい。

文彦は斐蔵の前に現れた日より以前は実は母方の実家である東京に住んでいたのだが、その事を知っている人もこの世に少なく文彦の妻紗栄子もこのことを知らないが、別に言う必要のないことである。何故なら東京も名古屋も文彦の両親たちの実家は大空襲により両家とも何も残っていないのだから。

そんなこんなで仲良くなった文彦はヤンチャな奴でいつも走り回り、斐蔵は運動が得意ではなかったが文彦の後ろをいつも着いて行き、体力がつくと文彦の隣におり2人でセットの扱いを受けることが多くなった。



祖父の若かれし頃、そして斐じいちゃんの幼少期、今の90近くの姿から想像もできない不思議な話。自分はどちらかと言うと叔母から聞いていた祖父の姿と似ていたので、祖父と一緒なんだと思っていたが実は活発な少年であったことが分かった。叔母も祖母から聞いた話である為、祖母との出会いは祖父が兄の誘拐事件後であるということが斐じいちゃんの話の時系列で分かった。そこまでショックを受け罪滅ぼしのように兄に貢献した文彦。一体、一蔵誘拐事件にはなにがあったのだろうか……


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