Episode1
このような駄文を読んで頂きありがとうございます。
侑人に曽祖父の名を聞き、副丘文彦について父が当時集めてまとめたという資料を取りに大叔母である文子の元へ向かう。
文子は戦後から舞台に立ち続けた女優で現在でもたまにテレビで昔の女優として取り上げられる事があるほど昔は人気があった人物だ。今は孫に囲まれ東京の家に静かに暮らしているが愛知出身の麗奈にとって東京は少し長旅になる。新幹線に乗り席に着いた麗奈は昔、自身が初めて太平洋戦争について興味を持った本の表紙を眺める。
『大海原の鷲 撃墜王 副丘文彦』
麗奈が初めてお小遣いで買った本であり、未だに大切に保管していた本である。まさか、自身がその憧れの人物の子孫であり彼の事をさらに知ることが出来るなんて、麗奈はいつもの研究の時よりテンションを上げ東京まで読書に勤しんだ。
「文子おばさん元気?」
相変わらず大きな家にやって来ると老いてもなお美しさを損なわない美貌の持ち主である文子は、歳を感じさせない真っ直ぐな姿勢と足取りで麗奈を向かい入れる。
「まさか麗奈ちゃんがお父さんのことを聞きに来るなんてね。」
「まさか私がこの人の子孫だなんで知らなかったから」
麗奈な文子に言われ、机の上に置いた本をちらりと視線をやり前に戻した。
副丘文彦の経歴は大正7年(1918)年生まれで4人兄弟の次男として生まれ姉に愛され妹を純愛して育った。元は警官志望で第八高等学校を合格していたが、辞退し海軍兵学校へ。67期生で同期にはラバウルの貴公子 笹井醇一がいる。
なぜ高等学校に入学資格を持ちながら行かなかったのか、親はどうしていたのかは当時読んでいた本には載っていなかった。知っている情報も当時共に戦った1人の兵士がつづたものであり文彦の人生を全て知っている訳では無い。
しかし、今回は文彦の孫である侑人が彼の知り合いを総当りしまとめたとものだと文子は言った。茶色く黄ばんだいくつかのノートを文子が麗奈の机の前に置き見せてくる。
「これが君のお父さんが高校の時に聞いてメモをしていたノートたちだよ。ここには私の父、あなたの曽祖父である副丘文彦のことを知人たちに聞き回ったもの、中を読めばわかるけど人それぞれで感じ方は変わってくる。読んでいて幻滅することもあると思うけどいい?」
「文子おばさん。私は歴史学者よ!人間いい所も悪いところもある。その全てを受け止めて後世に知らせるのが私たちの仕事だよ。この資料は大切に使わせて頂きます。」
文子が大切そうにノートを撫で真剣な眼差しで麗奈の目を見つめる。それに気づいた麗奈は不敵な笑みを浮かべ胸を張り自信を持って文子に答えた。それを見た文子は嬉しそうに微笑みノートを麗奈に渡した。
ノートを少し開いてみると中には細かく文字が刻まれており、侑人の性格の表れか細かく読みやすくまとめてあった。中は時系列順になっており、侑人が取材したものを最後にまとめてしっかりと副丘文彦の記録として作成したものだとすぐにわかった。
「……これがあったら作品が完成できる」
麗奈は帰りの新幹線で抱えている紙袋に入ったノートたちを見て微笑んだのであった。
家に帰ると侑人がご飯を作り待っていた。家に自分以外の人がいるとやはりいつも一人でいることが多いため慣れない。麗奈が食卓に着くと1冊のアルバムとUSBを手渡してきた。
「これには俺が副丘文彦について話を聞いた時の相手の写真やその時の記録が残ってる。もし使えるなら持っていきなさい」
「ありがとう……ねぇ、お父さんはなんで副丘文彦について調べようと思ったの?」
嬉しそうにアルバムとUSBを受け取った麗奈は疑問に思っていたことを聞くと侑人は少し考える素振りをして笑う。
「そうだなぁ、俺が祖父であるあの人を調べたのはちょうど高校2年の時、将来のことが何も考えられずぼんやりしてたんだ。そんな時、おばあちゃんが亡くなってね。びっくりしたよ、交流関係が広いとはいえなかった祖母の葬式に多くの人が来ててそれも服も雰囲気も全く違う男たちが仲良くしてる姿を見て1人の人に声をかけたんだ。その人は田波敦といって祖父の妹の旦那さんだと知った時は驚いたし、親族の集まりに来たことがなかったから知らなかったんだ。それから男の人たちに囲まれて隊長に似てるとか色々言われてそこから調べたんだ」
侑人の話に出てくる人たちは多分あの頃の文彦の部下や同僚なのだろうと麗奈は分かり時代の流れの残酷さをかみ締めた。自分の父は彼らに会ったことがあるが話を聞きたい今、彼らの殆どは鬼籍に入っている。最初、侑人の調べたものを使うことに気が引けていた麗奈だったが、もう当時を一緒に戦っていたものはひと握りで取材に答えて貰えれるかと言うと極めて難しい。
麗奈は決心をつけ夕食後、後片付けをした後に自室にこもりノート立ちに目を通した。