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百人一首VS歌留多 頂上決戦

作者: 山村

「私ね、欲しいものがあるの」


 物憂げな表情で先輩が言う。どこからどう見ても儚げな少女だ。


「……何ですか」


 思わず生唾を飲み込んでしまうが儚げ少女が上目遣いでおねだりしてくれば健全な男子高校生ならば致し方の無いことである。


「その絵札ちょうだい!」

「やっぱり! 嫌ですよ!」


 が、現実はそんな甘酸っぱい展開などではなく、これは血で血を洗わないがれっきとしたサバイバルである。

 我が西涼学園高校の伝統ある文化祭“西涼祭”では延べ三日に渡り各クラス、部活動、同好会、研究会の殆どが出し物を催す大規模な祭典となっている。我がカルタ同好会は普段混同されがちで互いに思うところのある百人一首同好会と共に“どうせ混同されるのならば本当に混同してしまえ”という半ばやけくそな発想で“敷地内百人一首&かるた取り”を開催したのだ。

 ルールは至ってシンプルなもので学園の敷地内にバラまかれた絵札を探し出してその枚数を競い合うというもの。読み手は校内放送から札を読む。

 事前に札を見つけ出して集めてしまう不正が出るのではという懸念も出たが景品はただのいろはかるたと百人一首のセットなのでそこまでして欲しい人なんていないだろうとその場のノリであれよあれよと決定した次第である。

 実際初日を終えて二日目の現在まで不正を目撃した者はおらず、そもそも事前に学校ホームページの文化祭特設サイトで告知していたにも関わらず一般の参加者はそこまで多くなく、半数が両同好会メンバーだったりする。


「それあたしの得意札なのに~!」


 取られまいと絵札を掲げた僕に寄りかかるように腕を伸ばす先輩。傍から見ればいちゃついているカップルのように見えなくもないがこっちは取られまいと必死だ。

 この西涼祭が伝統とある通り、大人数を収容しても混み合わぬよう廊下の幅は広く設計されており往来の激しい廊下でも少し端に寄ってしまえば一先ず邪魔にはならない。


「どうしでもダメ?」

「駄目です。そもそもルール違反でしょう」

「“人から奪ってはいけない”けど、“人から譲ってもらってはいけない”とは言われてないよ」

「屁理屈! とにかく、駄目なものは駄目です!」

「ちぇー」

「ほら、次の札が読まれますよ」


 そもそも、どきどきはしたが先輩が僕に気が無いことは知っている。そもそも僕はかるた同好会、先輩は百人一首同好会、互いに名前すら知らないのだ。先日の打ち合わせが初対面。ただ彼女のリボンの色で先輩であることは分かるという関係。


『次の札を読み上げます……』


 全ての札が読み終わったらそのまま放送で集計会場へ案内がされる手筈となっており、それまでは一定の間隔で読み札が放送で読み上げられる。今しがた僕が取った札が136枚目だから残り絵札は11枚。ここからは探す方が大変なのだ。前日の配置時にメモを取っているので取り残された札はそのメモを頼りに放課後の時間に同好会メンバーで回収する。

 前日の取り残しは33枚。優勝者の手札は47枚。よくそれだけ見つけられたものだと感心したが一日目の絵札配置を担当した経験から二日目にどのような場所に於いてあるのかの傾向を把握した僕の手札は既に34枚。これはもしかして、もしかするんじゃないかな、と期待を胸に放送に耳を傾ける。


『次の札は“惚れたが因果”……“惚れたが因果”』


 二人してきょろきょろと周りを見渡すもそれっぽい札すらない。これはこの辺は取りつくしてしまったな。移動するかと、どこへ行こうか思案していると不意に遠敗を声を上げた。


「あっ」


 五月蠅いくらいに周りは騒がしいのに先輩の声だけは妙にはっきりと聞こえた。


「? どうしました?」

「いいこと思いついたんだけど、あたしと君の札合わせたら優勝できそうじゃない?」

「……それのどこがいいことなんですか」


 悪戯っぽく笑う先輩が不覚にも可愛らしく見えてしまった。一瞬誘惑に負けそうになったがそこは僕という人間の矜持を保った。


 結局その後一枚も見つけることが出来ず、二日目の優勝者は58枚を取った一般参加の方だった。


「あたし6枚~。優勝できると思ったんだけどなぁ……」

「その枚数でどこから自信が出てくるんですか」


 二人合わせても40枚。優勝には遠く及ばず。僕個人は三位で書道部の段位持ちの方が書いた美しい賞状を頂いた。その人が将来凄い人になったら家宝になるんじゃないかな、なんて皮算用をしていたら先輩が僕の横に来てこっそりと耳打ちしてくる。


「明日は一緒に組んで優勝狙わない?」


 正直先輩と組んでも優勝出来る気はしない。が、先輩と祭りで浮かれている校内を探索するのは楽しそうだ。僕は二つ返事で頷いた。

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