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おまえんちヒールないの?  作者: 野井ぷら@12ハロンのチクショー道発売中!
【二年生編】
37/39

うちに都会の常識はない

二部開始しました。

日常系の話になるんじゃないかなーと思ってます

 春。ついにこの時が来てしまった。

 短い春休みを終え、俺はついに二年生になった。何かの試験や儀式があったりするわけではないけれど、無事に進級が出来て俺としては一安心だ。

 だが、ついにだ。ついにの時が来てしまったのだ。

 そう、妹リイズと従妹のソサラがこちらの学校に通い出す日だ。


 奥卵第一中学には各学年1つずつのクラスがある。逆に言うと1つしかないから、進級してもクラスメイトに真新しさみたいなものは無い。校舎も二階建てだから場所が変わらないし、なんなら移動が面倒という理由で生徒は入学から三年間同じ教室を使うから窓辺からの景色も全く変わっていない。

 だいぶハゲ散らかしている桜の木とグラウンドの土でくすんだ舞い散る花びらを眺めながら、俺はこれまでの日々に思いを馳せていた。本当に色々大変だった。


「平和だ」


 ひと時の平和かもしれない。だけどグラウンドでは物が壊れていないし、理不尽にキレ散らかす妹や従妹はいないのだ。


「甘いなメイジ。春は春風吹き荒ぶ波乱の季節だ」

「すごいなマサヒロ。よくそんな昭和の漫画みたいなセリフがすらすら出てくるな」

「春休み中に親父が持ってた漫画読んだんだよ。むしろお前が年号知ってることの方が驚きだぜ」

「大化から全部言えるぜ俺」

「すごいな。え、凄いな!」


 兄たるもの、妹に勉学で劣ってはいけないからな。あいつらは小賢しい事ばっかり詳しいから負けないように俺も俺なりに頑張っているのだ。


「そういや妹ちゃんたちも今入学式なんだよな」


 妹のリイズと従妹のソサラがついに4月から都会の学校に通うようになったのは先も言った通りだ。引率役の俺をとーちゃんは不安そうな顔で見つめていたが、俺だって正直不安しかない。都会のルールってもんを事前に伝えてはいたが、思考よりも暴力が先走る妹リイズに関しては祈る他ない。

 従妹のソサラはリイズよりマシだけど、一年前の俺と一緒で都会の常識が全く身についていない。素っ頓狂な真似をしでかす可能性は十分にあり、元の性格が割と天然な事もあってこっちもこっちで十分取り扱いには気を遣う必要がある。

 俺、毎日授業参観した方がいいかな……。


「怪我させるな、壊すな、怖がらせるなは言いつけてあるから多分大丈夫だ」

「おまえんちの女こええよ」


 かーちゃんは無気力なだけで襲い掛かってこないから大丈夫だぞ。




 だらだら話を聞いてるだけで始業式の日は終わった。


「メイジくん。今日はうちくるの?」


 いや、今日はこの後リイズとソサラに町の案内をする予定。もしかしたらその流れでタケシんちも紹介するかもしれないけど、行かない予定だぜ。


「わかったよ。じゃあ頑張ってね」

「頑張ること前提なのか……まあ頑張るんだけどさ……じゃあなー」


 俺も渋々と重い腰を上げて教室を出る。目指す場所は隣の1年生の教室だ。

 こちらも帰りの会が終わったのか、各々がキャイキャイやってるようだ。山内だからどうせ窓際だろうと一番遠くの列を探せば、THE氷雪系な髪色した女が二人固まっていた。言わずもがな妹リイズと従妹のソサラである。俺は黒髪なのになんであいつらは白というか灰というか銀っぽい感じなのか。俺もエンジローみたいに赤がよかった。


「あ、おにい」

「お兄ちゃん」


 こいつらと向き合う時、特にリイズと向き合う時は両手は自由にしていつでも魔術を発動できる状態にしておかなければならない。俺には全く理解できない理由と感性で、全く理解できないタイミングで怒りの導火線に火が付くので常時警戒を怠ってはならないのだ。

 会ったことないから想像でしかないけど、たぶん本物の悪魔でもリイズよりはいくらかまともな理性と知性があるんじゃないかなって思ってる。


「二人とも行くぞー」


 あ、クラスメイトの皆さんお邪魔します。俺二年生の山内メイジです。こいつらの兄です。はい。結構変わってると思うんですけど諦めずに仲良くしていただけると、はい。それじゃあお邪魔しました。


「なにあれ。おにいきっしょ」

「すごい変なお兄ちゃんだった」


 なんて言い草だ。この日のために学んだ兄ムーブなのに。ほら行くぞ。


「お前たち。都会で過ごす三か条は覚えているか」

「忘れた」

「かき氷にしない?」

「そうだな。かき氷にはしてはいけないな。偉いぞソサラ、一つでも覚えていられて」

「えっへん」


 ソサラの言うかき氷とは対象を完全冷凍して頭の上から回転させた風の刃ですり下ろす一連の魔術のことだ。片づけが面倒なくていいらしい。怖い。

 ちなみに正しい三か条は「壊さない」「怪我させない」「怖がらせない」だ。

 よし、じゃあ町の紹介するからな。はぐれるんじゃないぞ。




「ねえおにい。なんで都会にはこんなに食べ物があるの? このころっけ? うま」


 コロッケうまいよな。とんかつもいいぞ。

 食べ物については俺にもわからん。別の場所で作っていて、いつでも食べられるようにお店に並んでいるんだ。お店には道を走っている車を使って運んできてる。そーゆーことをあらゆる場所でやってるんだって授業で習ったぞ。


「お兄ちゃん。あの電気ってどうやって生み出しているの? 叔父さんやお兄ちゃんでも作れるけど、ずっとって凄いと思うの」


 わかる。電気ってすごいよな。詳しい原理はよく分からんけど、あの頭の上にある送電線っての伝って全部の建物に流れてるらしいぞ。そんでその大元で電気が作られてるんだって。


「あの車って何なの? あたしに正面からぶつかって勝てるかな」


 車はぶつかるものではありません。中に人が乗ってて、ぶつかると乗ってる人の方も危ないから、そういう事しようとするんじゃないぞ。ちなみに落石と同じかそれ以上の衝撃が来るから普通にお前の方がつぶれる。


「学校もそうだったけど、どうしてお家や道が石で出来ているの?」


 その方が頑丈だからだ。たぶん猪のかちあげくらいなら一発は耐えるぞ。二発目以降は無理だけど。


「都会の人って魔術使わないの? なんか使えそうな人見かけないけど」


 使える人もいる事は居るけど珍しいんだって。だから驚かれても驚くなよ。俺があった中だと魔術師も念動力者も権能持ちもいたぞ。神とか精霊そのものはまだ会ってないけど。

 あ、でもコエダさまってどうなんだろ、俺は妖怪だと思うけど自称神みたいな感じだったしな。まあコエダさまはコエダさまでいいか。



 そんなこんなで奥卵をぐるっと一周。ちょっと休憩しようと喫茶店に入ると見慣れた金髪が目に入った。ラヴィーネだ。なにしてんだろ。


「む、メイジか。珍しい所で会うな」


 俺も会うと思ってなかった。何してんの?


「カフェで作業を進めていたところだ。それと資料をまとめている私を撮影していた。ここならあまり邪魔が入らないし店の雰囲気も気に入ってるからな」


 まあ奥卵だと近所の人くらいしかこないもんね。ラヴィーネって相変わらずアウスタガチ勢だな……。


「ねえお兄ちゃん。誰なのこの綺麗な女の人」

「おにいが色気づいてる。きっしょ」

「お前たちが噂の妹たちか。ちょっとこっちに来い。いいものを見せてやる」


 あ、こいつ闇(スマホとSNS)の道に引きずり込む心算だ!

 純粋なこいつらにSNSはまだ早い。お兄ちゃんは許しません。いや、別に好きにすればいいと思うけどどのみちスマホ買えないだろ。


「へーラヴィーネって魔族の人なんだ。あたし初めて見た」

「本当だぁ。よく見たらちゃんと角と羽生えてる」

「近頃言われなさすぎて麻痺していたが、なんだかこういう反応は逆に新鮮だな……」

「ねえ魔界ってどんなところなの? おにいより強い奴いる? どんな生き物がいるの?」

「ラヴィーネさんのおようふく可愛い。いいなー」

「待て待て。順番に答えてやるからそんな一気に質問してくるな。そうだな、魔界はだな――」


 なんか俺、もしかして蚊帳の外(国語で習った)ってやつ? 疎外感はんぱねえ。やっぱ女が集まると男はどうしても混ざりにくくなるもんなんだな。いつぞやのコエダさまの服買いに行った時も俺の発言時間、全部集めても2分未満だったもん。

 ていうかリイズとソサラ、意外とラヴィーネに懐いたな。二人にそんな事出来たなんて俺知らなかったぞ。


「うちの集落、歳が近い子ってあたしとソサラしかいないから、知らない女の人と話すの凄く楽しい」

「わたしも。ラヴィーネさん、もっと都会の事教えてー」

「ははは。全く人が悪いぞメイジ。こんなに素直な子たちをまるで悪魔のように言って」


 そうだな、俺も正直驚いてる。お前ら意外と人と会話とか出来たんだな。


「はあ? そりゃ出来るでしょ」

「お兄ちゃん魔術オタクだったから必要最低限しか喋らなかったけど、わたしたちはいつもお話してたから」


 えっ、えっ、待って。それ初耳。

 え、もしかしてかーちゃんとか俺が居ない間ペラペラ喋ってるの? 喋ってる? マジ? 何話してんの。とーちゃんの愚痴? え、じゃあ俺のこととかも言ってるの? 何一つ話題にならない? そ、それはそれで傷つくぞ……。

 まさか妹たちってマサヒロが言ってた陽キャ……いや、それだとまるで俺が魔術オタクの陰……いやいやいや! 俺は普通だ。元気で可愛いとUtubeで評判のメイジくんだ。大丈夫。都会に出てきたころは人との喋り方とか接し方分かってなかったけど、今はもう大丈夫だから。

 よし。はい、この話終わり!




 結局その後1時間くらいラヴィーネ達は話し込んでいた。

 途中で食べ物やら飲み物まで注文し始めて、当然飲み食いした妹らは金なんか持ってないから何故か俺が会計する羽目に。

 そろそろ帰りの時間だからと切り上げなければいくらでも話し込んでいそうな勢いだった。女の会話を続けるために出てくるエネルギーって一体どこから出てくるんだ?


「町っておっきいね」


 丘の上から奥卵の街並みを見下ろしてリイズがぽつりと言った。

 そーだな。でっかいな。


「作るの大変だったんだろうね」


 そらもう大変だったろうよ。


「壊しちゃったら、もうメロンソーダが食べられないんだ」

「プリンパフェも」


 リイズは喫茶店で食べたメロンソーダが気に入ったようだ。ソサラはプリンパフェ。ちなみに俺はストロベリーサンデーが好きだ。名前が強そうなのもいいな。技名に採用してもいいかもしれない。

 まあそーだな。壊してしまったら美味しいものや楽しい事、全部なくなってしまうな。俺もとんかつが食べられなくなったら生きていく気力を失ってしまうかもしれない。


「おにいが壊しちゃダメっていってたのは、分かった」

「わたしも」


 やっと分かってくれたか。そうだぞ。物を壊すのは良くない事なんだぞ。都会で生活していく以上、常に気をつけなきゃいけないんだ。

 よしよし。今日はそれを理解してくれただけでも良かったよ。奢ったのは無駄じゃなかったんだ。よし、じゃあ帰りに猪狩って帰るぞ。

 いやーよかったよかった。説明してもずーっときょとーんってした顔のままだったからな。心配で心配で仕方なかったが、この様子なら最低限言いつけを守るくらいはやってくれそうだ。これで俺の心労も少しは減るってもんだぜ!


「……でも一気に壊したら気持ちよさそう」

「氷漬けにしたら綺麗かも」


 やっぱコイツら危ないわ。

最近12ハロンのチクショー道の方(閑話ですが)も更新しているのでよかったらご覧になってみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] メイジくんってマルッコっぽいですよね。
2023/02/10 20:15 退会済み
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