表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/65

第7話:生まれてはじめて作詞をした&1円玉をピック代わりにするさなちゃん

 数日後、桜がすっかりと散り、葉桜になった頃。

 わたしたちは、いつも一緒に下校する。

 毎週二日、比治山楽器店の地下練習スタジオで練習し続けている。


 さなちゃんは趣味が喫茶店巡りという理由で、喫茶店で接客をすることに。

 えまちゃんは趣味が野球観戦という理由で、野球場の売り子をすることに。

 一方、わたしはまだ決められないでいる。


『もえちゃん。私、自分の作詞に納得できなくて困ってるんだ。だから、詞を書いてくれないかな?』

『……え? わ、わたしが……?』

『うん。やっぱりボーカルが書いた方が、魂がこもった感じになって良い曲になると思うんだよね』


 さなちゃんにそう任せられたので、わたしは授業中も作詞のことで頭がいっぱいだった。

 生まれてはじめての作業にたくさんのボツが出来て、どれが良いのかわからなくなった。


 何が伝わりやすく、何が伝わり辛いのか?

 何が共感されて、何が共感されづらいのか?

 何が心に響いて、何が響かないのか?


 けれど、わたしは深夜に考えてみる方が閃きやすい体質だった。

 おまけにしゃがむと頭がよく働きやすい。

 そうすると今の人生と前世についてずっと思っていたことが吐き出た。

 すらすらと書けるようになった。


 自分の悩み、自分の存在意義、自分の無力感が。

 そんな自分を赤裸々(せきらら)に、わたしは書いてみた。


 回想から現実に戻ろう。

 さなちゃん以外、椅子に座っている。

 ベースとドラムの低音が骨まで響いて毎回、血が騒ぐ。


 わたしはさなちゃんのように立って弾くことはまだ出来ない。

 彼女も言っていたけれど、『初心者は椅子に座りながら弾いた方が良い』

『それから立って弾くことに挑戦したら良い』と。


「それにしても、ベースって大きいですし重たいですよね。ちょっと肩こりがさらにひどくなりまして……」


 猫背のわたしは弾くのをやめ、右手で左肩をほぐす。

 右肩もしてみるけれど、治る気配が無い。

 いつか整体にでも行きたいと思うこの頃だ。


「ベースはギターより当然、重たいからそれでかな。じきに慣れるよ」


 さなちゃんはそう答えてくれる。

 わたしは彼女の顔を見て、


「《ギター担当のさなちゃんは、常に冷静で、優しくてとてもかっこいい女の子だ。そして何よりギターが上手い。様々な奏法を教えてくれる》あの、ずっと思っていたんですが、さなちゃんが持ってるのって、ピックじゃないですよね?」


 わたしは今更ながら気付く。

 まるで雨の雫のようなデザイン。

 その赤いタルボギターを弾くのを彼女は止めると、


「¨一円玉¨で弾いているの」

「一円玉で!?」

「このギターがアルミで出来ているから、一円玉で弾いてみたら面白いかなって。ほら、これってアルミで出来ているし」と、彼女はコイントスをする。

「変わっとるねぇ」


 と、えまちゃんは鼻で笑う。

 わたしは彼女の方を見ると、


《えまちゃんは、この中で最も大人っぽくて美人さんだ。綺麗なロングヘアーもどうやって維持しているのだろう? みんな優しいけど特に彼女からは、保育士さんのような母性と包容力を感じる》


 しかし、彼女が叩くドラムはシンプルだけれど、存在感はある。

 真面目な性格が由来しているのか毎日、叩けない所を地道に何度も練習している努力家だ。

 先ほども折れたドラムスティックを、床に置いている。


「もえちゃんは指でずっと弾いとるけど、ピック(弦を弾く道具)を使こうて弾かんのん?」


 彼女ははそう尋ねる。

 彼女の言う通り、ベースは指で弾くかピックで弾くかの二種類だ。

 それから多くのベーシストが弾く写真や動画を見てわたしは気付いた。

 それは、指弾きの場合、ピックアップ(マイク)の上に親指を置く。

 人差し指と中指で弾くのがスタンダードだった。


「わたし、こだわりがありまして、トーン(音質を調整するつまみ)をゼロにして、ボリュームだけの指弾きのベースの音が好きなんです」


 と、わたしは灰色のベースを弾くと続いて、


「こうしたら音色に丸みが出て、自分が納得する低い音になると思いまして」


 と、さらに弾いてみる。

 我ながらジャズのような低音に等しいと感じる。

 ピックで弾く音も、迫力があってかっこいい。

 けれど自分がやるには難しく、指で弾く方が自分に向いている。

 そのことに気が付いたのだ。


「へぇー、トーンをゼロに。そんな風にもしてええんじゃね」


 と、えまちゃんは言うと、


「まぁとにかく、好きな音色って人それぞれじゃけぇね。楽器に弾き方や音色に正解なんて無いんよ。じゃけぇ、もえちゃんも自由にやったらええよ」


 優しい笑顔でそう言うと、わたしはお礼を言う。

 彼女のドラムのリズムに合わせようと頑張る。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました


※2023.1.1

東海楽器さんにTalboの記載許可を

直接、問い合わせた所、

大丈夫でしたのでこのまま続けます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ