第64話:宮島の紅葉谷公園&新曲の閃きと新たなメンバー
もえたちは、バンド練習を休んで宮島の紅葉谷公園に来ている。ここを訪れれば、名曲を閃くのではないかという望みもある。「特にイントロのアイデアが難産」と、さなちゃんは言う。紅葉橋という、朱塗りの欄干の橋の上を渡る。その下の川を見下ろすと、透き通った綺麗な水の上に、赤い紅葉が流されてゆく。
もえとえまちゃんは見上げる。ひたすら「美しいね」「綺麗だね」と言い合う。石段を上ってゆく。奥へ奥へ進むと、地面に紅葉が散らばっている。それらを出来るだけ踏まないようにする。すると、茶屋へ辿り着く。そこでお抹茶を注文する。赤い緋毛氈が敷かれた茶席へ腰を下ろす。濃くて深い緑色のお茶を味わう。
「うち、思うんよね」
と、えまちゃんは一口飲むと続いて、
「どこにでも居るバンド活動を趣味にした社会人バンドとか、好きな曲をカバーして投稿する演奏してみた系のユーチューバーとかでもええんじゃないかって」
彼女のそれらの意見は、よく理解している。とても現実的で堅実的だ。
「それぞれ進路が違っても、バンドは解散しませんよね?」
と、もえは尋ねる。
「しないよ。ただひたすら音楽と言う字のように音を楽しむバンドにするって結成当時に決めたんだ。憶えてる?」
「もちろん、憶えとるよ」
と、さなちゃんの問いにえまちゃんが答える。
「じゃけど、るかと話し合ってこれが一番、夜風の未来に、うちらの未来におうとるかなっていつも思うんよ」
と、えまちゃんは言う。彼女は投げやりでもなく、まだまだ若いのにしっかりと先のことをよく考えている。そう聞くともえは安心して、少しでも長生きしようと思う。――しかしそれは、頭上にある紅葉のように、いつまでも木のそばで生きられないことに類似する。前世のもえのように人間は、いつかは散るのだ。
「まぁそれは、みんなが進学したり就職したあと考えよう。未来なんていくら考えても、予想外ればかりだからね」
と、さなちゃんはお抹茶を一口飲んだあとに言う。もえは、うんとうなずけず、地面を見下ろしている。
――その時、冷たい秋風が吹いて、もえとさなちゃんの髪の上に紅葉が落ちる。それを二人同時に手に取ると歌詞が、天から降りて来る。さなちゃんも何か思いついたようだった。閃きというのは不思議なもので、わたしは音楽の神様が、『これを使いたまえ』と、プレゼントしてくれているのではないかと彼女は思う。
「さなちゃん、えまちゃん。歌詞が出来ました!」
「るか、夜風のキーボードを担当してくれない? お願い、この曲のイントロはピアノじゃないとダメなんだ」
えまちゃんは隣に座る、るかちゃんの顔を見る。もえとさなちゃんも真剣な顔で彼女を見る。すると彼女は段々と頬を赤く染め、
「……おい、あんまし人の顔を凝視すんなよ。わかったよ、夜風に入るよ」
えまちゃんは彼女の肩を優しく叩く。彼女はさらにしかめっ面で顔を赤くする。まるでこの紅葉たちのように。こうして夜風コーヒーは、るかちゃんも加入して完全体となった。
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