第62話:原爆ドーム前でチャリティーライブ、とうろう流し(7曲目『ギバー』(オリジナルソング))
宇品るかちゃんとの出会いで、自分が今まで書いた詞を薄っぺらい歌詞、ありふれた言葉だと感じるようになる。
「好き」や「愛してる」や「頑張れ」いうワードは使わないソング。
だったけれど、次の新曲にはそういうのからさらに外れた、何らかの改良の余地が必要と感じる。
《あんな感じの名曲を作るには、どうしたら良いんだろう?》
と、わたしは思う。
新曲のことばかり考える。
出だしから圧倒させるさなちゃんの考えたメロディ。
人々に突き刺さるような歌詞、心奪われる歌声。
ベッドの上で、まるで胎児のようにうずくまるわたしは、¨チャリティーライブ¨をスマートフォンで知る。
八月六日、一九四五年に広島に原子爆弾が投下された日。
原爆ドームの前で、プロのミュージシャンが演奏をする。
演奏する曲は、もちろん平和をテーマにしたものだ。
わたしは、さなちゃんたちに相談して、「平和の曲を作りたい」と言う。
彼女たち二人は、やはり広島県民だから、あの日を弔う気持ちはとても強い。
彼らのように、「平和をテーマにした曲を作ろう」という方向に舵を取る。
――チャリティーライブは、八月六日の夜に行われる。
原爆投下から八十年を迎える。
わたしは先ほどのことを脳内で映像として思い出すと、
『こんばんわ、みなさん。夜風コーヒーです。今回、演奏する曲は、わたしなりに考えた平和をイメージした歌詞です。聞いてください。『ギバー』』
わたしは粛々と言うと、後ろを向く。
えまちゃんの静かなカウントで演奏を開始する。
いつも通り、その練習スタジオ内で演奏した光景は。
動画に撮ってユーチューブに投稿した。
【怒りは生きる力
それを撒き散らしてはいけない
恨みより愛を与えるギバーになれ】
この曲の気に入っている部分は、アンプやエフェクターで一切、歪ませないところだ。
さなちゃんのアルペジオが美しく、シンセサイザーで幻想的に仕上げている。
世界中のみんながギバーになれば、きっと世界平和が実現すると信じて書き上げた。
――わたしたち観客は、プロのミュージシャンたちに優しく拍手する。
次に続くプロの演奏に耳を傾ける。
彼らも同様に平和への思いが溢れた曲で、胸が暖まる。
その後、平和記念公園へ移動する。
元安川で、¨とうろう流し¨をする。
それは色紙に平和へのメッセージをつづる。
とうろうを組み立て、ロウソクに火を灯し、川へ流す。
青色、赤色、黄色、緑色、オレンジ色と、様々な色が流れてゆく。
美しい光景というよりは、ホタルの光のように刹那的だ。
原爆のあまりの熱さで水を求め、この川へ飛び込んで死んでいった者たちを想像する。
わたしたちは、あの悲劇がこの地球上で二度と起きないように祈った。
三日後の八月九日、長崎県への原爆投下も午前十一時二分、黙祷した。
最後までご覧いただき、
ありがとうございました
※2025.4.29
主人公たちが原爆ドーム前で演奏する、
というのはどうも非現実的なので、
観客ということに変更しました




