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第57話:クリスマスイブ・ユーチューブライブ&新幹線タルボ

 クリスマスイブ。

 街が、色彩豊かなイルミネーションで、聖夜を盛大に迎えているこの夜。

 家族でごちそうを食べている中、カップルが手を繋いで外出している中。

 空から美しい雪が降って街を白く染めている中。


 わたしたちは、比治山楽器店の地下室。

 いつもの練習スタジオで、¨クリスマスイブライブ¨。

 と題して動画撮影をしようとしている。


『メリー・クリスマース。こんばんわー。視聴者さんは何歳まで、サンタさんを信じてましたかー?』

「いきなりか、あんた。おい、そういう話は、まだ小学生の子が見てるかもしれないから、やめとけよ」


 と、るかちゃんはわたしの肩に触れる。


『ちなみにわたしは、¨五歳¨まで信じてましたー』

「早いわ。早すぎるわ、おい。何があったんだよ」


 彼女は、右手をパーの形にした、わたしの肩を軽く押したのでよろける。

 ゆったりとマイクスタンドの前に立ち直すと、


『クリスマスイブの前日にですね』

「あぁ」

『幼稚園の同じ組の女友達と、『サンタさんに何をお願いした?』と、話題になったんですよ』

「あぁ」

『その時、すっごく性格が冷めた男子に横から、『サンタはお前のお父さんだからな』と突然、言われて』

「うわぁ、最低だなそいつ」

『それでわたしは、深夜まで頑張って起きて、帰宅した父に問い詰めたんですよ』

「まだ幼稚園児だから、訊きたくなるよな」

『そうしたら父は』

「あぁ」

『『だだだ、誰がいいい、言ったんだよ!? ななな、何時何分何秒、ちちち、地球がななな、何回、回った時!?』と、言って』

『めっちゃ動揺しとる。しかも返し方が小学生か』


 と、えまちゃんがツッコむ。


『そして、クリスマスイブの夜を迎え、わたしは寝たふりをしまして』

「……あぁ」


 と、るかちゃんは言う。


『ですが寝てしまって』

「寝たのかよ」

『翌日、『さむっ!?』と、言って目が覚めて、右の方を見ると窓が開いていたんです』

『ほぉ』


 と、えまちゃんは言う。


『窓辺へ向かうと、お手紙とプレゼントが置いてあったんです』

「……なるほどな」


 と、るかちゃんは腕を組む。


『それで階段を下りて、リビングで朝食を食べている父に、わたしは――』

「あぁ」

『『何なんですかあの人!? サンタさん居るじゃないですか!?』と、怒鳴って』

「……は?」


 るかちゃんは、口を半開きにする。

 眉間のしわを寄せる。


『『お父さんがサンタさんなわけないじゃないですか!? 何で子供を騙そうとするんだ!?』と、さらに――』

「いやその男の子も子供だろ。当時のあんたも」

『えー、ですからみなさん。今回はテクノジャズアレンジということで。一曲目『メタリックレッド』です。新井さん、さっさと移動してください』


 るかちゃんは、「うるせぇな。何だこいつ」と。

 怒り顔で呟きながら部屋の隅へ素早く移動する。

 聖夜の夜に似合う、おしゃれなジャズをわたしたちは奏でる。

 いつも以上にベースをウッドベースの音のように近付ける。


――今まで演奏した曲をすべてやり切ると、視聴者にお礼を言う。

 スマートフォンの動画停止画面をタップする。

 喉を潤すために水をたくさん飲んだ。


 コメント欄では、「とても癒された」「孤独感が緩和した」「ベースの音が良かった」と評される。

 それがとても嬉しかったし、未だに自分たちの音楽ジャンルが本当にテクノなのか。

 わからないけれど、今回のテクノジャズアレンジは音で夜を表現しているわたしたちにとって、傾向が少しだけわかった気がする。


 わたしは怒った時でも、悲しい時でも、楽しい時でもたくさん食べる食いしん坊だけれど、その時と同じくらいの心地良さがある夜だ。

 もはや音楽は甘いお菓子、焼きたてのパン、炊き立ての白米だ。


「もえちゃん、¨新幹線タルボ¨って知ってる?」


 その後、比治山楽器店のビル二階。

 さなちゃんの自室でクリスマスパーティーをする。

 毎度のことのようにケーキもえまちゃんの自作で美味しかった。


「新幹線タルボ?」

「東海楽器さんが東海道新幹線とコラボして、新幹線のアルミをリサイクルした『Re:A-700 Talbo』を発売したんだ。新幹線開業六十周年だけに六十本限定で」

「え、マジですか?」


 わたしは自分の灰色のスマートフォンを取り出す。

 東海楽器公式ツブヤイターアカウント。

 今年の十二月二十日の投稿を見る。


 それは現行品には無いカラーだった。

 正確に言えば初期にはあった色が復活した感じだ。

 ボディはホワイト、ブルーの線が入っている。

 一目でタルボで新幹線を表現したデザインになっている。


「さなちゃん、良かったですね」

「うん。早速、予約してみた」

「え、買うんですか?」

「うん。けど、三日で予約満了になったから必ず手に入るとは限らないけどね」

「価格が三十三万か。でもなんかアレだよな。鉄オタはギターに興味なくても欲しいかもしんないけど、何割かが転売ヤーが予約してさ」

「ネットオークションで五十なんぼとかで出るじゃろうね」


 と、るかちゃんが同じく自分の紫色のスマホを見ながら言う。

 えまちゃんもピンク色のスマホで見て苦笑いする。


「その可能性は高いだろうね。もちろん転売から買う気はまったく無いよ」


 その後、さなちゃんから話を聞くと東海楽器さんからメールが来たらしい。

『誠に残念ながら購入権利は用意できませんでした』とのことだった。

 それに彼女は、相変わらず無表情で、


「まぁでも私には、メタリックレッドの相棒が居るからね。もしも購入権利を得てもこの子が嫉妬するから良かったと思う」


 彼女のその言葉にわたしは、本当に一途で素敵な人だと思った。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました


※2024.12.25

新幹線タルボを追加しました

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