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第54話:3人の将来の夢&自分の夢

「毎日、曲の練習するのも良いけど、一応、受験勉強しねぇとな」


 お昼休憩の途中で、るかちゃんはそう言う。

 彼女はこの頃、休憩時間の間も机の上に、参考書を広げて勉強をしている。

 それは他のクラスメイトも同様だ。


「……え、みんなって大学に行くんですか?」


 と、わたしは我に返り尋ねる。


「いや、このまま音楽活動ばかりし続けるわけにはいかねぇよ。進学したり、就職活動する必要はあるだろ」


 と、るかちゃんは答える。


「わたし、大学に行けるんですかね? あの、音大って勉強がまったく出来なくても入れますか?」

「……え?」


 るかちゃん、えまちゃん、さなちゃんは同時に言ったので被る。

 彼女たちの箸を持つ手が、まるで氷漬けにされたかのように止まる。


「もえちゃん、九九ゆえる?」


 と、えまちゃんは尋ねる。

 ノートに書いた計算式を見せる。


「この図形の面積の求め方できる?」


 と、るかちゃんもノートに書いた図形を見せる。


「分数の割り算できる?」


 と、さなちゃんも尋ねる。

 彼女もノートに書いて見せてくる。


「……わかりません」


 と、わたしは間を置いて答える。


「水は何度で沸騰する?」

「物が燃える条件は?」

「おしべとめしべの違いわかる?」


 と、先ほどの順番で三人は尋ねる。


「……わかりません」


 わたしは顔が赤くなり、まるでアニメの表現みたいに頭が沸騰しそうになる。

 つむじから白い湯気が出て、最終的には穴が空き、プシューと音が鳴り続ける。

 そのようなイメージが浮かんだ。


「……もえちゃん、どがいにしてこの高校、入れたん?」


 えまちゃんは苦笑いすると同時に、とても険しい表情をしている。

 わたしをバカにするわけでもなく、純粋にどうやって入学できたのかが知りたい様子だ。


 わたしは、テストが¨マークシート¨で行われるので毎回、赤点ギリギリだと伝える。

 そうすると入学試験もその方法を採用しているので、彼女たちは納得する。

 奇跡的に答えを塗りつぶしたのだと。


「ですがどうせもうダメなので、星マークとか、ハートマークにしたりですね!」


 わたしはノートに、その模様の他にたくさん書いて笑顔で見せる。


「何でそんなことして、赤点にならねぇんだよ!」


 と、るかちゃんはツッコむ。


「まぁ、進学せずに楽器屋さんで働き続けますよ。わたしなら」


 と言うと、置いた箸を持ち、食べることを再開する。

 今日もご飯が美味しくて幸せだ。


 けれど、将来に楽観的なわたしを、彼女たちは心配する顔をしている。

 なので話題を変えようと思う。


「えまちゃんは、どんなお仕事がしたいんですか?」

「うち? うちは、保育士さんになろうかなって。じゃけぇ卒業後は大学で、そういう学科を受けようかって」

「へぇ、保育士さんですか。絶対、向いてますよ。るかちゃんは?」

「あたしは短大に進学して、卒業後は出版会社の仕事。本が好きだから」

「るかちゃんらしいですね。さなちゃんは?」

「私は音響の専門学校に進学して、そこを卒業したら、実家の楽器店を継ぐつもりだよ」

「そうなんですね。そうしたら、さなちゃんと一緒に働けますね!……楽しみですね」


 わたしが笑顔でそう言うと三人は多少、心配しなくなった様子だ。

 はじめて彼女たちの将来の夢を訊いて、応援する気持ちになる。


 一方でわたしには、夢なんて無いことに気付く。

 強いて言えば、音楽で食べていけることか。

 しかし安定しない職業には天国か地獄しかなく、それが悲しい。


 けれどわたしは、ベースが大好きだ。

 楽器店で働けることは、天職だと思っている。

 この情熱だけは誰にも負けない。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました

ブックマーク、ありがとうございます

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