第51話:文化祭ライブ1(広島を代表するもの)
今年の文化祭の出し物も、人気のボサノヴァ喫茶に決定する。
被服部の子が作った新しい制服が、かわいさがアップデートされている。
さなちゃんのオリジナルのボサノヴァソング。
それも去年よりもさらにクールに仕上がっている。
今年もわたしたちのバンドが、一番最初に演奏する。
――けれど当日の朝、路面電車が自動車とぶつかり、運行が一時停止になる。
けれど幸いにも怪我人も死者も出ない。
仕方ないのでバスに乗ろうとしても、路面電車に乗る人たちが。
いつもよりも多く利用するので、バス停はかなりの行列が出来ている。
並び続けても、すぐに満員になるので、これでは乗車できない。
これでは学校に行けない。
わたしたちは広島市内中心部を、駆け足で向かうことにする。
通勤、通学する人たちを上手く避ける。
「何か……!」
と、わたしは言う。
「あぁ」
と、るかちゃんは返す。
「『EDで走るアニメは神アニメ』みたいなジンクスみたいで、わたしたち、マジでアオハルじゃないですか……!」
「知らねぇよ」
数十分後、だいぶ遅刻して校門を抜ける。
わたしたちはかなり疲れた。
それはわたしたち以外にも多く居て、今年の文化祭は、
「……はぁ……はぁ……何か今年は、疲れた顔してる人、多くて逆に面白いですね」
わたしは、両ひざに手をつく。
「……はぁ……はぁ……面白くねぇよ……」
るかちゃんも息遣いが荒い。
「……はぁ……はぁ……けれど、到着できて良かった」
と、さなちゃんも。
「……はぁ……はぁ……こういう時こそ、公共交通機関のありがたみを、しみじみと感じるわぁ……」
と、えまちゃんも。
教室に入り、クラスメイトにあいさつする。
彼ら彼女らも疲れて、返す声も弱々しい。
新しい制服を着たウェイトレスの子たちの表情は、まるで曇天のようにどんよりとしている。
澄んだ秋空に相反して。
わたしたちは体育館へ向かう。
リハーサルは問題は無い。
順調だけれど、とにかく疲れている。
保健室で何時間か横になりたいぐらいだ。
――しかし、何とか眠気に耐えて、本番も無事に迎えられる。
『こんにちはー。夜風コーヒーです』
と、わたしは体育館のステージ上、マイクで言うと、
『えーとですねぇ、わたし、子供の頃からずっと気になっていて、考えていたことがあるんですが』
『何?』
と、えまちゃんは尋ねる。
『《広島を代表するものは何だろう?》と』
『そりゃあまぁ、お好み焼きとかカープとか原爆ドームとか宮島とかじゃろ?』
『まぁわたしの場合、呉さんという――』
「呉!? 私のこと!?」
と、最前列に居た、わたしのバイト先の先輩。
呉さんが大声で反応する。
彼女はステージを両手で掴む。
わたしたちを満面の笑みで見上げている。
『……いえ、あの、呉さん……』
と、えまちゃんは苦笑いする。
「何で呉さんが居るんだよ」
と、観客のるかちゃんはツッコむ。
『わたしが呼んだので……!』
「呼ぶなよ」
『それで話を戻しますが、広島を代表するものは、奥田元宋という画家の真っ赤な紅葉の絵画だと思うんです』
「呉さんじゃないんかい。……まぁ、奥田元宋ねぇ。確かに広島を代表する画家じゃけぇね』
『それにしてもいやぁ、またこの舞台に立つことが出来ましたよ。どうですか、菊池さん?』
すると、えまちゃんは腕を組むと、
『まぁね、さっきは電車が事故って大変じゃったけど、負傷者も死者も出なくてえかったわ』
『菊池さんは自動車免許を取ったら、最初に買う車の色は決めていますか?』
『車の色? ほぉね、白とか?』
『え、広島県民なのに赤を選ばないんですか? カープレッドですよ?』
『いや、別に広島県民じゃけぇって、赤い車に乗らんやいけんことないじゃろ?』
『それはいけませんよ?『広島県民は、真っ赤な車を所有する義務がある』と、法律で決められていますからね』
『何なんその法律? うちはええけど、他の人は自由に選ばせんさいや』
と、えまちゃんは言うと続いて、
『ねぇ、この漫才みたいなMC、毎回やるつもりなん?』
『え? これって漫才なんですか?』
『漫才じゃろどう見ても』
『このMCは、菊池さんの緊張をほぐすためにやってたつもりなんですが?』
『あぁそうじゃったん? ありがとう』
『……まぁ本当は、菊池さんにツッコまれるのが快感になったので、わたしがやりたいだけなんですが』
えまちゃんは身体をガクンとさせる。
わたしは首を傾げると正面を向く。
さなちゃんも、『ちょっと変態みたいだから、もう言わない方がいいよ』と呟く。
わたしはうなずき、マイクスタンドを掴むと、
『この曲は作詞も作曲も、森下さんなんです。聞いてください。『メタリックレッド』』
わたしはドラムのえまちゃんの方を見ると、カウントを目で合図する。
彼女は呆れ顔でうなずき、「ワン・ツー・スリー・フォー」と声を上げる。
ハイハットペダルを踏み鳴らす。
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