第49話:とうかさん大祭3(5曲目『共感と共有』(オリジナルソング))
中央通りが歩行者天国になるのは、十九時半からだ。
その前にとうかさんのスタッフさんが、車道の上にギターとベースアンプ、ドラムセット、マイクとスピーカーの設置をしてくれる。
それが終わると、一組目のバンドが演奏をする。
去年、プールで披露していた、あのサーフロックバンドの女の子たちだ。
相変わらず、夏の音楽を奏でる。
演奏が終わると、浴衣姿の観客は拍手する。
スマートフォンで写真を撮っていたり、動画を撮っていたりしている。
最後、わたしたちが演奏する番になる。
楽器とアンプにシールドを接続。
三脚を立てて、スマートフォンを装着し、動画を撮る。
――各自の調節を行うと、わたしはマイクスタンドを掴み、
『こ、こんばんわー。夜風コーヒーです。普段はお洋服姿のみなさん、浴衣姿がとてもかっこいい、かわいいですねー!』
と、言うと観客は、歓声を上げる。
さすがに一組につき一曲だから、まだまだ元気がある。
『それで話は変わるんですが、この世で一番悪い人って、菊池さんみたいにSNSに料理の画像を、投稿してる人だと思うんですよ』
わたしは、えまちゃんの方を見る。
彼女をカープ選手のお名前から拝借することに変更はない。
もちろん、さなちゃんも森下さんで、わたしは大瀬良さんだ。
『いや何でよ。もっと悪い人、いっぱいおるじゃろ』
と、彼女はツッコむ。
『何でいつも夜中に投稿しているんですか? 食べている最中でも良いと思いますが?』
『いや、そうしたらうちら家族が、今そのお店で食べてるって、特定されるけぇよ』
『ご存知ですか? 深夜帯に料理の画像を投稿することを、¨飯テロ¨と呼ぶんですよ? 菊池さん、テロリストですよ?』
『……あぁ、わかったよ。無自覚でしとったけぇ、そんなつもりで投稿してなかったんよ。今後、気を付けるわ』
『本当に気を付けてくださいよ? 次やったら、この間の菊池さんのバッティングセンター動画を投稿しますからね?』
『それはホンマやめて? 演奏動画チャンネルで急にそがいなもん出したら登録者が減るけぇね?』
『それでは聞いてください。『共感と共有』』
『……何でいっつもオチが雑なん? もうええわ……はいワン・ツー・スリー・フォー』
――えまちゃんがいつも通り、ドラムスティックでカウントすると、新曲を演奏する。
【共感と共有
それが無いと人は残酷になる
共感と共有
それが無いと人は別れる
共感と共有
それが無いと離婚に繋がる】
この曲の気に入っている部分は、さなちゃんの¨ギターシンセ¨による音色だ。
このお祭りの雰囲気をより一層、和風なピコピコ音で江戸時代を感じさせる。
彼女が事前に録音した通常のギターの音も流し、この歌詞を明るくしているところだ。
――演奏後、拍手を浴びると、わたしはお礼を言う。
こんな歌詞を歌ったけれど、意外と受けが良かった。
「まだまだこのお祭りを存分に楽しんで、盛り上がっていきましょう」と、言うと、観客はノリが良いので、大きな歓声を上げている。
それから、こんなことが起きる。
あの呉さんがタコ焼き屋から離れて、わたしたちの演奏を聞いてくださったのだ。
「あなた、モデルになりませんか?」
と、呉さんは、るかちゃんに言う。
「ならない」
るかちゃんは迷いなく断る。
「なら、女優になりませんか?」
「ならない」
「なら……」
呉さんは、少し間を空けると良い声で、
「私の家に住まないか?」
「いやそこは、『プロのピアニストにならないか?』って言う流れだったでしょ、完全に。何であんたの家に住まなきゃいけねぇんだよ」
「もういい! 私、帰る! ついてくるな!」
「ついて行かねぇよ」
呉さんは泣きながら、叫んでこの場を去る。
その背中をるかちゃんは冷たくツッコみ、見えなくなるまで目で追う。
数日後、忘れっぽいえまちゃんは、また飯テロ画像を投稿。
わたしは予告通り、彼女のバッティング動画をネットの海に放流。
それが皮肉にも過去最多の高視聴率を叩き出した。
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