第48話:とうかさん大祭2(呉さんのタコ焼き屋)
とうかさんでは、多くの露店がずらりと並んでいる。
定番の焼きそば屋、かき氷屋、金魚すくい屋、お化け屋敷など。
その中で、タコ焼き屋があるのを、るかちゃんが見つける。
彼女は買おうとして近付くと、
「いらっしゃいませー! いかがですかー?」
と、またしても店員さんは笑顔の呉さんだ。
彼女は額に白いタオルを巻き、タコ焼きピックを操り、作っている。
「あんた、どこにでも居るな」
るかちゃんは鼻で笑ってそう言う。
「楽器屋のバイトだけだと、生活が苦しいので!」
と、彼女は苦笑いする。
「でしょうね。買うよ」
「六個入り、¨五千円¨です!」
「ゼロが一つ多いわ。五百円でしょ?」
「ごっ、五百円です!」
「はい」
るかちゃんは、お財布から五百円玉を取り出して渡す。
「丁度いただきます! ありがとうございましたー!」
呉さんは、笑顔で頭を下げ、タコ焼きを手渡す。
「いただきまーす」
るかちゃんは、爪楊枝で刺して一つ食べる。
「……ん?……は?……」
ところが、彼女は首を傾げる。
咀嚼して飲み込むと、
「ちょっとちょっと」
と、呉さんに近付く。
「はい?」
彼女は、きょとんとしている。
「これタコ、入ってないじゃん」
「あぁ、¨入れてない¨んです」
「……は?」
るかちゃんは、口を半開きにする。
「タコは入れてないです」
「何で?」
「私がタコが苦手ですので!」
彼女は、笑顔で何度も頭を下げる。
「いや、あんたが苦手とか関係ないわ。タコ入れろよ」
るかちゃんは彼女を指さす。
「いえ、タコ抜きの¨焼き¨だけを味わってもらおうと、作っているので!」
「知らねぇよ。タコ入れろよ」
「ですから、タコは無いんですよ!」
と、呉さんから笑顔が消え、眉を寄せる。
ピックを動かす手も止まる。
「無いんだったら、『タコ焼き屋』って書くなよ。詐欺だろ」
るかちゃんは、頭上のテントを指さす。
「『タコ抜きのタコ焼き屋』にしたら、お客さんが寄って来ないじゃないですか!」
「その考え方がマジもんの詐欺師だろ」
と、るかちゃんはツッコむと「金返せ」と、右の手の平を前に出す。
「それは出来ません!」
呉さんは、さらに眉間にしわを寄せて言う。
「何でだよ!」
るかちゃんは、勢いよく手を振る。
「お客さん、お一つ食べましたよね!」
「じゃあ残りの五個を返すから、この五個分の金返せ」
「……え?」
呉さんは首を傾げると数秒間、変な間が出来る。
るかちゃんはタコ焼きをびしびしと指さすと、
「いやだから、あたしが食べた一個はもう金払ったってことで良いんだよ。だからこの五個分の金返せ」
ゆっくりと説明する。
すると呉さんはまた「……え?」と言う。
正直、わたしも彼女と同じくわからない。
「いやだからね? あんたが言う『お一つ食べた』って言い分はわかったから、もう終わった話にするんだよ。だからこの五個分の――」
「……え?」
「何でわからないんだよ! じゃあこの六個入り五百円のタコ焼きは、一個あたり幾らなんだよ?」
るかちゃんは激しく怒鳴ると、呉さんは申し訳なさそうな顔で、
「いえ、バイトなんでぇ……」
「『バイトなんでぇ』って何だよ。無責任で腹立つし、二度と言うな」
「それならもう五百円をお返しするので――」
「いやだからね? こっちは五個分の金を返してほしいわけよ」
「いや、そういうわけにはいかないのでぇ……」
「そういうのもクソもねぇんだよ。なぁ、いつまで続くんだこのくだり? こっちは筋を通したいんだよ」
「それなら今回は無料ということで大丈夫――」
「大丈夫じゃねぇってつってんだろ!」
「本当に美味しいので、タコ抜きの虜になってください!」
「ならねぇよ!……もういいわ、いらないから返す」
るかちゃんは、タコ焼きを彼女の胸に押し付ける。
「あ、ちょっと……食べ物を粗末にするなー!」
「うるさいわ」
「るかちゃんが食べないなら、わたしが食べますよ!」
と、呉さんから受け取り、一つ食べると、
「……うんうん、とても美味しいですよ!」
口に手を当てて言う。
「そんなわけないだろ。タコが入ってないんだから」と、るかちゃんは言う。
「いいえ?¨チーズ味¨ですよ?」と、わたしは言う。
「……チーズ味? おい、タコ抜きなんだろ?」
るかちゃんは、また呉さんに尋ねる。
「そうですよ?」
「チーズ味って、どういうこと?」
「タコの代わりに様々なチーズを、五個に入れてあるんです!」
「お前タコ抜きの虜になれって言っただろ!」
その後、わたしが、「さなちゃんとえまちゃんにもあげても良いですか?」とるかちゃんに訊くと、まだ彼女は怒りながら、「勝手にしろ!」と答えたので、残りは三人で食べた。
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