第37話:ベースが上手く弾けるようになるには?
「先輩、どうしたらベースって、上手く弾けるようになれますか?」
わたしは楽器店のアルバイト中に尋ねてみる。
新しく入荷されたベースを開封して、展示し終えた時に。
今はお客さんが居ないので、少しぐらいのこの会話は許されるはずだ。
「ベースもギターも……¨猫¨と似ています」
と、呉さんは、相変わらず上品なお声で言うと続いて、
「頭を撫で続けたら急に噛んできます。ギターも弾き続けたら、弦で指の皮が切れます」
彼女は頭を撫でる、指の皮が切れる手振りをして、
「ですが、そういうところが愛くるしいですよね?」
手を銃の形にして、楽器店の天井に向け、
「つまりギターは猫です!」
と、新しく入荷された、別のギターを勢いよく指さして叫ぶ。
すると、お客さんがご来店なさった。
なので、わたしたちは気持ちを切り替えて対応する。
「ということなので、わたしもさなちゃんも、いつの間にか猫を飼っていたんですよ!」
次の日の休日、練習前にわたしは言う。
呉さんに教わったことをバンドメンバーに対して。
灰色のベースを撫でながら。
「何言ってんだよ」
と、るかちゃんはツッコむ。
それでもわたしは、いつもの曲の合わせが終わる帰宅後、ベースを猫のように扱うことにする。
今まで指が痛くなると練習をやめていたけれど、その痛みを耐えて弾き続ける。
「……痛っ……!」
――すると、薬指に激痛が走る。
皮が白くなっていて、指紋が消えかかっている。
他の指も同じく、押さえていた弦のあとが残っている。
ついに皮が切れる。
そこから赤い血が少しだけ溢れる。
わたしは左手首をつかみながら洗面所へ向かうと、水で血を洗い落とす。
そうすると、
「……くっー……痛ったいなぁ……」
水で傷口がしみる。
眉間にしわを寄せ、片目を閉じる。
祖母に頼んで、傷薬を塗って、絆創膏を貼ってもらう。
わたしはお礼を言う。
「……弾き辛いけど、まだまだ練習は出来るんだ……」
絆創膏によって、薬指で押さえた弦の強弱がわからなくなる。
その上、他の弦に当たり、押さえ辛くなる。
――けれど、そんな悪い状況下で、しばらく弾き続けると、
「……これで……こう……こう……こうだ……やったぁー! 弾けるようになった!」
わたしは座布団から勢いよく立ち上がり、大喜びする。
ガッツポーズを取りながら、ふらっと後ろにあるベッドに背中からダイブする。
とてつもない達成感、今までにない体験。
わたしの体に感動という波が、押し寄せて来る感覚。
興奮のあまり呼吸が荒くなる。
翌日、そのことをメンバーに報告すると褒めてくれる。
しかし、他にも弾くのが難しいベースラインたちが待ち構えている。
それでもわたしは、さらに弾けるようになると約束する。
――数日後、薬指の皮も元通りになり、絆創膏を剥がす。
新しいにベースラインに挑戦する日々を送る。
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