表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/65

第31話:生まれてはじめてライブハウスに入った&さなちゃんと彼女の先輩たちとのライブ

 さなちゃんと尾道先輩たちが、ライブハウスで演奏する当日。

 その日は、クリスマスイブだ。

 わたしは場所がよくわからなかったので、彼女と待ち合わせをしている。


「あ、さなちゃん!」


 と、わたしは笑顔で手を振る。

 彼女はビルから出て来る。

 周囲は飲食店などがたくさんあるアーケード街だ。


 そのせいで一体、どこから入るのかがわからなかった。

 けれど、ようやくわたしは、そこから入ると理解する。


「もえちゃん、まだ入場時間じゃないけど、早く来たんだね。行こうか」


 と、さなちゃんは、案内してくれる。

 エレベーターのボタンを押す。

 狭いエレベーターの中へ入る。

 ライブハウスがある階のボタンを彼女は押す。


――その階に着くと、壁にはたくさんライブ予告。

 バンドメンバー募集のポスターなどが貼ってある。


「まだ入れないから、あと十五分、この廊下で待っててね」


 と、さなちゃんは、左腕につけている腕時計を見る。

 その時計のデザインは近未来的だ。

 時計本体が三角の形で、ケースは銀色、ベルトは黒革だ。


「それじゃあ私は、準備があるから行くね。はじめに演奏するからね」

「わかりました。頑張ってください!」


 彼女はわたしに手を振り、スタッフ以外、立入禁止の奥の廊下へ行く。


 わたしはデジタル腕時計を見る。

 時刻は十八時三十分、入場できる時間になる。

 わたしと後から来た成人女性は、ライブハウスへ入っていく。


「いらっしゃいませー」


 と、女性の店員さんは言う。

 よく見たら呉さんだ。


「あ、先輩。こんばんわ! ここでチケットを渡したら良いんですか?」

「もえちゃん、ここに来るんですね。はい、お預かりします」


 わたしはチケットを渡すと彼女は、


「ドリンクチケットは、ワンドリンク制で¨五千円¨です」

「え!? ドリンクって、ライブチケットよりも高いんですね。えーと……五千円……」

「五千円じゃねぇよ。ぼったくるな。お客さん、五百円ですよ」


 と、店長さんらしき成人女性がツッコむ。


「あぁ! 無かったのでライブ見れないかと焦りました! はい、五百円です!」

「はい丁度。こちらがドリンクチケットです」


 と、店長さんはそれを手渡す。

 わたしを礼を言って、先へ進む。


「……綺麗だなぁ」


 わたしはそう呟く。

 ライブハウスの壁は真っ黒だ。

 床も暗い色をしている。

 ステージの天井にある照明が、青く輝いていている。

 まるでイルミネーションみたいだ。


 わたしと一緒に入った成人女性は、最前列の左端で立って見ることに決めたようだ。

 それなのでわたしは、さなちゃんを間近で見れるように、最前列の右端に立つ。


 三十分後、たくさんの観客でいっぱいになる。

 尾道先輩の人気さにわたしは驚いた。


――すると、彼女たちがステージの上に立つ。

 女性の黄色い悲鳴がとてつもない。

 ベーシスト、ドラマー、キーボーディストも立つ。


 そして、今日限りのリードギターのさなちゃんが、わたしの至近距離に立つ。

 メタリックレッドのタルボが、照明に反射してかっこいい。


『いやぁ久しぶりだな、ここは』


 ボーカルの尾道先輩は、マイク越しにそう言う。


「何年ぶりなんですかー?」


 と、わたしは尋ねる。


『あー、八年ぶりくらいかな。まぁ今回、ここでライブする理由ってのが、あたしが最初に組んだバンドで演った所がここでさ。普段は東京で演るんだけど』

「へぇー」

『このハコは思い出の場所なんだ。広島に帰ったら、ここでライブしたかったんだ』

「そうなんですかー」

『ちなみにいつものリードギターは急用が出来たもんで、急きょ、中学の時に組んでた子に頼んでもらったんだよ。ありがとなー、さなー』

「さなちゃーん! かっこいいですよー!」


 わたしは灰色のスマートフォンで写真を撮る。

 彼女は、胸の辺りで手を振って返してくれる。


『あぁ、あと、さなは夜風コーヒーっていうバンドを組んでるから、帰ったら動画検索してみてくれよなー』

「うわぁー! 宣伝していただけるなんてとても嬉しいですし、助かりますー!」

『……ちなみにさっきから大声で言ってるその子は、夜風のベースボーカルだから……』


 と、尾道先輩は苦笑いをして、


『来てくれてありがとよ!』

「こ、こちらこそセンキュー……!」


 わたしは握り拳をかかげる。


『まずは一曲目だ! 聞いてくれ!』


 と、尾道先輩が曲名を言って、歌いはじめる。


――とてつもない迫力、ファンのノリ。

 文化祭の時とは違う音量に、わたしは圧倒される。

 特に尾道先輩の歌声は、


《これがライブハウス!……低音がすごくて、耳がおかしくなりそう! だけど……楽しい!》


 あっという間に彼女たちのライブは終わる。

 さなちゃんのギター弾く姿は、いつも以上にとてもかっこよかった。

 彼女たちはお礼を言ってステージから離れる。


 その後、二組目のバンドが演奏する。

 あんなにも居た観客は、かなり減り、窮屈でなくなって楽になる。

 その演奏の最中に、わたしの左肩が軽く叩かれ、


「あ、さなちゃん。お疲れさまです……!」

「お疲れさま。もえちゃんはまだライブ見ていく?」

「はい、せっかくなので、他のバンドも最後まで聞きたいです」

「そう。最後のバンドが終わったら、またここに戻るからね。私は先輩と話があるから。またね」


 彼女はわたしから離れる。

 わたしは前を向き、演奏を聞くことに戻る。


 そのバンドが演奏を終えると、わたしはドリンクを貰いに行く。

 呉さんは、他の観客に渡し終えたところだ。


「先輩、コーラください」

「こ、コーラですかぁ?……コーラは無くなってしまったのでぇ……」


 と、彼女はうろたえ、


「……すっ、墨汁すみじるで――」

墨汁ぼくじゅうだろ。何で持ってんだよ」


 と、店長さんはツッコみ、


「お客さん、すみませんが、コーラは本当にもう切れたので、烏龍茶でよろしいですか?」

「え? すみじるって読まないんですか?」


 わたしは思わずそう言って受け取る。

 すると店長さんは苦笑いする。

「お前もか」と言いたげな顔で。

 わたしは、またもや読み間違えに赤面してしまう。

 ドリンクチケットを渡し、お礼を言ってそそくさとステージの方へ戻る。


――三時間後、最後のバンドの演奏が終わる。

 わたしたちは拍手すると、彼らはお礼を言う。


 観客は帰る準備をしたり、一緒に来た友人たちと楽しく会話している。

 わたしは、物販の方が気になったので、そちらの方へ向かおうとすると――


「きゃっ!?」

「だ、大丈夫!?」


 と、観客の女性は叫ぶ。


「あ……足がぁ……棒になりました……」


 わたしは、ライブハウスの床に倒れてしまう。

 足がまるで蹴られたかのようにとても痛い。

 ずっと動かずに立ち続けていたせいだ。

 起き上がるのも難しい。


「あぁ、なるよね。とりあえず、座ろうか?」


 心配してくれた彼女に起こしてもらう。

 空になった烏龍茶のカップを拾う。

 氷も溶けて飲んだので、床に零すこともなかった。


 わたしは椅子に座り、彼女にお礼を言って、さなちゃんを待つ。

 スピーカーから流れる音楽に耳を傾けながら。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ