第29話:えまちゃんとるかちゃんは、いとこ同士&さなちゃんの先輩
「もえちゃん。うちとるかは、¨結婚式¨があるけぇ、二週間ぐらい休ませてくれん?」
と、練習前にえまちゃんは言う。
文化祭から一週間が経過する。
彼女は荷物を床に置くと、ドラムスティックを取り出す。
「結婚式ですか。おめでたいですね。ですが何で二人で?」
「うちらは、¨いとこ同士¨じゃけぇ」
「え、二人ってそうだったんですか!?」
と、えまちゃんのその発言に、わたしは驚く。
「ゆってなかった?」
と、彼女は唇に指を当てると、
「それとね、今回うちらの親戚が結婚するんじゃけどそれと同時に、余興でバンド演奏するのを頼まれたけぇ、るかと一緒にやることになったんよ」
と、後ろに手をやって言う。
「実は私も中学の軽音部の先輩に頼まれて、リードギターのサポートを頼まれたから、私もしばらく練習に来れない」
と、さなも、似たような用事を言う。
「さなちゃんのライブって、どこでやるんですか?」
「ライブハウスだよ」
「行きたいです行きたいです……! わたし、ライブハウス行ったことないので……!」
わたしは飛び跳ねる。
さらに笑顔になり、テンションが上がる。
前世は好きなアニソンのバンドがいた。
けれどライブには行けなかったし、ライブハウスなんて初体験だ。
「じゃあ、チケットを売ってるから、買ってくれないかな?」
「買います買います……! 全部、買います……!」
「いや、全部は買わんでいいよ」
と、さなちゃんはツッコむと、
「ありがとう。ちなみにチケットとドリンク代は別々だから、そのお金も用意しててね」
さなちゃんにチケット代とドリンク代の値段を教えてもらう。
チケットを貰い、わたしは笑顔になる。
――するとその時、突然、防音扉が開く。
ボーイッシュなお姉さんが入ろうとして、
「うわぁ、懐かしいな。まったく変わってないな」
「あの、お部屋、間違えてますよ? 出て行ってください」
「出ていけじゃないよ。あの方は私の先輩だよ」
と、さなちゃんはわたしをツッコむ。
その先輩はわたしに向かって右手を差し出すと、
「はじめまして、もえちゃん。あたしは尾道。きみと同じボーカルだよ」
「あの、嘘をつかないでくれますか? 今すぐ出て行ってください」
「何で信じんのん!? ホンマにさなの先輩じゃって!」
えまちゃんは、わたしの肩を軽く触れる。
尾道先輩は、「……こいつ何なんだよ」と言いたげな渋い顔で、さなちゃんとわたしを交互に見る。
「え、本当にそうなんですか?……す、すみません! 可愛川もえです……! は、はじめまして……!」
と、わたしは勢いよく何度も頭を下げる。
顔は真っ赤になり、熱くて仕方がない。
「よろしくね。じゃあ早速だけど、さな。練習しようか」
と、尾道先輩とわたしは今度こそ握手を交わす。
彼女は片目を閉じて笑顔で、
「……もえちゃんって、何か¨生意気なクソガキ¨って感じでかわいいね」
「尾道さん!? そりゃーひどいよ!?」
と、えまちゃんは叫ぶ。
「……良いですねそれ……。そろそろ新しい呼び名が欲しかったんです……。最高にロックです……あはは……」
「どこがロックなんだよ。ただの悪口だよ」
さなちゃんは珍しく憤り、わたしをそうツッコむ。
本当にロックだと思ったからじゃない。
大変失礼なことを言ったので、あえて乗ったのだ。
「さな、他のメンバーと話し合ったけど、明日からはここの別室で練習するから。それにしても懐かしいな」
さなちゃんの先輩の尾道さんはそう言う。
彼女は昔の頃を思い出したようで、鏡やアンプに何度も触れたりしている。
やがて、彼女とさなちゃんの練習がはじまる。
尾道先輩の歌声がプロレベルで驚いた。
なによりボーイッシュな見た目とぴったりな低めの声がかっこいい。
《ライブハウス……さなちゃんを観客目線で見れるの、楽しみだなぁ》
わたしはずっと、練習風景を椅子に座って眺めていたけれど、とても参考になる。
彼女のライブハウスでの演奏が待ち遠しかった。
最後までご覧いただき、
ありがとうございました
※2025.8.23
本来は、えまのお姉ちゃんが尾道先輩と来て、
えま姉が結婚式で歌うという流れでしたが、
前々から「人数が多すぎる」と思い、
シンプルにさなの先輩だけ初登場に変更しました




