第24話:文化祭の出し物は、ボサノヴァ喫茶&文化祭ライブの登場の仕方について相談
「メイド喫茶、お化け屋敷、自主製作映画の上映……他に案は無い?」
と、文化祭実行委員の女子が言う。
黒板に白いチョークで、それらを縦書きに書いている。
わたしたちの教室で、文化祭の出し物を決める会議が行われている。
「可愛川さんはまだ言ってなかったよね。何か良い案はある?」
「……え? そ、そうですね……ボサノヴァ喫茶¨?」
わたしは、あごに手をやって答える。
「ぼ、ボサノヴァ?」
文化祭実行委員の女子は苦笑いをする。
「メイド喫茶なんてベタすぎると思いまして。ここはボサノヴァを流してリラックス出来る喫茶店の方が良くないですか?」
と、わたしはさらに言う。
「あぁ……ええかも」
えまちゃんは笑顔で賛成の様子だ。
「もえちゃん、ナイスアイデア。私はボサノヴァも好きだから、有名曲には詳しいの。私が携わっても良い?」
と、さなちゃんは言う。
「いや、普通にメイド喫茶で良いでしょ。あたしは裏方やるけど」
そう言ったのは、かわいいギャルの風貌をした¨宇品るか¨さんだ。
彼女はえまちゃんの次に背が高く、どこか天邪鬼な性格だ。
わたしの方をまるで猫のように釣り目でじっと見るので正直、ドキドキする。
「えー、るか。ウェイトレスさんが絶対、かわいいし、似合うのにもったいないわ!」
と、えまちゃんは言う。
どうやら彼女と宇品さんは仲が良いみたいだ。
いつも一緒に登校しているのを見掛ける。
毎回、宇品さんの弁当はえまちゃん作だと聞いた。
「そもそも、ボサノヴァってどんな感じ? ジャズとどう違うの?」
と、宇品るかさんは頬杖をつく。
「私、被服部なんだけど、喫茶店店員の制服って作ったことないからチャレンジしてみたい! 賛成!」
彼女は席を立ち、黒板にイラストを描き始める。
女子と男子たちが、「かわいい!」と、叫ぶ。
「じゃあ、賛成の人は手を挙げてねー」
文化祭実行委員の子はそう言う。
わたしと宇品るかさん以外が挙手する。
正の字をたくさん書く。
「え、もえちゃん? 何で反対の時、手を挙げたん?」
「え、だって適当に言ったので、まさかここまで盛り上がると思わなくて」
「適当だったんかい」
と、えまちゃんはツッコむ。
「……あたしだけか」
と、宇品るかさんは、ぼそっと呟く。
頬杖をついて気怠そうに。
それが何だか気を悪くさせたようでわたしは謝ると、
「いや、みんながやりたいならそれでいいんじゃない? 別に謝る必要ないよ」
と、言ってくれたけれど、本当は不満だったはずだ。
わたしはただでさえギャルと接するのが苦手だ。
彼女も音楽が好きだと知って喜んだ。
昼食時に語り合ったこともある。
――彼女はピアノが弾けて、さなちゃんが、
『るかも夜風に入れたいね。シンセの音とかは私が毎回、パソコンで録音して流してるだけだから』
と、言った時は同感だった。
けれど、彼女は『バンドには興味が無い』と言う。
誘っても断られるだろうということで白紙になった。
それでも常に、《夜風にキーボードが居て、それが宇品さんだったらなぁ》と思う。
それなのに今回のボサノヴァ喫茶の多数決の一件で、彼女と不和が生じ、加入は実現不可能になった気がする。
その後、わたしたちのクラス一の三は、本当にボサノヴァ喫茶で決定する。
さなちゃんがボサノヴァのCDを幾つか持ってくる。
それを基に美術部とDIY部が協力し、インテリアの製作作業に入る。
予定通りに内装は完成する。
「お二人さん、文化祭の登場の仕方について相談しませんか?」
いつもの練習後にわたしがそう言う。
さなちゃんは赤タルボのネックをクロスで拭く手を止めると、
「……登場の仕方? どんな感じで?」
「たとえばロボットダンスで登場するとか――」
「何でよ。あれってこがいな感じでやるんじゃろ? めっちゃ難しいんよ?」
えまちゃんは、カクカクと動きながらツッコむ。
「それでしたら、松明を持って、灯油を口に含んで、火を吹いてみるとか――」
「いやそれ、松明よ。誰なんよ、¨まつあき¨って。体育館が火事なるわ」
えまちゃんは火を吹く芸をするふりをするわたしを、読み間違えをツッコむ。
ずっとそう言う風に憶えていたので、わたしは顔が赤くなる。
うつむいて一刻も早く顔の熱を冷まそうと、両手で必死に扇ぐと、
「……もう……普通に登場でええじゃろ?」
と、えまちゃんは苦笑いをする。
ちなみにコーヒーは、ドリップコーヒーに決める。
コーヒーカップ&ソーサーも定番の白色にする。
コーヒーのお供は、家庭科部がマドレーヌを作って提供することになる。
この黒い液体を機にわたしは、コーヒーを題材にした歌詞を書き上げる。
曲名は、『ブラックコーヒー』
何よりバンド名が夜風コーヒーだから、いつか書いてみたかった。
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