第23話:11月5日は、さなちゃんの誕生日
今日は十一月五日は、さなちゃんの誕生日だ。
十月になってようやく涼しくて過ごしやすくなる。
けれど、それが十一月になると風が寒くて仕方がない。
衣替えで冬服の制服を着たわたしたちは、さなちゃんの家のダイニングテーブルの椅子に座っている。
「さな、お誕生日おめでとう! うちはイチゴもみじ饅頭とホールケーキよ!」
「ありがとう、えま。あぁ……お皿とフォークありがとう、母さん」
と、さなちゃんは言う。
さなちゃん母がテーブルに人数分、用意してくれる。
先ほどえまちゃんが作ってくれた夕食を食べたので、これからケーキと共にコーヒーを頂く。
「おめでとうございます、さなちゃん! わたしは、《実用性があるものが良いな》と、思いまして、¨トイレットペーパー¨にしました。ご家族みんなで使ってくださいね!」
「何でトイレットペーパー!? 実用性あるにしてもありすぎるわ。さなが喜ぶもんにしんさいや」
と、えまちゃんはツッコむ。
「……もえちゃんらしいね」
と、さなちゃんは少し笑い、
「ありがとう。しかも十二個入りで助かるよ」
「喜んでいただけて良かったです! あぁそれにしても今年も暑かったですね……。わたしいつも思うんです。ベースの裏側にクーラーがついてたら、涼みながら弾けるなと」
「それ、どがいなベースなん……?」と、えまちゃんは苦笑いをする。
「……クーラーね。例えばタルボはアルミだから、冷たくて涼しいんだけど」
「え、ちょっとさなちゃん、頬ずりさせてくれませんか?」
「構わないよ。ちょっと自室から持ってくるから待って」
彼女は椅子から立ち上がる。
リビングを出て、自室へ入ると戻って来る。
メタリックレッドのギターを、わたしに手渡す。
わたしは、そのギターのボディに顔を当てる。
確かに自分のベースとは異なる感触と冷たさを感じる。
「……冷たーい……気付きませんでした。アルミボディだとひんやりしてますね」
「夏だったら良いけど、今みたいに秋、冬になったらキツいよ。じわじわとお腹と腕が冷えて、死にそうになるから」
と、さなちゃんは言う。
「それはそれで確かにキツいね。じゃけどそれでも、タルボを愛用するんじゃろ?」
えまちゃんは、笑いながらそう尋ねる。
「もちろん。これもタルボユーザーの修行、愛しい冷たさだよ」
「あぁ……ほんとにひんやりしてて気持ち良い……」
わたしはさらに抱きしめる。
「やっぱり、私みたいにアルミ素材が好きな人は少数派なんだろうね。タルボは発売された当時、不人気であまり売れなかったらしいから」
「え、そうなんですか? こんなにかっこいいのに?」
と、わたしはタルボのボディを撫でる。
「ちなみに発売当初のタルボは、現行モデルと作り方が違うらしいの」
と、さなちゃんは続いて、
「オークションとかでは状態が良いのが滅多に出ないから、コレクターは――」
「¨手から喉が出るほど¨欲しい感じですか?」
「喉から手が出るほどよ」
えまちゃんはわたしをそうツッコむ。
ずっとその言い方で憶えていたので、言い間違えに顔を赤くする。
するとさなちゃんが、気遣ってくれたように、
「私は幼少期からエレキギターが好きで、このタルボがここに入荷された時、その近未来的なデザインに衝撃を受けたんだ」
と、言ったのでわたしは、彼女にギターを返す。
彼女は優しくボディを細い指でなぞり、
「『この子は最高だよ』と、父に言って買ってもらったんだ。とても良いギターで、最高の相棒だよ」
さなちゃんのタルボ愛はとても深い。
話を聞いていてとても楽しい。
だから彼女のように、自由自在に使いこなせる人間になりたいと思う。
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