第21話:彼女の緊張を和らげるためのMC&川で泳ぐ女の子
『わたし、毎朝、学校に行く前にベースの練習を川で練習しているんですよ。家で音を出してするとお母さんに『うるさい』と、言われるので』
『……結構、頑張っとるけぇ、えらいわ』
と、えまちゃんは言う。
しかし、まだうつむいている。
『弾きながら川を眺めているとですね、色んな物が流れてくるんですよ』
『……まぁ、川にゴミを捨てる人とかおるし……』
『……練習三日目の時ですかね、いつもの綺麗な朝の時に、¨女の子¨が流れて来たんですよ』
『……はい?』
えまちゃんは、うつむくのをやめ、こちらを見る。
わたしはその時のことを、脳内で映像として思い出しながら、
『朝日に反射してキラキラと輝く川の水面を、バシャバシャとやっているのでわたしが、『大丈夫ですかー!? 溺れてますー!?』と、叫んだんですがその子は、『いえ、泳いでいるんです』と、冷静に答えて』
『……泳いでいる?』
『わたしは、『いやいや! どう見ても溺れてますよ! わたしが助けますから!』と、ベースを地面に置いて、服を着たまま川に入って、その子のところまで泳いだんです』
『……何やっとるんその子は……』
『それで無事、わたしはその子を助けられて、よく見ると確かに、スクール水着を着ているんです』
『……ホンマに泳いどったわ……』
『わたしは、『きみ中学生? 何で川で泳いでいたんですか? 何で学校のプールとかジムのプールに行かないんですか?』と、訊いたらその子は、『中学一年です。学校に水泳部が無いので、川で練習しているんです』と、答えて』
『……じゃけぇって川で練習するかね、普通……』
『その子、とてもかわいい子で、礼儀正しくてわたしは、『川で泳ぐのは危ないので、プールに行った方が良いですよ。それにわたしもきみの気持ちわかりますよ。よし、こうしましょう。水泳部を立ち上げたら良いですよ』と、言ったんです』
『そしたらその子、あごに手をやって、『……あぁ、作るという発想に至らなかったです。ありがとうございます。ちょっと先生に相談してみます』と、答えたんですね』
『……じゃけど水泳部が無いけぇ、たぶん作れんよね。プールが無いんじゃけぇ』
『いいえ?『学校にプールはあるんですか?』と、訊いたんですが』
『うん』
『即答で、『ありますよ』と』
『あったんかい!』
えまちゃんは大声でツッコむ。
『ありますよ? ですからわたしは、『でしたら、水泳部作れそうですね、頑張ってください』と、言ってその子とお別れしたんです』
と、わたしはえまちゃんの方を見るのを止め、正面を向くと、
『数日後、その子がまた川に来て、『あなたのおかげで水泳部が出来ました。ありがとうございます』と、報告を受けましたね。いやぁ、良い話ですねぇ』
『いや、何でプールあるのにその子の学校、水泳部が無かったんよ。あと川で水泳の練習するとか危険すぎるじゃろ。よく今まで無事じゃったね』
『それも理由を尋ねたんですが』
『うん』
『『そこに川があったから』だと』
『『そこに山があるから』みたいにゆうな』
『……どうですか? 菊池さん?』
『え?』
『緊張が解かれましたか?』
『え?……あぁ、もう緊張しとらんわ』
彼女は左手をぶるぶると振る。
もう暗い表情をしていないし、いつもの彼女だ。
この夏の太陽のように明るい気持ちにさせる女の子に。
『良かったですねー、菊池さん。これで本来のドラムの上手さが発揮できますよ。それでは聞いてください。『ハルジオン』』
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