第17話:生まれてはじめてベースの弦交換をした
「あの、作詞が出来ました。こんな感じの詞なんですが」
わたしは、灰色のスマートフォンを操作すると音声を再生する。
わたしの歌声、ベースの音が流れる。
聞き終えた二人の中で、先に感想を言ったのはさなちゃんだ。
「もえちゃんは、本当にすごいね」
「さなの言う通りじゃわ。うちらは歌が下手じゃけぇさ」
と、えまちゃんは、さなちゃんの方を見て、
「しかも作詞もええ感じじゃけぇ、さなの作曲に見事にマッチしとる」
「そう言っていただけるととありがたいです。わたし、作詞は普段からずっと思ってることを書いてるだけなので。さなちゃんの作曲が素晴らしいんですよ」
わたしは、笑顔でそう答える。
「それでも特に私は、¨シンプルな曲¨を目指しているからね。繰り返しの曲調、初心者でも簡単に耳コピしやすくて、覚えやすい歌詞に仕上がってるよ。もえちゃんのおかげで」
さなちゃんがそう褒めてくれる。
「はい! 親しみやすい曲ってこういう感じですからね!」
「うちも同感じゃわ。何より難しいドラムなんて叩けんし」
そうして曲練習をはじめると、ある程度の所まで出来上がった
なので、次のグループがこの部屋を借りる時間まで自主練習することにする。
椅子に腰を下ろし、それぞれ楽器と一対一になる。
「あの、弦交換ってした方が良いですか?」
と、わたしはふと尋ねる。
「ちょっと見せて」
さなちゃんが椅子から立ち上がり、わたしに近付く。
屈んでベースをまじまじと見ると、
「弦を押さえる場所も、指で弾く場所も黒ずんでいてもう錆びてるね。弦交換は大体、三ヵ月後に行うのが目安だけど、もえちゃんはするのははじめてだから教えるね」
さなちゃんは一旦、部屋から出る。
二階へ上がり、自室から弦交換に必要な道具を持って戻ってきてくれる。
「ペグを緩めてニッパーで弦を切るよ」
戻ったさなは、ギターネックスタンドという、弦交換に便利な物を説明する。
それを使用すればベースも斜めの状態にして、弦交換がしやすくなる。
スタンドを床の上に置く。
ベースのネックをその上に置く。
彼女は女の子座りだけど、わたしはしゃがんでいる。
「¨ストリング・ワインダー¨を使えば早くペグを緩めれるよ」
さなちゃんは、それも渡してくれる。
その黒色のくるくると回す便利グッズでペグを緩める。
あっという間に弦が緩んでニッパーで切れる。
わたしは、ボディや指板に当たらないように、傷がつかないように慎重に弦を外す。
外した弦を結び、処分するのでごみ袋に入れる。
「指板とボディの掃除もしたらいいよ。これがクロス、指板用のクリーナーとオイル、ボディ用のワックスのポリッシュ」
それらを手渡してくれたのでお礼を言う。
クロスにクリーナーを吹きかける。
一から二十フレットまで丁寧に汚れを取る。
クロスを見ると、汚れがごっそりと取れている。
フィンガーボード(指板)にオイルを塗る。
すると、つやつやになって綺麗になる。
別のクロスにポリッシュを吹きかける。
そうすると灰色のボディに艶が出来る。
ブリッジ(弦を支える部品)のホコリを拭く。
そのシルバーパーツが、本来の美しい輝きを取り戻す。
「綺麗になったね。じゃあ、弦交換ね」
と、さなちゃんは人差し指でさし、
「弦をここから入れてブリッジの上へ。ペグ穴(弦を巻く所)まで伸ばして。先端を折り曲げて一センチぐらいで切って穴へ入れて。弦が外れないよう指で押さえてペグを回して。巻く時、下へ下へ行くようにね」
「……難しいですね」
この作業には、強い集中力と指の微妙な力加減が重要になる。
特に弦を下へ巻く時の際、
「……あ、ごめんなさい。失敗しちゃいました。上に巻いてしまって。わたしって本当に不器用……」
「大丈夫だよ。これならまだ真っ直ぐに伸ばして戻せるから一旦、外そう」
わたしは苦戦する。
けれど、さなちゃんが寄り添って的確にアドバイスしてくれる心強い。
だからわたしは、諦めずに頑張って四本の弦をすべて張り替える。
「よし、終わったね。よく出来たよ。そして、チューニングを狂いにくくするために、十二フレットの辺りで弦を上へ伸ばして。……そう、その調子。最後はチューニングしてね」
彼女の言う通りに弦を一つずつ単音で弾く。
すると、まだ低かったり高すぎたりする。
――その作業も終えるとわたしは、
「ベースが買った時と同じくらい綺麗になりました! ありがとうございます、さなちゃん!」
「良かったね。私も弦交換しようかな」
「あ、手伝いますよ!」
そうしてかなりの時間を要したけれど、何とか無事に終える。
彼女の赤いタルボの弦交換を手伝った。
するとさなちゃんがお礼を言ってくれる。
わたしは、《次こそはさらに上手に、早く出来るようになろう》と、思った。
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