第11話:来世のはじめてのアルバイト先は楽器店
わたしは未だにアルバイト探しで迷っていた。
さなちゃんは喫茶店、えまちゃんは野球場で働いている。
なので、わたしも好きな場所を選ぶべきか?
それでわたしは、いつもの練習後に二人に対して、
「わたし、色んなバイトを探してるんです。少しでもおばあちゃんに借りた、ベースの十六万円を返したくて」
と、わたしは続いて、
「それでですね、さなちゃんの楽器屋さんで働くってこと出来ますか?」
「出来ると思うよ。ちょっと上にあがろうか。父に訊いてみよう」
わたしたち二人はスタジオを出る。
階段を上り、一階の比治山楽器店に入る。
店長さんのさなちゃん父にアルバイトのご相談をする。
――それから一週間後。
わたしは店長さんのおかげで念願のバイトが出来るようになれた。
昼食の時間、わたしたちは教室で食べていると、
「もえちゃん、お仕事どがいなん?」
と、えまちゃんは尋ねる。
「とても楽しいです。わたしベースが好きなので、好きな物に囲まれながら働くって最高です」
わたしは笑顔で、おにぎりを一口食べる。
「楽しそうで何よりじゃわ」
「はい、楽しいです。わたしお客さんに、『弾けないので弾いてみてください。音を比較したいので』と言われて、ベースを試し弾きすることが多いんです。その時につい弾けないコード進行の練習をしちゃうので最高です」
「いや、仕事中に自主練しんさんなや。お客さん困るじゃろ」
「その通りです。つい長く弾きすぎて、『……あの、そろそろずっと同じの弾き続けるのやめてくれませんか?』って言われます」
「いや、ついじゃないんよ。ゆわれとるじゃん」
「あとはお客さんのやりたい音楽のジャンルを訊いて、その音楽について長く語り合ったりしましてね」
「まぁでもそれ、お客さんに合うベースをおすすめ出来るから良いことだよね」
と、さなちゃんが言う。
えまちゃんは、「ええことかなぁ……」と腕を組んで首を傾げる。
「ですが、さなちゃんの言う通り、最終的にはお気に召したベースをご購入していただけるので、販売ノルマは達成していますよ?」
「もえちゃん、意外と商売上手じゃ!」
首を傾げるわたしに対して、えまちゃんはそう叫んだ。
ある意味、ベースが下手でも弾けるからこそ成し遂げられたことだ。
こんなダメ人間なわたしを雇って下さった店長さんには感謝している。
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