第10話:さなちゃんがバイトしてる喫茶店&生まれてはじめて服を買いに行った
数日後、練習終わりにさなちゃんがバイトをしている喫茶店に行くことにする。
アンティークな四人席に座り、右にさなちゃんが座っている。
わたしの正面には、えまちゃんだ。
コーヒーも店内に入った時から良い香りがした。
店名がプラスされたブレンドコーヒーを注文すると、数分後に運ばれてくる。
お味も機械で作られたものでは出ない人の真心を感じる。
「――今、ゆうのも何じゃけどさぁ」
と、えまちゃんはコーヒーを一口飲むと、
「もえちゃんの服、変じゃわ」
そう言われてわたしは、自分の首から下を見下ろす。
「わたし、自分で服買ったことないんです」
「ほいじゃあそれ、お母さんが買うたやつなん?」
「そうです」
わたしはそう返すと、彼女は苦笑いをしながら腕を組む。
「……ちょっとないわぁ」
「何が無いんですか?」
「センスが」
「え?」
「センス。ファッションセンス」
「¨パッションセンス¨?」
「パッションじゃないわ。ファッション」
「さなちゃん。わたしの服、変ですか?」
わたしは服の両端をつかんで隣の彼女に見せる。
すると彼女は慎重に言葉を選んでいるようで、表情を変えず少し間を空け、
「中学生っぽいかな」
「中学生? えまちゃんもそう思いますか?」
「何でさな正直にゆわんのよ。……でもまぁ、中学生じゃね……」
えまちゃんは腕を組み直すと、わたしを見て苦笑いをしているので、
「……あの、何がおかしいんですか?」
「いや、眉毛の件といい、ファッションも疎い感じじゃけぇさ。……何か」
「何か?」
「オタクっぽいなって」
「……オ、オタクですが、な、何が悪いんですか……?」
わたしは一気に顔が赤くなる。
「あぁやっぱそうなんじゃ。いや、悪くはないんよ」
「な、何ですか? 先日の眉毛の時のように、服までどうにかしたそうですが?」
「そがいに怯えんさんなや。前にもゆったけどさぁ、せっかくかわいいんじゃけぇ、服もええもん着た方がええよ」
わたしはまるで、寒さに震えるように両肩を両手で押さえる。
すると彼女は、テーブルの上に腕を組み、優しい表情と声で、
「ねぇ、今から一緒に服、買いに行こうや。それに黒い服しか着んけぇ、他の色も見たいわ」
「オタクは黒い服しか着ないんですよ」
「あぁそうなん?」
「何故ですか?」
「いや知らんよ。あんたがゆうたんじゃろ」
わたしはもう一度、黒い¨餓鬼Tシャツ¨を両手で端をつかむ。
見下ろし、そんなに中学生っぽくて変なのか? あまり実感が無い。
というより、たった今思い出したけれど母親は、
『これ、あんたに似合っとるけぇ部屋着にしんさい』
と言っていた。
つまりこれは外にお出かけして着るものではない。
恥をかかないように家の中だけで着るものだった。
わたしは今更それに気付き、顔が一気に赤くなると泣きそうになる。
それを見兼ねたのかリーダーのさなちゃんは、
「……まぁとにかく、えまはファッションセンスあるから、もえちゃんにぴったりの服を見つけてくれるよ」
「さなの服も赤ばっかじゃけぇたまには、白とか黒とか着てほしいんじゃけぇどなぁ」
と、えまちゃんがぼそりとそう呟く。
「黒はタルボのピックガードで足りてるから大丈夫だよ」
「……いや、そういうことじゃ……。まぁええわ」
わたしたちはコーヒーを飲み干し、喫茶店を出る。
えまちゃんがよく行く服屋さんに赴き、完全に任せる。
試着室で着替えるとわたしはさらに別人になった。
眉毛の時と似たような反応をすると、えまちゃんはどや顔だ。
さなちゃんも「かわいい」と褒めてくれた。
それが嬉しかったので、これからもえまちゃんに頼もうと思った。
――ちなみにわたしが選んだコーデを着て見せると二人は、
「……おじさん」
「……ちぃとこれはねぇ……」
と、さなちゃんとえまちゃんの順番で苦い顔で評価された。
わたしはまた顔が赤くなり、泣いてしまった。
もう自分で服を選ぶのが、恐怖を感じるぐらいトラウマになった。
「……おじさんだと?……わたしは前世も花も恥じらう乙女だったんですよ!」
「前世?」
と、二人は顔を合わせて首を傾げた。
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