表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

第1話:前世の記憶&一度も会話したことがないクラスメイトが我が家にやって来た

 わたし(可愛川かわいがわもえ)がエレキベースに興味を持ったきっかけ。

 中学一年生の春に英語の授業で聞かされた洋楽。

 その曲のエレキベースのかっこよさに心を奪われたからだった。


 それ以前のわたしは、アニメとゲームと漫画にしか興味が無いオタク女子だった。

 その曲のベースを弾いた動画をユーチューブで検索した。

 すると、偶然にもアニメキャラのコスプレをした、¨弾いてみた投稿者¨の動画を発見した。


――その時、わたしは¨前世の記憶¨を思い出した。

 わたしはメカメカしいその灰色のベースをかつて持っていた。

 けれど、持っているだけで弾くことはまったく出来なかった。


 自分が高校を卒業する前に病死したことも思い出した。

 家族と住んでいた昭和の頃に建てられた、ボロボロの賃貸のアパートも。

 だけどそれ以上はどうしても思い出せない。


 わたしはまた、《あの灰色のベースを現世で手に入れられたら》と思った。

 しかしそれはかなり険しい道だろう。

 あのベースを含めて何もかも、両親か妹が処分しただろうから。


 それでも誰かが手に入れた可能性があると思った。

 その日以来、同じあの色のベースがネットオークションに出品されているか。

 動画や画像が投稿されていないか毎日チェックした。


 それでも残念ながら発見することは出来なかった。

 わたしはひたすら同色のベースを弾いている、あの投稿者さんの動画を見続けた。

 そしてある日、学校から帰宅したわたしは母に、「エレキベースをはじめたい」とついに言ったけれど――


「エレキベース? ダメよ」


 首を縦に振ってくれない。

 その時のわたしは母の隣に立ちながら、調理風景を眺めていた。

 換気扇の音といい、その環境音が大きいので、両者とも少し大きな声で言った。


「え、何で?」と、わたしは尋ねた。

「近所迷惑にもなるけぇダメ」

「で、でも。調べたら、ベースアンプもヘッドホンをさせば静かだし……」


 わたしは、おろおろして言った。

 ジェスチャーもぎこちない。


「ダメ。それよりもはよ手を洗って来んさい。晩ご飯ももうすぐ出来るけぇ」

「……わかった」


 わたしは肩を落とすと、また前世の記憶を思い出した。

 状況が違うけれど、わたしみたいに中学生の頃。

 ギターを買えなかった¨おっさんの話¨を聞いたことがある。


 確かペンネームが、¨夜風紅茶よかぜこうちゃ¨という友達が一人も居ないクソザコのおっさんだ。

 大人になってから反動がすごく、ギターコレクターになってしまったきったねぇおっさんだ。

(※全世界のコレクターさんを批判しているわけではありません)


 今まで以上に軽音部のライブをわたしは真剣に見た。

 憧れると同時に、そのステージに自分が立つことはない。

 そんな現実に落ち込んだまま中学生最後の冬休みを迎えた。

 ストレスでいつもより食べすぎたら体重が三キロ増えた。


『ピンポーン』


――するとある日の午後、インターホンの音が家の中で鳴り響いた。

 お菓子の袋や空になったジュースのペットボトルだらけの自室から出た。

 わたしは足早に向かい、マイクのボタンを押してオンにすると、


『こんにちは。比治山ひじやまですが、もえさんは居ますか?』


 女の子の声でそう言った。

 その声はまるで、ガラスコップに入った冷たい水のような透明感だ。

 そのダウナー気質な声を聞いただけで声フェチのわたしは、心が癒された。


 わたしの心臓の鼓動がさらに早まった。

 手も震えているけれど、勇気を出した。

 マイクのオンスイッチを押した。


「比治山さん?」

『あ、可愛川かわいがわさん? ちょっとお話があるんだけど今、時間大丈夫?』

「……わ、わかりました。ですが、すみません。ちょっと待ってください。¨三時間¨ぐらいそこで待ってくれませんか?」

『いやどんだけ待たせるの。ちょっとどころじゃないよ。何でなの?』

「いえあの、家全体を掃除するのでぇ……」

『そんなに汚いの?』

「いえ、汚くはないんですが失礼かと……」

『いやいや、だったら掃除しなくていいから入れてくれるかな?』

「あぁ、それでしたら一時間ほどそこで待ってください」

『何かあるの?』

「いえ、寝巻き姿なんでぇ……」


 わたしは自分の灰色のパジャマ姿を見下ろし、顔を少し赤くした。


『あぁ、恥ずかしい? 別に気にしないよ?』

「いえ今、¨起きた¨ので」

『え、今、起きた?』

「は、はい」

『……もう十四時だけど……洗顔も歯磨きもまだ?』


 と、彼女が左腕につけた腕時計を見ながら、怪訝な表情をしているのを声だけでわかった。


「ま、まだですね」

『……あぁ、じゃあ待つよ。急がなくていいからね?』

「あ、いえ。ただいまそちらに向かいますので」

『いやどっち? 待つからいい――』


 わたしはやはり待たせるのは悪いと思った。

 マイクのスイッチをオフにしてしまい、彼女の言葉を遮ってしまった。

 スリッパの音をパタパタと鳴らせながら、早歩きで玄関へ向かった。


 モニター付きのインターホンではないので、彼女の顔を確認することは出来なかった。

 サンダルをはいて、玄関扉の鍵を開けようと手を伸ばすけれど、その手が止まった。

 本当にこんなわたしにどんなご用なんだろう?

 もう片方の手は胸に当て、心臓の音を感じた。


 ……ようやく決心すると開錠して、古い日本家屋の引き戸を開けた。 


「……おはよう」

「お、おはようございます」

「とりあえず、お顔洗って歯磨きしてね」


 わたしは、苦笑いをする彼女をまじまじと見た。

 綺麗な黒髪、服装、背中にあるギターのケース。

 本人には失礼だけど、まるで中学生になりたてな小柄な容姿。

 とても庇護欲をかきたてられるかわいさだ。


 その後、比治山さんを我が家に入れた。

 彼女の言う通り、洗顔と歯磨き、着替えをした。

 さすがに何も出さないわけにはいかない。

 なので、わたしは台所でコーヒーを用意した。

 御盆に宮島焼のコーヒーカップを二客、角砂糖、お菓子をのせて。


 彼女が待っているリビングへ移動した。

 それをダイニングテーブルの上に置いた。

 わたしはまるで借りてきた猫みたいに、恐る恐る椅子の上に腰を下ろした。 


――わたしたちは、白い湯気が立ち昇るブラックコーヒーを一口飲んだ。

 比治山さんはソーサーに静かに戻すと、真剣な眼差しで、


「可愛川さん、私と同じ高校に行くんだよね?」

「は、はい」と、わたしはうなずいた。

「それでさ、いきなりだけど一緒に¨バンド¨組もうよ。担当は¨ボーカル¨だよ」

「……え?」

「今から私がギター弾くから歌ってくれる?」

「……え?」

「いや、『え?』じゃなくてさ。歌ってくれる?」

「……え?」

「何で『え?』しか言わないの? 私、おかしなこと言ってる?」


 彼女は苦笑いすると、


「……えーと、だからね? 今から私がギターを弾きます」

「はい」

「それに合わせてですね」

「はい」

「可愛川さんに歌ってほしいです」

「はい」

「……いいですか?」

「……え?」

「……え?」


 と、彼女は身体をガクンとさせると、


「……いやホントに、とりあえず騙されたと思って歌ってくれない? それともまだ眠たい? 目の下にくまが出来てるよ?」

「……え……あ。と、とりあえずコーヒーのおかわりはいかがですか?」


 と、わたしは椅子から立ち上がり、台所へ向かおうとすると彼女が、


「いやだから……おかわりはいいって。歌ってくれない?」

「……う、歌えば良いんですね?」

「いや最初からそう言って……やっと伝わった」


 彼女にそう言われてわたしは、断れなかった。

 わたしがボーカルに? 比治山さんとバンドを組む?

 とにかく理由を訊くよりも先に足が動いた。


 彼女は椅子から立ち上がった。

 床の上にひざをつくと、ギターが入ったケースを開ける。


 まるで雨の雫のようなデザイン。

 ¨赤いエレキギター¨を取り出した。

 銀色の金属パーツが、冬の日光に反射していた。


《……おぉ、¨タルボ¨だ。比治山さんが愛用しているギター。懐かしいなぁ》


 と、わたしは思うと同時に、「ちなみに何の曲を?」と尋ねた。


「たぶん聞いたことあるよ。¨魔王魂まおうだましい¨さんの¨『シャイニングスター』¨」

「あ、あぁ。ユーチューブの動画編集でよく使われるBGMですね」

「そうそう。歌詞は憶えてる?」


 比治山さんはそう答えた。

 彼女とわたしは中学三年間、ずっとクラスメイトだ。

 一度も会話したことがないけれど。

 彼女は軽音部の部員で、リードギターを担当していた。

最後までご覧いただき、

ありがとうございました

いいね、ブックマーク、

評価ありがとうございます


2009年からずっと構想を練っていた

自作バンド小説の物語を、

ようやく公開することが出来ました


※2023.12.2

『シャイニングスター』を

今作に載せる許可を魔王魂さんに

直接、問い合わせた結果、

大丈夫でしたので変更しました


※2025.3.27

主人公のフルネーム、

主人公の前世で買ったベースを

タルボベースからジャガーベースに変更、

えまの名字を変更、

さなのギターにジャガーを追加、

るかをソロ活動からキーボード担当に変更しました


2025.7.5

ややこしいので、さなのギターに

ジャガーを追加をやめました


※2025.8.22

ジャガーベースの掲載につきましては、

問い合わせをしましたが1ヵ月以上、

ご回答が得られないので『灰色のエレキベース』

という製品を特定しない変更に決め、書き直します。


※2025.8.23

書き直しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ