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しんきくさい男

「でこれが神話大戦の歴史ですね、テストに出るからよく予習しておくように」

「あとは…大切なのは幻夢につけられたランクですが、あと少し時間もあるしだれか答えてもらおうかな」


 中年のスーツを着た男が黒板の前に立ち、手に広げた教科書から生徒に視線を向け見渡す。


「はいっ」

 誰もが、顔を背ける。わからないわけじゃなく面倒だからだ。

 そんな中一際胸の大きなクラスの女子が手を上げて元気に答える。


「Dランクが一般人でも討伐可能、

 Cランクが武装した特殊警察官が討伐可能、Bランク武装した特殊警察官10名で討伐可能

Aランク武装した特殊警察官100名で討伐可能Sランク深気を極めし各国の機関、日本では幻夢討伐国家直属005部隊投入で討伐可能、

SSランク世界各国幻夢討伐部隊総動員で一部可能と言われてますが基本的に討伐不可能、SSSランク幻夢を統べるもの、王、神と呼ばれる幻夢の元凶とも言われる4体のことを指しますもちろん討伐不可能です」


「はい、わかりやすくありがとうございました。ですが教科書は教科書、幻夢を甘く見ずDランクでも近づかないように、一部ランクが変異するものもいます日本で討伐された元Aから最終SSランク認定された鬼の頭領、鬼女紅葉が良い例です。

 特にB以上のハザードマップ(幻夢警戒範囲アプリ)は政府からも告知文で周知されている通り、ハザードマップ内に入っても命の保証はありませんので十分に気をつけるように」


 教師が聖書のように分厚い本を閉じるのと同時に今日の授業の終わりを告げる鐘の音が響いた。

 命の補償がないというのは、入っても警察だって助けたりはしない、自己責任という意味であることはこの世界に生きている人間なら幼稚園児だって知っていることだった。


「予鈴がなりましたね今日はこれで終わりです。ホームルーム後は寄り道せず帰るように」


 簡潔に必要な事だけを最後に告げ、教師が出て行くと静観していた生徒達が一斉に喋り始める。


「あー堅山の話なげえなー、なー神河!」

「あーうん、そうだな〜」

「相変わらず辛気臭いなー話し乗ってくれよ〜」

「そういうのいいからさー」

「はいはいーいい子に帰りましょうとっ」

 (42%か)

 神河かみかわ 来栖くるすそれが俺の名前で、隣でダル絡みをしてくるのが小学校からの腐れ縁の森林涼太。

 高身長にイケメン、性格も少し絡みがうざいくらいで他から見たらそれもフレンドと取られるらしい。

 42%という数字は、森林の頭の上に見える数字で、一応俺のコンセプションの能力の一部だ。

 コンセプションというのは幻夢に触れたものが超常を超えた能力を使う時に発動する能力の総称、解釈によって神に与えられた力、極めたものが使える選ばれた力、信じる気持ちに応えて使える、心から溢れる慈愛の力。幻夢に犯されてるとか色んなことが考えられてるが結局何故使えるのかはわからない。コンセプション(概念)というくらいだから制約はもちろんあるが、それは後に語ろう。

 俺のこの頭上の数字を見る力は制御できるものではないし、これがなんなのかわからない。まぁなんとなく相手の好感度を見る力……なのかとは思っている。

 何故なら今まで相手の数字が0%になると人が離れていくことから間違いはない。離れていくとは文字通りであり、なんなら俺を見ただけで吐いたやつもいる。本当に失礼極まりないっ!なーんてな。

 しかし厄介なのが自分で強制的に下げることはできるがあげることが出来ない……。時間が経つと上がってくるのだが人によって%提示はまばらで何とも言えない力だ。というかはっきり言って人間不信になるし幼馴染の1番仲の良いと自称で思ってる。

 亮太ですら42%で友達の中ではトップとか……そりゃ辛気臭いやつにもなるわ。


 涼太と2人教室を後にし帰路につく。

 「でーだよ!来栖は好きな子とかいないんかい?」

「何がでーだよ?そんなんいないし、女ってうるさいだけじゃね?」

「はぁ、そんなんだからなー俺と楓の熱をお前にも分けてやりたいな」

「よくわからんけど?そんなお裾分けみたいに人に分けちゃだめじゃねぇ?」

 2人で信号待ちをしながら談笑している時だった。

2人の視線は1人の喪服のようなここら辺ではまず見慣れない制服の女の子が、信号を渡った目の前の大通りから、何かから逃げるように裏の路地に走っていくのが見えた。


(ブーブー)ポケットのケータイが鳴る。

「あの子?なんだろうな、って!危ねぇーなんか今更新されて向こうの路地に入ったところハザードマップでC!?あの子大丈夫かよ」

 スマホに視点を落としていた涼太が呟く。


(まさか幻夢に……)


 信号が青になったと同時に走り先程の女子高生を追いかける。

「おいっ!お前そんなキャラだっけ?!」

「幻夢に襲われてるて通報!Cなら武警来てくれるから」

「あー!もうーー!わかった追いかけるからな」

後ろから聞こえる涼太の声に手を上げ返事をしつつ、女子高生が入ってた裏路地へと向かった。

(ハッハッハッハッ)


 しばらく路地に入り、辺りを見渡すが先程の女子高生の姿は見えない……ケータイを確認するとハザードマップではCランクの範囲が少しズレているのに気づきそちらに向かい走り出す。

 走っている際中一瞬あの子が幻夢で、もしかして誘われたかと疑い始めた時だった。だがそれも彼女を見つけだことで疑いは晴れた。

 少し開けた道に彼女と幻夢が見つめ合ってた。


「いやー!近づかないで美味しくないよ私!不味いと思うなー!ほらあれ私腐女子だし‥‥」


(不良もとい……幻夢に女の子が襲われてる‥腐女子とかいう単語は聞こえたが今は無視しよう)

 腕が6本ある蟷螂のような幻夢、お腹が出っ張ったオークのような幻夢、ケタケタ笑い顔をグルグル回して女子高生を舐め回すように見つめている女形の幻夢3体に襲われており袋小路のようで逃げられなくなっている。

 ハザードマップは政府から幻夢の危険度を表すためのマップあの3体がその中心なのは間違いない……少し待てば武装警察官が来るはずだが、それまでに女子高生が無事な保証はもちろんない。

 相手はCランク……コンセプションが扱える武装した警察官が対応できるレベル……それが3体。普通の一高校生が対応できるレベルではなく巻き込まれて死ぬことあり得る。


(だけど俺も何も考えず追いかけてきたわけじゃない勝てはしないが時間稼ぎはできる)


『コンセプション』

「はぁ、コンセプて誰?危ないよ!幻夢達が……」

 彼女もコンセプションといいかけており、使えるなら、一瞬邪魔したのではないかと思ったが、俺のコンセプションは相手の邪魔をしたりはしない特殊系の中でも特殊なため、もし彼女がオフェンス形のコンセプションが使えるならなんなら3体に対しても勝ちすら見える。

 コンセプションにはオフェンス形、ディフェンス形、サポート形、特殊形と区分されている。

 コンセプションを使えるものは10000人1人と言われているが決して先天的だけではなく後天的に使える能力のため、言わばどれだけ自分の概念を持っているかが発言できる人との差であり、彼女が高校生身でコンセプションを使えるだけで驚きを隠せない。

 だが今は目の前の幻夢達。

「conception!じゃんけんするまでもない。お前達が優勢、俺らが劣勢。優位に立つ方が鬼であることは必須!

 まだだよ‥‥夕方聞こえる鐘の音、始まるタブーは‥‥隠れん坊!!」


 今にも女子高生に触れそうな化け物どもは来栖が能力を使用した後女子高生が突然見えなくなったかのようになり、くるくると見渡している。

 どうやら見失ってるようだった。

 そんな中女子高生が歩夢を見つめており、来栖は口に指を当て、言葉を発さないようジェスチャーし手招きをしてこちらに呼ぶ。


 彼女は頷きこちらに駆け寄ってくる。信号先の時は気づかなかったが彼女の容姿は髪は青みがかったセミロングで綺麗なこれまたブルーアイの澄んだ目をしており、白い肌色からとても妖艶であり、ルックスからも美少女なのは間違いない。

 普通なら女子高生をかっこよく助けたヒーローになれるはずだが、腐女子と聞いた後では来栖の心は素直に喜べず気になることもあった。

 それに今はこの場からなるべく離れなければならない。近くにきた彼女の手を取り驚く彼女を他所に幻夢から離れた所に走った。


 来栖のコンセプションはその名の通りかくれんぼ。鬼を呼称する対処を指定し、その鬼が数を数えている間に遠くに隠れて、鬼がそれを見つけると言うもの。特殊型に分類されるが、ようはただの時間稼ぎはであった。

 

 (はぁはぁはぁ)

 幻夢から遠く離れた路地のゴミ箱の横で息を整える。ハザードマップ警戒範囲だが中心からはだいぶ遠ざかっていた。

 たが、視点を落としてたスマホのハザードマップの縁が動き始めている。

 (60秒たったか‥‥)

 対処となった鬼はその場から60秒動けないのというルールがある。視界から彼女と来栖を見失ったのもそのためだ。だが、声を出しながら逃げたら動けるようになった際にそちらに向かってくるため彼女にも指示して遠くに逃げた。

 「ねぇ?助かったの?お礼とか言ってもいいかな?かな?」

 「いや、助かってない時間稼ぎだよ結局」


 来栖の返答に、目元に落胆を見せる彼女、そんな彼女の様子を見て申し訳ないと思いつつも、涼太が警察を呼んでおり到着する間幻夢に襲われないなんて保証はどこにもなく、打開する策はないかと隣にいる彼女に聞いてみることにした。

 

 「それで、君のコンセプションはオフェンス形かな?それなら、なんとか打開もできると思うんだけど」


 この質問でオフェンス形ではなくても、ディフェンス型なら警察が来るまでの時間稼ぎができる計算が来栖にはあった。隠れん坊にはまだ派生があるからだ。


 だが彼女の口からはそのどちらでもない来栖が1番望まない返事が返ってきた。

 「ううん、サポート形だよ。申し訳ないけどあいつらは倒せないと思う…」

 サポート型とは、オフェンス、ディフェンスがいるからこそ活かすことができるもの、もちろん特殊型でも活きる場面はあるだろうが、俺のかくれんぼには意味がない。

 サポート形はバフなどが主な能力だが、来栖を強化した所で一般人と大差ない来栖の力では化け物には勝てないのは明白だった。


 来栖はスマホを見つめた。ハザードマップはもう見てもわからないくらいに周囲は赤だった。下手に動いた方が見つかる危険もあり、この場に留まることを選択する。


 「はぁーここまでかな」

 「えー、そんなこと言わないでよカッコよく助けにきたのに」

 遠い目をしている来栖を、彼女は心配そうな顔で見つめてくる。

 そんな顔されてもと言うのが来栖の本心だが、彼女からしたら落胆の気持ちを隠せないのも納得できた。


 それに何より、信号機の奥で彼女の頭上の数字を見た時は嘘だと思ったが、今隣で彼女を見て嘘ではなかったと確信した。

 (100%…)

 (好感度だとしたら、この美少女は俺にゾッコンなわけで、というか出会ってなくても100%とかもう運命?いやでも腐女子てことは…いややめよう)

 初めてみる数字に興奮し、実際にあって美少女とこんな間近にいる現状を落ち着かせるにも精一杯だった。

 来栖も調子に乗って彼女を助けに来てしまったが高校生の性に支配される健全な高校性であった。


 「なぁ、お前て俺のこと好きくね?」


 咄嗟に、幻夢に追われてる興奮状態も相まって、頭の中で思っていたことが独り言のように出てしまっていたことに来栖が気づいた時はもう遅かった。


 「え?初対面で?その顔で?ないです、生まれ変わって、出直してきて下さい。ごめんなさい。」


 酷く冷え切った彼女の言葉に、冷酷な声調のそこには演技などではなく、こんな時に何言ってるの?この人…というあきれすらその表情から感じ取れた。

 

(その顔で?生まれ変わって?ごめんなさい?は、ははは)


 「ぅうううう、いゃあああもうーー殺してお母さん産み直してー!!!」


 普段クールぶっていたが来栖も童貞街道真っ際中の高校性。もちろん女子に告白したことなどなくこっぴどく振られたことよりも、美少女からの辛辣な言葉が心の中で復唱され来栖の心は完全にheartbreakしていた。


 「バカ!叫んだら来ちゃうでしょ!!本当に何この人!?バカなの死ぬの?」

 「もう、終わりだへへへっ」

 「ダメだ、この人壊れてる。もうー!せっかく掘り出しのBL見つけたのに!ここで死ぬの私?」


 「キシャーー!!!ブルルルル」

 案の定来栖の叫び声を聞いて女型の幻夢と、虫形の幻夢の2体が路地の奥から物凄いスピードで走ってくるのが見えた。

 「ぁあ終わりだ、でも2体なら私の力で、ううんあのスピードじゃ無理、虫と女形とか私の好みでもないし」

 隣を見る、さっきまで一瞬かっこいいかもと思っていた彼も白目を向きブツブツと喋っている壊れた人形みたいになっていた。

(彼を犠牲にすれば延命はできる。)


 だがその選択を彼女はしなかった。


 (変人だけど、助けてくれたからね)


 彼はゴミ箱の横に引っ付いているため、上手くいけばバレずに助かるだろう。


 バイバイと告げ立ちあがろうとするが、足が震え言うことを聞かないことに今更ながら気づき1人苦笑した。


 (怖いな、なんだ、ここまでか、死んだらあの世とかあるのかなそれよりBLあるかな)

 

 「キシャキシャー!!!ブルルルルラァア」

 幻夢達が目の前に迫ってくる途中で琴花は目を閉じた。


 (やるならいっそ一思いにやって欲しいな)

 だがその後琴花が襲われることはなかった。


 「いやー!!面白かった。お前達お金払ってでも見れるレベルだぞ?」

 「え??」

 少し悪戯ぽい落ち着く男の声が琴花の耳に入った。 

 目を恐る恐る開けるとそこには茶色スーツの男、どこかの怪盗を追う警察官のような格好をした男。その警部と違うのは顎が見えないばかりではなく見える範囲の地肌はなく、呪文のようなものがびっしりと描かれた包帯を全身に巻いた怪しげな男が立っていた。


「あれ?幻夢払ったのに、ここら辺まだしんきくさいな、うん?あーなるほどね」


 私は驚きのせいで動けなかった。それは変なミイラ男がいることではない、今いる路地を静寂が支配していることがおかしかった。


 幻夢は倒したら消えるわけではなくその場に残るのが通常だ。だがこの場には争った後すらなく、痛々しく抉られた地面がミイラ男の前で綺麗に途絶えていたのだ。


 –-−それこそ跡形もなく最初から幻夢なんていなかったかのように。

 ミイラ男がこちらを見ているのかすらそのサングラスの奥からはわからず、ゾワゾワと何か這いずるような悪寒を感じるとともに、見れば見るほど目の前の男は人なのかすら怪しく思えてきた。その時だった。


「ひっ、化け物」



 その恐怖を孕んだ声は私のものではなく。さっきまで壊れていた隣にいる彼の口から出た言葉だった。

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