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ショタのロンド16

 ロンドー!


 これで終わりなのかロンドー!



 ロボットバトルで優勝しました。


 これはその後のお話です。




 とある日の夜。星がキラキラと瞬き、足元すらろくに見えず、歩くことすら覚束ない真っ暗な闇の中。


 僕は一人、ロボットセンターへと向かっていました。


 まぁ街灯とかあるので本当は星が見えないし、影も普通に出ています。わりと明るくて足元も安全です。ちょっと不穏な空気を出したいお年頃なのです。何せこれからテロるので。


 ちょっくらロボットセンターを爆破しようと僕は夜の散歩に出掛けたのです。有言実行ですね。





 あの『八百長バトル』から二日が経ちました。二日です。本当なら当日の夜にボムを発破する予定でした。何故その予定が狂ったのか。あの天衣無縫にして完全無欠であった八百長試合は優勝した当日にバレることになったのです。


 驚きました。本当に驚きました。


 僕が借りてる部屋に武装したよろずやんのお姉さんが突如として乗り込んできて僕を押し倒したのです。


 あのときロボがそばに居なければ僕は死んでいたでしょう。


 あの目はマジでした。ヒロインちゃんが一線を越えるときの目と同じ輝き……というか濁り具合でした。四日目のお魚さんです。いい腐り具合でしたね。


 よろずやんのお姉さんは僕の八百長に気付いたのです。やはりお姉さんはただ者ではなかったのです。


 ですがそれも終わったこと。


 僕の完全犯罪に気付いてしまったお姉さんを黙らすのに、丸二日。随分と無駄な時を使ってしまいました。ふっふっふ。


 お姉さんは既にお魚の餌に成り果てたのです。今ごろは海の底でお魚さん達に美味しくついばまれている事でしょう。


 僕の覇道を妨げるからお魚さんになるのです。ふっふっふ。


 お姉さんは触れてはならないものに触れたのです。雉も鳴かずばシューティングスターと言いますからね。


 かつての僕ならお姉さんの説得に応じて自首した事でしょう。だけどお姉さんは現在海の中。ヤってしまったんですよ。僕は。


 何故なら今の僕は以前の僕とは違う……悪に目覚めた『悪ジョニー』なのですから!


 ちなみに読み方は『あくじょにー』です。わるじょにーではありません。


 悪に目覚めた僕には倫理や正義感なんて、へっぴりぷーなのです。お姉さんを黙らすのに躊躇なんてしませんですよ。何せ僕は悪ジョニー!


 お姉さんを縛って海にポイです。悪ですよー。とっても悪なんですよー。口封じでお姉さんを海に遺棄したのです。


 ふっふっふ。


 これからロボットバトルセンターを爆破する僕には朝飯前の凶行でしたね。


 僕に折檻されるお姉さんのウキウキした瞳が未だに僕の脳裏に刻まれています。早く忘れたい。


 さて、さらりと状況を確認している間にバトルセンターに到着しました。ここはガラの悪い機械生命体達がいるところ。ここに来る途中、四回ほど警察の人に出会いました。職務質問の嵐でした。


 巡回してる警察の人に何度も保護されそうになりました。なんとか誤魔化してすり抜ける事に成功。いい加減、面倒になってきました。


 うむむむ。早く目の前にあるバトルセンターをこの世から消滅させないと。


 バトルセンターは夜でも開いてます。泊まるところの無い機械生命体の簡易宿泊施設も兼ねているのです。つまり夜にここを破壊すれば一網打尽で粛清出来るという事です。ふははははは。


 というわけで早速無駄にライトアップされているセンターの外壁にボムをセットしようとウキウキワクワク気分で近付いたのです。


 そこで僕は変なものと遭遇しました。


 遭遇というかセンターの入り口を見張るように近くの植え込みで隠れている白い塊を見つけたのです。


 ……なんだろう、これ。


 そういえば職務質問してきた警察の人が最近この近くで不審者が出ているので注意して下さいと言っていたような気がします。


 じーっ。


 ……植え込みからはみ出ている白い物体は不審者というか不審物です。


 よくよく見てもなんなのか分かりません。僕の胸丈までありそうな白い山です。真っ暗な所でもその白さが分かるくらいに真っ白です。


 ……雪山……カマクラですかねぇ。それにしては小さい気もしますし、ここ最近雪なんて降ってないのです。


 とりあえず何が起きてもいいようにバールを右手に装備しました。


 ちゃきん! ですね。


 これなら咄嗟の時も言い訳が立ちます。ちょっと釘を抜く必要があって……と言えば警察も追求できませんからね。完全犯罪まっしぐらです。ふっふっふ。


 右手にバール。そして左手にはボムを装備です。


 これもちゃきん! です。


 ボムは言い訳が難しいので、なるべく使わない方向で使おうと思います。つまりガンガン使います。こんな事もあろうかとサイレントでエコロジーなボムを用意してあるのです。爆破音もなく、爆弾の残骸はすぐに土に返るというSDGなんちゃらです。これならPTAも怖くありません。証拠が無ければ言い掛かりも甚だしいですからね。ふっふっふ。


 さぁ、白い塊を除去して爆弾をセンターにセットするのです。本当は建物の中に爆弾をセットしたいところですが流石にバレます。騒ぎになるのです。なので外壁にセットなのです。


 大丈夫。爆発したときの衝撃と爆風はある程度志向性を持たせてあるので周りに大惨事は起きません。元々このセンターは他の建物から離れて作られているので安全安心にテロれるのです。


 さぁ、僕の悪ジョニー初仕事の始まりです!


 ……いや、始まりはお姉さんを海にポイした奴ですね。何故かお姉さんは喜んでいたようにも……いえ、忘れましょう。


 さぁ、僕の悪ジョニー二回目のお仕事の始まりです!



 


「はぁはぁはぁ。いつになったらあの坊やはここに来るのかしら。お姉さんはもう辛抱堪らないわ。早くあの坊やでこの欲求不満を解消しないと有給休暇が尽きてしまうわ。あと三日しかないなんて無理ゲーも良いところ。せめて一週間はあの坊やを堪能しないと体の疼きは取れそうにないのに……仮病使おうかしら」


 ……よーし。悪ジョニーは慎重派なのです。白い塊から一目散で逃げることにします。


 白い塊に後ろからこっそりと近付いた僕は気付きました。気付く前に逃げれば良かったのに気付かなかったのです。まぁ気付く前ですからね。


 まず気付いたのは『あ、これ白いキグルミっぽい』ということ。


 そして判別出来るくらいに近付いた事でキグルミから独り言が聞こえてきたのです。そうです。白い塊は独り言を喋っていたのです。


 やっべぇです。


 こんな夜に一人植え込みに隠れて独り言を喋るキグルミです。


 やっべぇです。


 言ってる内容はよく分かりませんがマトモで無いことは確定です。


 ……ボムを投げようかどうしようか悩みます。関わるのも危険な感じがするのです。ここは逃げの一手が最善手かも知れません。気付いてよかったー。


 バトルセンターの爆破はまた後日に、と決意を固めた所で僕はミスをしました。


 こっそり後ずさりしようと足を後ろに出した時に地面に落ちていた枝を踏んづけてしまったのです。


 勿論ポキッと音が鳴ったのです。


 闇の静寂に、それは音高く響き渡りました。


 僕の時間がスローモーションになりました。目の前の白い塊が音に反応してか、ゆっくりと後ろを振り返ります。ゆっくりと……ゆっくりとこっちに向いてくるのです。


 そして……僕が動けないまま時間はゆっくりと進み……ウンコ座りしてるキグルミが完全に振り返り僕を確認してしまったのです。


「……あら? あらあらあら?」


 白い塊から顔が浮き出ています。顔だけがキグルミから出ているようです。それは……わりとお年を召した女性の顔に見えました。シワとか弛みが確認出来ます。あと化粧が濃いです。むやみに白いのです。いえ、キグルミも白いので敢えて白くしたのかも知れませんが。


「あなた……もしかして坊やかしら?」


 白いおばさ……白いキグルミは聞いてきました。声に抑揚の変化がありません。独り言と同じトーンで話し掛けてきたのです。


「いえ違います人違いです。さようなら」

 

 僕の危機管理本能がものすごいアラームを出していました。


 手汗がヤバイくらいに出ています。手にしたバールが滑るくらいです。恐怖をなんとか捩じ込めて、バールをぎゅっと握り締めました。これは……絶対に襲われる。間違いなく襲われる流れだと確信しました。


 ヤバイ予感がビンビンです。


「……あは」


 白いキグルミが立ちました!


 デカイです!


 僕よりも大きいのです!


 まぁ大概の大人は僕よりも大きいので今更ですが。


 白いキグルミは巨漢みたいでした。着ぶくれしてるのでしょうが、怖いのはそこではないのです。


 白いキグルミは笑いながら立ち上がり……


「あははははははは!」


 怖っ! 滅茶苦茶怖いです!

 

 笑ってるのに笑ってません! 声が平坦でチビりそうです!


 病んでますよ! 間違いなく病んでますよ!?


「まさか坊やの方から来てくれるなんて……お姉さん……嬉しくて……」


 白い塊はクネクネしています。


 僕は動けません。蛇に睨まれたフロッグの気分です。背中を見せたら何をされるか分からない。恐怖です。


 僕は『未知の恐怖』で固まっていたのです。喉はカラカラ。心臓はバクバクです。全身から汗が吹き出るような感じです。


 目の前でクネクネする白いキグルミのオバサン……いや、なんだこれ!?


「うふふふふ。緊張しているのかしら。うぶな坊やなのねぇ……堪んないわぁ……うふふふふ。わたくしは《行き遅れのサスカッチ》というの。ネオ・ダンバラ団の優しいお姉さんなんだけど……さぁ……お姉さんと良いことしましょう? 坊や」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 



 そして僕が正気に返った時。辺りは静寂に包まれていました。


 なんだか死の恐怖に対面してパニックを起こしていた気がします。


 ホラーです。きっとあれはお化けだったのです。


 なんだか鉄の臭いが辺りに漂ってますが気にせず当初の目的を果たしてしまいましょう。お化けは怖いのです。


 バトルセンターの外壁にボムをペタペタと貼りながら外周沿いに歩いていきます。バトルセンターは円形ドームになっているので、ある程度の間隔を空けてペタペタです。右手のバールから何かが滴り、ポタポタと地面に落ちてるような気がします。きっと気のせい。右の手がぬるついているのも、きっと手汗でしょう。


 ……ふぅ。センターは大きいですねぇ。持ってきたボムが心許なくなってきた所でようやく一周出来ました。不良機械生命体が建物の裏にたむろしてる可能性も考えていましたが……考えてみればそんなところにたむろしてる理由がありませんでした。


 誰も来ない所にいてはカツアゲは出来ません。奴らはそういう意味では賢しげです。


 さてさて、それではセンターから少し離れて……おや? 植え込みに赤く染まった白い塊が……いえ、気のせいですね。あれもまとめてドカンといきましょう。証拠隠滅です。


 それではカウントダウンスタートー!


 3!


 2!


 1!






「アナター! 朝デスヨー!」


「……はぅ?」


 日差しが顔に当たっています。すごく明るいです。目を開けると窓から朝の太陽が覗いていました。


 枕に顔を押し付けていると頬に温もりを感じます。太陽がヌクヌクです。まだ寝惚けている頭に疑問符が湧いてきましゅ。


 はて……何か変な夢を見ていたようにゃ?


「マスタァ? 朝デスヨ? 早ク起キテ、朝ゴ飯ヲ用意スルノデス」


「……ロボ?」


 声のする方を向くとブリキなロボットがいました。ロボットと言えばこの形。僕は形から入る男なのです。


 まぁそれはどうでも良いのです。


 ここは僕とロボの借りている部屋……八百屋の奥にある狭い部屋で僕はお布団に横になっていました。毛布がヌクヌクで二度寝したくなります……ぐぅ。


「……マスタァ? 早ク起キナイト……」


 あと五分……昨日はお姉さんを黙らせるのに夜中まで掛かったのです。僕のパンツも犠牲になったのです。もう少しくらい……。


「パンツ脱ガセテ洗ッテシマイマスヨ?」


「止めてよ! もうこの一枚しかないんだから!」


 毛布をはね除けて飛び起きました。


 今日もいい天気になりそうです。





 朝御飯を作ってロボと一緒にご飯です。僕はオムレツとサラダとパンで、ロボはエネルギーパックです。ちょっとお高い奴です。


 部屋の真ん中にちゃぶ台を置いて壁掛けテレビを見ながらのご飯です。


 朝のニュースをここであらかた仕入れるのです。


 ふむふむ。ハヅキ島では今マシオカブームが来ているのですね。マシオカってなんだ? タピオカじゃないの?


 ニュースは変わり、食事は進みます。ロボもエネルギーパックをちゅーちゅーしています。相変わらず謎の触手でパックにグサリです。ボディからニョロリンと出ている触手のようなケーブルがロボのお食事機関です。


 ……触手だよなぁ。イソギンチャクみたいなウネウネだし。普通の機械生命体はもっとケーブルっぽいのを使うんですが……少なくとも胴からは出さないし。


「マスタァ……ナニヤラ、ウナサレテイタヨウデスガ……遂ニ大人ノ階段ヲ登ッテシマッタノデスカ? パンツ……大丈夫?」


 じっとロボの食事の様子を見ていたら話しかけられました。頭が高いので見上げる感じですね。ロボは座っててもデカイのです。


「大丈夫じゃないよ。買いに行かないとストックがゼロじゃないか。今日のバイト代でパンツと……ロボはなんか欲しいのある?」


 怖い夢でお漏らしするほど子供ではない。という事にしておくのです。今回は大丈夫。漏らしてなかった。でも大人の階段ってなんだろう。ロボはポンコツなのでたまに話が噛み合いません。


 ……うん? そう言えば、どんな夢を見たんだっけ?


 なんだか好き勝手に動いて怖い目に遭ったような……。


「マスタァハ天然デスネェ」


「天然かなぁ? みんなそう言うけど僕は普通だよ?」


 僕は天然ではなくて普通の男の子です。ボケたりしないし。


「ハッハッハ。オ風呂ノ掃除ヲシテキマスネー。普通ノマスタァ」


「あ、おいこら。そのスルーはカチンと来たよ! こらー! 逃げるなー!」


 ロボは立ち上がってお風呂場へとガッチョガッチョと消えていきました。


 まぁこれがいつもの朝の風景です。バラダン島にいたときから何も変わってない風景。


 僕が居て、ロボが居て。


 こんな風にぎゃーぎゃー騒ぎながら二人でいつも過ごして来たのです。


 ……いつまでもこんな日が続くのかな。それはそれで良いことかも知れません。




「ギャー! 血ノ付イタ『呪ワレシバール』ガ、オ風呂ニ落チテマスー! 犯罪ノニオイガシマスー!」


 ……あ、うん。多分僕が犯人だ。まぁいいや。


 今日もバイト……頑張ろー!




 ロンドはこれで終わりです。夢オチってすごいよね。何でもありだよ。

 

 バールが気になる人もいると思うのでネタバラシをしておきます。


 あれは……




 ケチャップだ!


 ほら、朝御飯にオムレツって書いてあるでしょ? それにかけようとしたら、ぶちゅーっと出てバールに掛かってしまったのですよ。主人公は、とりあえずあとで洗おうと風呂場に置いておいたのです。ふふふ。


 ……え? なんで台所にバールがあったのかって?


 ……。


 ……。


 ……バールで卵を混ぜようとしてたんだよ!


 くっ……なんてことだ。ここに来て致命的な矛盾が生じるなんて!


 でも……部屋が四畳半だから……可能性は普通にあるよね。そんな感じで許してつかぁさい。


 

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