物語の始まり
我はここにあり! まだ死なぬぅ!
ぶっちゃけ、死にかけてるけどね。
この世界は2度滅んだ。
1度目は宇宙人にもたらされたテクノロジーをもて余した挙げ句、人間がその手で地球を死の星とした。
この時、地球は滅んだ。多くの人類と共に滅んだのだ。青い星から全ての生命が滅びきった。
これが滅びの1度目である。
だが人類はしぶとかった。
極僅かだが、月に逃れた者達がいた。
そして2度目。一度目の滅びからおよそ百年後。本当の意味で人類が絶滅した。月が地球に墜ちるという未曾有の事態『月の崩落』により青き輝きを取り戻した地球の大陸はほぼ消滅した。
1度目の滅びからたったの百年。2度目の滅びは訪れた。その滅びは人類の傲慢さがもたらした必然であったのだ。
ラリー・マッケンジー著
『ウサギは消えた。月と消えた』より抜粋。
「……ウサギかぁ」
少年は呟いた。
手元のホロパネルで電子書籍を見ながら……走りながらである。
その目は若干死んでいた。
少年は『ながら読み』という、あまり行儀のよろしくない行動をしているが、現在追われている真っ最中である。
今現在少年が走っている場所は、かつて空を駆けていた宇宙船……今はただのスクラップとなり遺跡となった船内の廊下である。
植物が繁茂した船内は、どこも斜めに傾いでおり、朽ちかけた壁の所々から眩しい外の風景を覗かせていた。
「……ウサギってウンコ食べてたんだよねぇ……すごいなぁ」
と、少年は自身の太もも程もある植物の根っこを飛び越えながら感心していた。
別にウサギはウンコを主食にしていた訳では無いのだが少年は気にしない。ホロパネルに映し出されているのは歴史の書物。動物図鑑ではないのだ。
そしてこのながら読みは少年の現実逃避でもあるのだから。
「アギャァァァァ! 早ク逃ゲルノデスヨォォォ! ナンデアイツラ、ワタシヲ追ッテクルンデスカァァァ!」
「……だってそりゃ……それがアウトローだもん」
少年は一人ではなかった。背後に巨大なロボットを連れて自然に呑まれている宇宙船の船内を駆け抜けているのだ。
彼らは追われていた。追われているのだが少年は呑気である。何故かウサギの食糞行動に感心するほどに。
少年の名は『ジョニー』
過去の遺跡に潜って遺物を発掘するのを生業とする『発掘士』の少年だ。この物語の主人公である。
そしてそのすぐ後ろでガッチャガッチャと音を立てて必死に走るのは彼の相棒であるロボットである。
頭と体も手も足も、どのパーツも四角い箱状のパーツで組み立てられたレトロで巨大なロボットだ。かつての地球でブリキロボと呼ばれていた昔懐かしい外見をした体高二メートルを越えるロボットである。
そんなでっかくて四角いロボットを連れて少年は走っていた。
『アウトロー』と呼ばれる存在から逃げるために。
朽ちかけた宇宙船を爆走する少年はまだ幼い外見をしていた。金髪のショートヘアーでゴツいゴーグルを頭に掛け、迷彩柄のツナギを着た少年である。
背中には大きなバックパックを背負い、ぶかぶかなツナギをベルトで所々に締めたその姿は『発掘士』というよりも子供整備士といった風情である。
そんな少年がロボットを引き連れて斜めに傾いだ元宇宙船の艦内を駆け抜けていた。
「……ロボ。何で逃げてんの?」
「アンナニ沢山居ルナンテ聞イテナイデスヨ!?」
彼らの少し後ろにはメカメカしいメカのようなモノ……かつての宇宙船で使われていた防衛機構やら丸い機械生命体やらが通路を埋めんばかりに迫っていた。
これが遺跡名物『アウトロー』である。
あるものは蜘蛛のような形をし、またあるものはボールのような形態をし、その姿は実に様々である。
この『アウトロー』達に共通する欲求はただひとつ。それを満たすが為に彼らは他者を襲う。
『オイ……リア充……シメテヤンヨ』
……実に傍迷惑な機械達である。
「だから全部倒して進めって言ったのに」
少年はため息をついた。走りながら器用なものである。手元に浮かんでいたホロパネルは既に消えていた。
少年はこのスクラップと化した宇宙船……今は『遺跡』と化したここで発掘作業をしていたのだが……とある事情でアウトローな機械生命体達に追われているのである。
少年の幼い顔には何処と無く疲労感が漂っている。しかし傾いだ船内をずっと走りっぱなしであるのに彼の呼吸はまるで乱れていない。
植物が浸食している船内は、まともな足の踏み場もないくらいに荒れ果てていた。そんな所を少年は跳んだり跳ねたりしながらすいすいと走っているのだ。しかも先程までは手元のホロパネルを見ながらという余裕である。
この少年はただの見た目通りなショタではなかった。
「私ハ暴力反対派ナノデスヨ!」
一方少年の後を必死に走るブリキロボットは対照的に余裕無しである。体が大きいために繁茂してる植物の根っこや蔓を豪快に破壊しながら進んでいるのでスピードが出ない。後ろからどんどんとアウトロー達が迫っていたのだ。
少年よりもやや遅れて進むブリキロボットはガッチャガッチャドカンドカンと必死である。
「暴力って……アウトロー退治はロボの仕事でしょ? サボるのはいいけど、そういうのって結局は自分に返ってくるんだよ? そもそもさぁロボが勝手に変なボタンを押したからあいつら大挙して現れたんだし……」
少年が説教じみてぼやく。しかしそれに被せるように必死な声が後ろから飛んできた。
「ギャー! 背中ニ張リ憑カレター! マスター! タスケテー! コイツ脚ガ沢山アッテ、キモイデスー!」
「……はぁ」
蜘蛛型ロボットに張り付かれたロボの悲鳴に走りながらも耳を塞ぎたくなった少年であるが……そうも言っていられない。
これが『いつもの』相棒なのだから。
世界が2度目の滅びを迎えてから五百年後の地球。これは発掘士の少年が相棒の『ロボ』と共にロボットバトルの頂点を目指していく物語。
その序曲が今ここに……
「マスタァァァァ! 早クゥゥゥゥ! 背中ガ、ゲシゲシサレテマスゥゥゥゥ! イヤァァァァァ! ナンカ電撃モ出シテマスゥゥゥ! 私ハ、ドエムデハ無イノデスヨォォォ!」
……多分ロボットバトルで頑張る物語である。多分な。
遥か昔。世界が1度滅ぶ前。
地球に異星人がやって来た。
それ以前から度々地球を訪れていたリトルグレイな彼らであるが、地球文明の発達に伴い、ようやく大々的に人類と交流を結ぶ時期が来たと判断したのである。
彼らは多くの技術……人類からすればオーバーテクノロジーと言えるものを惜し気もなく人類に提供した。それはまるで魔法のような技術であったという。瞬間移動に物質転換。重力制御に人工生命体の精製法。その他諸々。
それらの技術は、あっという間に世界へと広まった。そしてその結果……あっという間に地球は滅んだ。
宇宙人のもたらしたオーバーテクノロジーを人類は使いこなせなかったのだ。自分達の手に負えない技術にあっさりと飲み込まれたのだ。
その結果、まるで魔法のように一夜で地球は滅んでしまう。
なお、オーバーテクノロジーの提供元である宇宙人達は『やっべー。失敗失敗……てへぺろぷぺぽ』と言い残して宇宙の果てへと逃げていった。
彼らは純粋に読み間違えたのだろう。人類がそこまで愚かだとは思っていなかった……のだろう。多分。
それはそれとして地球は滅んだ。
極僅かに生き残った者達を残して生き物は全滅。地球は死の星となり、そう遅くない時期に星としての崩壊を待つのみとなっていた。それほどまでに壊滅的なダメージを地球は受けてしまったのだ。
だが極少数の生き残った人類……月に逃れた最後の人間達は地球の再生を諦めなかった。
残された異星人のテクノロジーを駆使して地球のテラフォーミングに賭けたのである。
それは何十年、何百年掛かるかも分からない大事業だった。
それゆえに生き残った人類は肉体を捨て情報生命体となり月に拠点を作った。
世に言う『月面基地』である。
そして彼らは、その月面基地にて新たな生命を造り出した。
新たな生命体……人の形をした、より優秀な人型生命体……『傀人』の誕生である。
肉体を失ったかつての『人類』は彼ら『傀人』を使役し、自らの代わりとして地球再生の大仕事に取り掛かったのだ。
この『傀人』は見た目こそ人間そっくりであるが、肉体的、頭脳面で人類を遥かに凌駕するスペックを持たされていた。
具体的に言うと握力は女性型幼生体でも五百を優に越え、なおかつ知能はIQ換算で180を軽く越えていた。
幼女なのに怪力で天才である。
まさに文武両道。人類を越えた『新人類』として彼らは地球のテラフォーミングに従事させられたのだ。
そう……彼らの意思を完全に無視して。
傀人達にも生まれながらに『心』があった。スペックが馬鹿みたいに高いだけで、彼らは生まれながらにして『人間』だったのだ。
しかし『人類』はそうと見なかった。『傀人』はあくまでも道具として産み出した生命体。地球が再生を果たしたら、その役割を終えた段階で人類の新たな『肉体』として彼らを再利用するつもりであったのだ。
当然傀人達は反旗を翻した。テラフォーミング終盤でぶちギレたのだ。何せ待遇がブラック過ぎた。かつての『人』達は自らを『神』と称して傀人達を年中無休で働かせたのだ。
傀人達は月を包囲して待遇の改善、自分達の存在、人権を認めるように『旧人類』に迫った。
それは、わりと平和的なデモだったという。
だがしかし……飼い犬に、いや、自分達が作り出したモノに噛みつかれた『旧人類』は黙っては居なかった。彼らは長い時の中で傲慢になっていたのだ。それこそ自らを『永遠を生きる神』と称する程度には。
既に人間としての生き方を辞めていた彼らは『人』ではなくなっていた。それはメモリーに記憶された1と0の羅列である。
傀人から見れば……『旧人類』は機械と然程変わらないという皮肉である。
だがそれでも矜持だけは残っていた。
それを傲慢とするか羨望とするか……今もって答えは闇の中である。
このような流れで『破滅の始まり』は始まった。
傀人達の平和的デモは実力を以て『旧人類』から返答を受けることになった。
戦争が始まったのだ。
月から地球へと新たな生命体が投入された。
それは『傀人』を喰らう新たな人造生命体……通称『ゼリー君』だった。
名前こそ可愛らしいが、このゲル状人型生命体はそのゲルボディに如何なる攻撃も通用しないという悪夢の生物であったのだ。
神を称した『旧人類』が造り出した対傀人用殲滅兵器……それが『ゼリー君』だった。
このゼリー君、主食は勿論『傀人』である。
彼らはその無敵ゼリーボディの体内に自爆コアを持ち、ある一定量の傀人を喰らうと大爆発を起こすというキテレツな生態を持たされていた。
恐ろしい事にゼリー君は宇宙を泳いで地球に降り立つという並外れたガッツの持ち主でもあったのだ。
ゼリー君達は大気圏突入もそのプルプルボディを震わせて、あっさりと切り抜けたという。
ゼリー君、しゅごい。
ゼリー君、プルプル。
『くっ、これが地球の重力かっ』と地球に降り立ったゼリー君が言ったとか言わなかったとか。まぁ多分言ってない。
この『ゼリー君』の投入により傀人達は一気にその数を減らしていった。月面基地を取り囲んでいた者達も皆、ゼリー君に食われ自爆に巻き込まれ宇宙の藻屑と化した。
如何に高い能力を持っていても傀人達は普通に喰われた。ゼリー君が無敵過ぎたのだ。
そしてゼリー君の満腹自爆によって緑が戻り始めていた地球は穴ぼこだらけとなっていった。
ここでゼリー君襲撃による大混乱からようやく落ち着いた傀人達は見切りを付けた。平気で地球を傷付ける『旧人類』に愛想が完全に尽きたのだ。
元々愛想があるとも言えなかったが、それはそれ。
傀人達は彼らと共にテラフォーミングを従事させられていたアンドロイドやAIロボット達と協力して人間の殲滅へと舵を切った。
旧人類と新人類……『造られし者達』の反逆の始まりである。
傀人にはテラフォーミングに当たり、人類に付け加えられた特殊な能力があった。
それは機械との『融合』能力である。
機械と融合し、そのパフォーマンスをアホみたいに跳ね上げるという外道な力である。
一度融合したらもう二度と元には戻れない。そして長くても数ヵ月の内に必ず死ぬ。
人間から無理矢理に与えられた『融合』という力はそういう力であったのだ。元は異星人のテクノロジーから編み出された技術である。人間達はそれを『傀人』に組み込んだのだ。
テラフォーミングは生半可な事業ではない。機械との融合という馬鹿みたいな発想が無ければ叶わぬ夢でもあったのだ。
だから一概に『旧人類』を批判することは出来まい。あまりに外道ではあるが。
傀人達はその忌み嫌う力を駆使してアンドロイドや機械生命体達と共にゼリー君に立ち向かった。
ゼリー君は好き嫌いが激しいゲル状生命体だった。機械はノーサンキューという舌をしていたのだ。機械と融合した傀人は捕食されても『……ぺっ!』と吐き捨てられる有り様であったという。
……ゼリー君は中々にグルメであったようだ。
吐き出したあとは、そのプルプルな背中をプルンと震わせて不満を表したらしい。
ゼリー君、背中で語る。
こうして傀人達は絶対無敵ゲル状生命体ゼリー君を切り抜けた。宇宙を航行できる飛空船やテラフォーミングには必要無さそうなのに何故か作られていた宇宙戦艦と融合し、その大艦隊で月を囲むことに成功した。
人と造られし者達との戦争に勝敗が着いたのだ。
被創造物が創造主を打ち負かしたのだ。
だが……だが人間はそれを認められなかった。傀人達から送られた最後の降伏勧告を怒りと共に無視したのだ。
そして最期の破滅が起きる。
旧人類は月面基地で新たなゼリー生命体を作り出し、今度こそ傀人達を根こそぎ駆逐せんとした。しかし急造した究極ゼリー生命体『アダマンゼリー』が月面基地で暴走し、月が崩壊する事態となったのである。
テクノロジーを扱いきれなかったのだ。図らずとも以前地球が滅んだ時と全く同じ構図だった。
つーか、ゼリーなのにアダマンは無かろうよ。
月は粉々に砕けていった。そしてなりそこないのアダマン君と共に地球へと降り注いだ。それは何日にも渡った。月はバラバラになって降り注ぎ、最後には大きな火の玉となって海に墜ちて巨大な津波が地球上の全てを押し流した。
こうしてまたしても地球は死の星となったのだ。
これがニ度目の世界崩壊。通称『月の崩落』である。アダマンドロップではない。
アダマン君は地球への落下に耐えられず大気圏で消滅した。
地球に降り立っていたゼリー君達も月の崩落により全滅した。絶対無敵のゼリー君達ですら耐えられない死の雨が降り注いだのである。
そしてその『月の崩落』から五百年。
地球はかつての美しい姿を取り戻していた。
蒼く……ただひたすらに蒼く輝く星。
月が落ちた影響で陸地の大半が無くなった蒼の星、地球。
世界各所に点在する島、そこでは『人』と『機械』が仲良く暮らしている。
『傀人』と呼ばれた人造人間達と心を手に入れた機械生命体達が手を取り合い……
「ギュォォォォ!? ソンナトコニ電撃ハ、ラメェェェェ!」
「……とりあえずボムで全部吹き飛ばすから……多分死にはしないよ。うん……多分」
ジョニー少年の掌から何かがポイッと投げられる。
そして三秒後。
かつて五百年以上前に空を駆けていた宇宙船の残骸は、ちゅどーん! というお約束すぎる音と冗談みたいなキノコ雲に呑まれていった。
……とりあえず次話に続く。
最初に白状しておきます。この物語は道半ばで完結しています。一区切りついた所で終わっているのです。『ナマコオンライン』と同じですね。
作者としては本作よりもナマコの方が完成度高ぇなぁ、と思ってしまったので、今、とても複雑な心境です。
こんなの出していいのかなぁと。
でも出しますよー。これが今の全力全開です。
正直、人に見せられるレベルに到達していない気もしますが、これが今の私の筆力です。
これで私が書き残した物語はあとひとつとなりました。それを書いてまだ生きる希望を私が持っていたら……この物語の続きがひっそりと綴られる事になるでしょう。
あ、真面目な話はここだけなので次話からは普通に楽しんでくださいまし。
ショタを巡る女達の戦いとロボットに振り回される少年の苦悩。それが今回のテーマなので。
少年の成長がテーマですぞ。
可愛い女の子も出るしアンドロイドのお姉さんも出るんですぞ?
メカメカしいメカ達も出るので多種多様な性癖を多角的にカバーする作品となっております。マッチョも出るし。
今回も実験的な構成になっているので……えっと……作風が一貫してないのは許してつかぁさい。その分、属性は一貫させてあるので、ある意味で作者の色は出てると思います。
……なんでこんな属性にしちゃったのかなぁ。小説を書いてることを誰にも言えなくなっちゃった。
みんなも小説を書く時は注意だよ。本当に恥ずかしいから。