【第91話】これからのドライアド
俺とレックの同時攻撃によってダメージを受け、吹き飛んだモードレッドは仰向けになって倒れたまま動かなくなった。もしかして死んでしまったのかと心配になったが仰向けのまま突然大笑いを始めたモードレッドは嬉しそうに呟く。
「ふははは、まさか負けてしまうとはな。それにレックが一皮むけるトリガーとなったのが他国の戦士ガラルドというのも皮肉な話だ」
モードレッドはひとしきり笑ったあと、手を使わずに体の反動だけで起き上がった。悔しいが元気な起き上がり方を見る限り全然ダメージはなさそうだ。とはいえ勝ちは勝ちだ、俺はモードレッドに謝るよう促した。
「あんたの弟は思っていたよりずっと立派だったみたいだな。一撃を貰って実感しただろ? さっきの侮辱を撤回してレックに謝れよ」
「そうだな、すまなかったな弟よ。私はお前を侮っていたようだ」
すんなりと謝るモードレッドの顔はどこか嬉しそうに見えた、初めて兄らしい姿を見た気がする。兄から認められてコンプレックスが解消できたのかレックは晴れやかな表情を浮かべていた。
しかし、レックは自分を律するように両頬をパシンッと叩くと真っすぐモードレッドを見つめて言った。
「いや、結局兄さんとガラルドに尻を叩かれて力を発揮できたに過ぎない。俺はまだまださ。それに多少戦闘面と精神面が強くなったところで投票戦は敗北濃厚だ、情けない限りだよ」
そう言ってレックは寂しそうに俯いた。モードレッドもどう言葉を掛ければいいのか迷っている様に見える。いつの間にか集まっていたレックの部下達も心配そうにこちらを見ていた。
結局世の中は勝者と敗者がいて、上と下が生まれてしまうものなのかと思うと虚しくなってくる。シンバードやドライアド復興組のように色んな国の色んな人種が手を取り合う事が出来ればいいのに――――偉大な先輩でもあるシン達の顔を思い浮かべていると俺に1つの案が舞い降りてきた。
俺はレックの目を真っすぐ見つめて提案する。
「お前は情けなくなんてないさ、だってこれから先はシンバード組と帝国の両方でドライアドを治めていけばいいんだからな」
「え?」
レックは口を開けたまま目を丸くして驚いていた。モードレッドもレックほどではないけれど驚いているようだ。俺は更に言葉を続ける。
「ドライアドは今、東西に分かれて復興しているが東には東の、西には西の空気感や一体感が生まれているだろ? なのにどちらか片方を完全に潰すのは勿体ないと思わないか? だったらそのまま2国合同で復興・統治を続ければいい。統治方法に関しても境界線を取っ払ってもいいし、そのままにして完全に東西で分業してもいい」
俺の言葉を受けて、モードレッドが問いかける。
「こちらとしてはありがたい限りだが、本当にいいのか? 単純にそちらのうまみが半分になってしまうが……」
「半分になるとは限らないぞ? すぐ近くで互いに刺激し合えば高め合える。魔獣に備えなきゃならないご時世だから大陸全体で協力して強くならなければいけない課題もあるしな。それにレックを褒める訳じゃないが気の良い第4部隊の連中なら上手くやっていけると思うしな」
「君の甘さはもはや国が動くレベルかもしれないな。よし分かった、帝国としてはありがたい話だから受けさせてもらおう。この提案は今、ガラルドが突発的に思いついたものだろうからシンとちゃんと話し合ってからにした方がいいだろう」
「ああ、モードレッドの言う通りだな。1度シンバードに持ち帰るよ。あと、合同統治を始めるのに1つだけ条件を付けさせてくれ。それは旧ドライアドの民を段階的に少しずつ今のドライアドに戻していってほしい」
俺は帝国の内情を探るために後出しで条件を提示する。正直、この条件はかなり大事になってくる。農作に精通した旧ドライアドの人間を得る事が大事だという点もあるけれど、それ以上に帝国の強引な人民吸収の本質を探って邪魔する狙いもある。
旧ドライアドの民は帝国本土に連れてこられてから、どういう暮らしをさせられているのか結局のところ分かってはいない。もしかしたらジークフリートのように死者が出るレベルの労役を課せられている可能性もある。
ドライアドの領地の半分を手に入れられるという提案を断るようなら、帝国は旧ドライアドの民を相当酷く扱っている可能性がある。逆に了承すれば、その時点で力強い労働力をゲットできることになる。どちらに転んでも俺達にとってメリットがあるだろう。
モードレッドは暫く考え込んでから返事をする。
「分かった、ガラルドの条件を飲もう。ただし、こちらとしても旧ドライアドの民が帝国本土から抜けていくのに色々と準備が必要になる。時間がかかる事だけは覚悟しておいてくれ」
「それでいい、よろしく頼む」
そして、俺はモードレッドと約束の握手を交わした。横にいるレックは嬉しそうにも申し訳なさそうにも見える複雑な表情で俺達のやり取りを見守っていた。
正式な決定ではないものの、約束を交わす事ができた俺達は夜のうちにシンバードへ使いを出す事にした。シンに領土を分け合う案ができたことを伝える為だ。そして今日のところは解散する事になった。
明日は投票戦の為に集まってくれた各国の代表達に合同統治の説明をする訳だが、争いの果てに結局領地を分け合う判断をした俺達のことをどう思うだろうか?
最初から分け合う事が出来ていれば各国の手を煩わせることもなかったのに……と責められるかもしれないが、そうなったらそうなったで仕方がないだろう。帝国と火花を散らすよりはよっぽどマシだ。
まぁ何とかなるだろうと楽観的に構える事にして俺はさっさと寝る事にした。
※
モードレッドとの戦いから一夜明け、目を覚ますと復興本部には既にシンの姿があった。どうやら深夜の内に馬を走らせてドライアドまで来たようだ、仕事熱心な男だ。
シンは俺の予想通り領地を分け合う提案に反対する事はなかった。
とはいっても「コロシアムでジャッジメントを使わせた事といい、ガラルド君はいつも突然びっくりするような言動を取る」と小言を言われてしまったわけだが……。
そして、昼前には俺達を含む各国の代表がシンバード側の復興本部に集まった。視察と投票をする気満々だった代表者達を前に俺が昨日の事を説明する。
「各国代表の皆さん、今日は投票戦の為に集まっていただきありがとうございます。ですが、皆さんにお伝えしなければならないことがあります、それは――――」
そして、俺はドライアド領を帝国と分け合って治める条約書を提示し、各国代表へ説明した。どの国もかなり困惑していたようだが平和的に解決したこともあり、何処からも文句が出る事はなかった。もっとも帝国のモードレッドが居る前で中々文句なんて言えるものではないのだろうが。
遠出してまで投票戦に来てくれた代表者達をせめて大いにもてなさなければと考えた俺達は豪勢な昼食を提供することにした。
「各国の代表者達に折角足を運んでいただいたのに、投票戦が無くなってしまって申し訳ありません。せめて食事と観光だけでも楽しんでいってください。皆さん、よい時間を――――」
「その前に帝国から少し大事な話がしたい。構わないかな、ガラルド?」
モードレッドは突然俺の話を遮り、真剣な眼差しで問いかけてきた。
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