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【第81話】青空

今回もサーシャ視点です、次回からはまたガラルド視点に戻ります。

 駆け足で扉へ近づき開くと、そこにはパープルズの四人が立っていた。一番前にいるフレイムさんが代表でサーシャへ挨拶してくれた。


「おはよう、サーシャ。ジークフリートでは世話になったね。今回はアクアとレインを加えた俺達四人が『僧院の慈善労働と償い』として来させてもらった。どうか俺達も目一杯働かせてくれ」


「いきなりでびっくりしたよ。それじゃあ四人ともよろしくお願いします、ありがとね」


 フレイムさんとブレイズさんの後ろで立っているアクアさんレインさんは気まずそうに下を向いている。思えばアクアさんとレインさんはコロシアム以来顔を合わせていないし、二人は私を強く虐めていたから尚更顔を合わせ辛い。


 だからサーシャは早くこのやり取りから抜け出したくて「じゃあ、あとは他の作業者の指示に従ってください」と言い、さっさと扉を閉める事にした。だけど、扉は手前に引っ張ることが出来なかった、アクアさんが急いでドアノブを掴んだからだ。


「待って、サーシャに言いたいことがあるの……これまで酷い事をいっぱいしてきて本当にごめんなさい!」


 アクアさんとレインさんは膝を着き、頭を長々と下げ続けた。


「あ、頭を上げて二人とも! もう気にしてないから」


「いいえ、いくら下げても下げたりないわ。特に私とレインは……。僧院に入って冷静になってから自分達の愚かさにどんどんと気づかされていったわ」


 二人は大粒の涙を落とし続けていた。とても芝居では出せないであろう涙は二人の本気を感じさせた。そこからレインさんが更に謝罪を続ける。


「サーシャを嫉んで虐めて、仲間であるガラルド君を襲撃して……。恋を失ったからってやっていい事じゃない。家族にだって一生かけても足らないぐらいに怒られたわ。だから少しでも多く罪を償わなきゃいけないのにジークフリートの件では死ぬのが恐くて助けに行けなかった……フレイムとブレイズは震える足を前に進めていたのにね」


 どうやら二人はジークフリート奪還作戦に参加できなかった件も相当な自己嫌悪に繋がっているみたい。だけど、普通に考えれば誰だって自分の命が惜しいものだからサーシャは二人を責める気なんて全くないのに。


「気にしないで、ジークフリートに関してはフレイムさんとブレイズさんが立派過ぎるだけだから。そんな事を言い出したら私情で仲間を故郷奪還の為に連れてきたサーシャはもっと駄目な人になっちゃうよ」


 二人はぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けてくれた。その目は許されたことを喜ぶ目ではなく、むしろ私を罰してくれと願っているように見えた。ずっと嗚咽が止まらない二人にどんな言葉をかければいいのだろう……。悩みに悩んだサーシャは二人へあるお願いをした。


「罪の意識が消えないなら、サーシャのお願いを聞いて。これから先の人生、サーシャが許可するまでずっとサーシャ達の為に働いて。サーシャ達はこれからもガラルド君を中心に世界を股にかけて頑張っていくの。そのお手伝いになることなら何でもいい、自分達の頭で考えてひたすら成果をあげ続けて。サーシャが納得したらその時は解放してあげる」


 キョトンとした顔でアクアさんが質問してきた。


「…………他の罪人みたいに心身を痛めつける罰を与えてくれないの?」


「既に反省している人にそんな事をさせたって何も意味がないからね。そうしてもらえないと辛いと言うなら人の何倍も働いてくれればそれでいいよ。今まで誰にだって優しかったガラルド君だってきっと似たような事を言うと思うし」


 二人は再び大粒の涙を流し始めた。レインさんがサーシャの手を握りながらお礼と誓いの言葉を発した。


「ありがとう……ありがとう……これからはずっとあなた達の為に……」


「うん! 改めてよろしくね!」


 ガラルド君のパーティーに入ってからずっと抱えていたモヤモヤが遂に解消された。何だかいつもと同じ青空なのに一層眩しく見える。


 故郷の問題も元仲間との確執も全て解消されたサーシャは無敵にすら思えてくる。最近は本当に幸せで怖いくらいだ。




※




そんな絶好調な日々を送っているとシンバードから出発した六日後、ドライアド跡地に知らない男の人が現れた。


「シンバードから来た復興者たちよ、私は帝国軍第四部隊のレックという者だ。代表者と話がしたい」


 レックという名前はどこかで聞いたことがある気がするけど思い出せそうにない。とりあえずサーシャは今いる元町長宅の扉を開けて出迎えた。


「初めまして、ドライアド復興計画の代表代理を務めています、シンバードのサーシャと申します」


「ん? 何だ子供じゃないか。本当に君が代表代理なのか?」


 初対面でなんて失礼な人なんだろう、久しぶりに本気で腹が立った。確かにサーシャはリリスちゃんと比べると多少貧相な身体をしているし、背も低くて子供っぽい顔つきかもしれないけど、それでも結婚が許される年齢の立派なレディなのに!


 問題にならない範囲で何か言い返してやろうと考えていると、部屋の奥にいるヒノミさんが駆け寄ってきてレックさんに声を掛けた。


「レックさんお久しぶりです! ヘカトンケイルのギルドで受付嬢をしていましたヒノミです。ガラルドさんがオーガを討伐した日から、あまり見かけなくなったのでどうしていたのかと気になっていたんですよ」


「あ、ああ、ガラルドか、そんな奴もいたっけなぁ……」


 二人のやり取りで思い出した。レックさんはガラルドさんを追放した元仲間の人だ。確か追放したガラルドさんに助けられた挙句、煽られて悔し泣きをしていたと聞いている。『そんな奴もいたっけなぁ』という言葉も見え見えの強がりだという事が分かる。


 サーシャはさっきの仕返しにレックさんへ皮肉交じりの質問をした。


「ああ、どんな方だったかはガラルド君からとても詳しく聞いています。ですけど、あいにく今日は代表であるガラルド君がいないので思い出話は出来ませんね。代理のサーシャでも構いませんか?」


「く、このクソガキ……。まぁいい、我々の要件は帝国から飛音鳩(ひおんばと)によって届けられた手紙に全て書かれてある。このまま君達に見てもらっても問題はないから、まずは読んでくれ」


 そう言うとレックさんは机の上に手紙を置いた。皆が読める位置に手紙を広げて読み進めると、そこには『帝国もドライアド跡地を欲しているからシンバードと帝国でどちらが統治するかを勝負する』ことが明記されていた。


 勝敗の判定は第三者である複数の他国が二国の復興実績や組織力を見て投票するらしい……一見平等に見えるけど、強大な帝国に忖度する国も多くなるだろうから、明らかにサーシャ達が不利になる。


 帝国はドライアドの民だけを自領に取り込み、ドライアド跡地はずっと放置していたというのにシンバードが復興に乗り出した途端に手を出してきた。その点を考慮すると攻撃的な意図があるとしか思えない。


 サーシャ達が呆然としていると、レックさんが勝ち誇った顔で問いかけてきた。


「大陸則(たいりくそく)に従って投票という形の勝負になる以上、君達の方が不利になるだろう。早めに降参することをお勧めするよ、フハハハ」


 レックさんはお手本の様に性悪な笑い声をあげている。正直腹が立つけれど、ここで怒った素振りを見せたら相手の思うつぼになるから頑張って堪えた。


 正直安全策を取るならば、今回の復興計画から手を引いた方がいいのだろうけど、きっとガラルド君もシンさんも勝負に出ると思う。リスクを取るべきところでリスクを取らないと何もかも中途半端に終わってしまうと思うし。


 周りを見渡してみても、ストレングさん、レナさん、ヒノミさん、お爺ちゃん、シンバード人、他国の応援者、誰を見ても暗い顔はしておらず、勝負を受けるべきだとサーシャの目に訴えかけている。


 皆の気持ちを受け取ったサーシャは胸を張ってレックさんに言い返した。


「サーシャ達がドライアドを復興したいという気持ちは変わりません。なので絶対に手は引きません。帝国の方々と統治権を争います」


「な! 本気か? 帝国の方がシンバードよりずっと大元が大きいのだぞ? それに他国との関りだって多い、勝てるわけがないだろう」


「各地に兵や民を派遣している帝国に復興に励む余力が残っていますかね? そちらの第四部隊もあまり活躍を聞いたことがありませんし規模が小さいのでは? 我々にも充分勝算があるように思えるのですが?」


「どこまでも生意気なクソガキめ……お前らが多少頑張ったところで――――」


「投票日まではまだまだ日にちがあります、それまではドライアドの中心から西側を帝国、東側をシンバードが復興しましょう。ドライアドは基本的に左右対称に作られているので不平等は無い筈です、お互い期日まで精一杯他国への実績アピールを頑張りましょう、それでは」


「ちょ、待て、まだ話は!」


 サーシャはレックさんに色々と言われる前に強引に話を終わらせることにした。レックさんにペースを握らせたくなかったし、仲間の士気を下げられたくもなかったからだ。何より、ガラルド君に酷い事をしてきた人物だから、仲間を貶される言葉を吐かれる心配もあった。


 規模が小さいとはいえ、一応国際的な話し合いで尚且つ相手は帝国なのだから、喧嘩腰過ぎたかなと不安になったけどストレングさんが「よくやったサーシャ」と言ってくれたから少し心が楽になった。


 だけど本番はここからだ。レックさんの言う通り帝国には資本もあれば他国とのコネもある。その点を考慮すると帝国の三割り増しぐらいで成果をあげないと投票してもらえないと思う。


 少しでも早くガラルド君達が帰ってきますようにと祈りながらサーシャ達は復興作業を続けた。


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