↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
175/459

【第175話】自分なりの工夫

※グラッジ視点です






 残る大型魔獣2匹のうち、北側にいる大型魔獣をやっつけるべく僕とソルさんは双蒸撃(そうじょうげき)を練習しながら北に走ることとなった。


「いいですかグラッジ様、双蒸撃(そうじょうげき)は火の剣と氷の剣が重ねることによって爆発を起こす技です。大事になるのは両方の剣における魔力のバランスと密度です、それはつまり――――」


 ソルさんは出来るだけ分かりやすく双蒸撃(そうじょうげき)のコツを教えてくれた。要約すると超低温に超高温をぶつけることで水蒸気の爆発を起こすような技であり、手元とパワーバランスが少し崩れれば技として成立しなくなってしまう。


 仮に成功しても自分の目の前で超爆発が起きる事になり、上手く処理しないと自分自身も怪我してしまう技のようだ。


 僕は仮に暴発してもいいように指と同じぐらいの小さいサイズで火と氷の剣を作り出し、小規模な双蒸撃(そうじょうげき)の練習をしていたが、どうしても火と氷どちらかのエネルギーが強くなってしまって爆発には至らなかった。


 20回以上トライしてみたものの結局1度も成功する事がないまま僕とソルさんは北エリアに着いてしまう。そこにはさっき戦ったゴーレムをそのまま銀色にしたような魔獣が西エリアと同じように城壁へ突進を繰り返していた。


 城壁を見る限り、かなり亀裂が入っているようだ。これ以上突進されると穴が空いて魔獣の侵入ルートを作らせてしまう。僕は一旦、双蒸撃(そうじょうげき)の修得は後回しにしてソルさんに提案する。


「ソルさん、今は上手くいきそうにない双蒸撃(そうじょうげき)は諦めて2人でもう1度鎌穿(れんせん)を撃ち込みましょう」


「イチかバチかよりも確実にダメージを与えられる技を当てた方がいいのかもしれませんね……無理を言ってすみませんでしたグラッジ様。再び我々の息の合った連携をみせてやりましょう!」


 僕とソルさんは互いに目でタイミングを取り合い、西エリアでの戦いと同様に鎌穿(れんせん)を放つべく空中へ跳び上がった。北エリアの銀色をしたゴーレムも動き自体は鈍く、僕達を視界に捉えたのは目と同じ高さまで上がってきて時だった。


 僕とソルさんはこの1撃で決めるつもりで鞘から豪風の刃を抜き放つ。


「「鎌穿(れんせん)!」」


 僕達が生み出した2つの刃は、さっきの戦い以上に鋭くゴーレムの額を削り取る。このまま倒れるか、もしくは西側のゴーレムと同じように反転して同士討ちをしてくれればと思ったが、こっちのゴーレムは手で額を抑えたまま子供の様に地団駄を踏み始めた。


「う、うわぁぁ!」


 超重量が生み出す連続の踏みしめは爆発音に似た音を放ちながら地震を起こし、思わず僕は声をあげて驚き、尻もちをついてしまう。


 そんな僕を遥かに高い位置から見下ろしたゴーレムは止まりもしなければ暴走して同士討ちをすることもなく僕の真上に右腕を掲げる。そして、そのまま左腕を右腕に叩きつけて砕き、大量の岩を僕に目掛けて滝の様に放出する。


 ただ岩が落ちてくるだけなら弾き飛ばす事も出来るけど落ちてきている岩はゴーレムの魔力も宿っていて頑丈かつスピードが乗っている。


 急いで立ち上がっても避けられそうにないと思った次の瞬間、ソル兵士長が2本の風の双剣を作り出し、まるで舞をしているかのように岩を1つ1つ弾き飛ばしてみせた。


 その姿は豪快でお堅い印象がある兵士長としてのソルさんとはかけ離れている。僕が小さな頃に憧れたソルさんとはまた違うカッコよさがあった。双剣も左右で長さも太さも違っていて、その違いが舞いに一層メリハリをつけているような気がする。


 ゴーレムの放った岩が次々と轟音をあげながら横の地面に弾き落されていくのを見る限り腕が砕けたゴーレムは戦力がガタ落ちしている。倒しやすくなったのではないか? と思ったけれど僕の考えは甘かった。


 ゴーレムは地鳴りのような咆哮をあげると肩の部分を白く発光させて地面に落ちた大量の岩を再び自身の体にくっ付け始める。肩から肘、肘から手へと接続していき、あっという間に元の状態へと戻ってしまったのだ。


 幸い額の傷は修復できていないものの、それでも腕を回復したゴーレムの方が僕達よりもずっとアドバンテージがある。現に大量の岩を風の剣舞で防ぎ切ったソルさんは肩で息をするほどに疲れ切っている。


 ゴーレムは真下にいる僕達を睨んでいる……復活させた腕で再び岩の雨を降らしてきそうだから逃げるか防御するかしなければ! だけど、ソルはさんは疲弊していて、もう1度防げそうにもないし走れそうにもない。僕が守らなければ!


 僕はこの窮地をどうすればいいのかを考えていた。振ってくる岩を鎌穿(れんせん)で蹴散らそうにも溜めの時間が足りないだろう。得意の氷属性で半球状の防御壁を作ろうかとも考えたけどゴーレムが落とす岩の質量は半端じゃないから連続の衝撃に耐えられはしないだろう。


 こういう時こそソルさんの剣舞のような力を受け流す技が有効なのだろう。左右で長さの違う風剣(ふうけん)を持って華麗に受け流す姿は本当にかっこよかった。


 僕は危機的状況にも関わらずそんなことを考えてしまっていた。すると僕の脳へ、まるで雷でも落ちてきたかのように突然1つの記憶が弾けた。それはお爺ちゃんが少しだけ見せてくれた双蒸撃(そうじょうげき)の事だ。


 あの時、お爺ちゃんは先に氷の剣を丁寧に作り出してから火の剣をサッと取り出して双蒸撃(そうじょうげき)を発動していた気がする。これは、もしかすると2つの属性の練度が違っていて氷の剣を生み出す方が苦手だから時間をかけていたのではないだろうか?


 双蒸撃(そうじょうげき)はバランスが重要な技だから、その確率は高そうだ。そう考えるとソルさんの双剣が左右で長さが違っていたのも利き手と逆の手では役割も器用さも違うから形状を変えていたのかもしれない。


 僕なりに結論を出して双蒸撃(そうじょうげき)を試みる事にしよう。目の前でゴーレムの岩墜としが迫っている以上、チャンスは1回限りだ。


 そんな時に1度も成功経験の無い技を試すなんて、どう考えても馬鹿げている。それでも横にいるソルさんは不安1つない笑顔で応援してくれた。


「グラッジ様なら確実に成功できます、頑張ってください!」


 そんな顔をされたら何が何でも応えたくなってくる。僕は右手に火の魔力、左手に水の魔力を溜めると、お爺ちゃんの双蒸撃(そうじょうげき)とは違う火の投擲槍(とうてきやり)と氷の投擲槍(とうてきやり)を作り出す。


「え? 槍?」


 ソルさんが口を開けて驚いているが、これが僕の編み出した答えだ。細長い槍は体積の調整がしやすい。そして得意な水属性の槍は自然と魔力が強くなってしまうから、その分長さを短くして、火の槍は逆に長くすることにした。


 昔、お爺ちゃんは剣の腹と腹をぶつけて双蒸撃(そうじょうげき)を発動していたけれど僕にはそんなに広い面積で熱と氷の融合を成立させることは出来ない。だから投擲槍の先と先を点で衝突させて双剣の代わりとすることに決めた。


 僕は獲物を狙う鷹のようにゴーレムの胸の辺りを凝視し、2本の投擲槍を同時に投げる。


「これが僕なりの双蒸撃(そうじょうげき)だっ!」


 僕の投げた2本の槍が合掌するかの如く吸い寄せられてゴーレムの胸部で衝突する。その瞬間、顔の皮膚が後ろに引っ張れているかのような凄まじい爆風と爆音が起こり真下でいた僕とソルさんはたまらず両手足を地面についた。


 1秒にも満たない時間ではあるけど重力が100倍にでもなったかのような風圧は今まで生きてきて経験したことの無いものだった。体が軽くなり真上を見るとゴーレムの体は膝から上が粉々に砕けて周辺100メードの範囲まで破片を飛ばしていた。


 自分が発動しておいてなんだけど馬鹿げた威力である。もし、お爺ちゃんのように双剣を使って自分の目の前に爆発を起こしていたら僕は死んでいたかもしれない。


 そう考えると双蒸撃(そうじょうげき)の使い方を紙に長々と書いてギリギリまで僕に教えなかったのは1歩間違うと死に至る技だったからなのだろう。


 偶然とはいえ投擲槍での発動を思いついて本当に良かった。お爺ちゃんみたいに爆発の規模や方向をコントロールできるようになるまでは至近距離での使用は避けておこう。


 ゴーレムの破片がどさどさと降り注ぐ中、呆気にとられたソルさんがハッと正気を取り戻し、小声で僕に呟く。


「まさか、こんなに危険な技になるとは……軽々しくやってみましょう! などと言ってしまい、すみませんでした……」


 逞しい体を小さく丸めて謝るソルさんの姿はいつものような威厳がなくて、何だか新鮮だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。