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【第159話】魔人




 グラッジの言葉に従って俺は床に落ちている六心献華(ろくしんけんか)の使い方が書かれた紙を拾って預かった。


 この紙には六心献華(ろくしんけんか)だけではなく、双蒸撃(そうじょうげき)の使い方も載っているから「双蒸撃(そうじょうげき)の使い方は後で書き写してグラッジに渡す、それでいいな?」と問いかけるとグラッジは首を縦に振った。


 六心献華(ろくしんけんか)を巡って一悶着あったが、これでようやく手紙の続きを読めそうだ。グラッジはグラドが残した最後の1枚を読み始めた。




――――私はあと何日生きられるだろうか? 刻邪病(こくじゃびょう)で痛む体を気迫で動かし、私は魔獣を狩り続けた。このままどこかで体がいうことをきかなくなるタイミングが訪れて、魔獣に殺されるのだろうと思っていた私の視界に見たくもない存在が映り込んだ――――


――――それは、かつて私と仲間達が戦った『魔人』だった。幸い遥か後方にいる私の存在に気付いていないようだが、奴がこの辺りを徘徊すれば見つかるのは時間の問題だろう。私が見つけた魔人はかつて五英雄が討伐した最初の魔人『ディアボロス』と少し似ている。もっとも体の色はディアボロスと違って青色なのだが――――


――――奴がもし『ディアボロス』と同じぐらいの強さならまだ他の戦士にも戦いようがあるだろう。しかし、五英雄が散り散りになったあと、私とリーファの2人だけで戦った『2番目の魔人』はディアボロスよりずっと強かった……。目の前の魔人が2番目の魔人と同等の強さだったら絶望的だ。あの時の魔人が本気を出して私達を殺そうとすれば造作もなかったことだろう。正直あの魔人との戦いは思い出すのも辛い――――




 『2番目の魔人』についてはイグノーラ図書館で読んだ書物にも細かい事は書かれていなかった。一体、どういう戦いだったのだろうか? もしかしたら孫のグラッジには話をしているかもしれない。グラッジに尋ねよう。


「グラッジは2番目の魔人についてグラドから何か聞いているか?」


「いいえ……元々過去の事を話したがらないお爺ちゃんでしたが2番目の魔人については特に話を避けていたように思います。それだけ強大な存在だったということでしょうか」


 そんな強い魔人がどうしてグラドにトドメを刺さなかったのだろうか。魔獣が人を襲う理由は大半が『食べる為』か『危険を排除する為』だと思うが、魔獣より知能が高い魔人の行動原理が分からない。


 もし魔人が何か魔獣とは違う明確な目的を持っていたとしたら目の前に現れたグラドを見逃す事に何かメリットがあったのかもしれない。とは言ってもディアボロスと2番目の魔人だけでも全然違う行動を取っていることから種族で統一された目的などは無い可能性もある。


 そしてグラッジは更に手紙を読み続けた。




――――新たに見つけた3番目の魔人をとりあえず『青の魔人』と定義しておくこととする。青の魔人がどれほどの力を持っているのかは直接刃を交えなければ分からないが相当な強さを持っていることは確かだろう。私の人生最後の仕事は六心献華(ろくしんけんか)を青の魔人に当てる事になりそうだ――――


――――もし、青の魔人が死の山の魔獣をコントロールする存在だとすれば奴を殺す事でイグノーラと周辺国の魔獣被害を減らせるかもしれない。まずは近くを飛んでいる奴に近づいて確実に六心献華(ろくしんけんか)を当てる方法を考えなければ――――


――――長くなった手紙もここで最後になる事だろう。ここまで読んでくれた者が誰かは分からないが、あの世から礼を言わせてもらう、本当にありがとう。もし、この手紙を読んだ者が息子・孫、もしくは2人に近しい者なら私が死んだことをエリーゼに伝えてほしい。彼女はきっとイグノーラから南東にある小さな村で住んでいるはずだ――――




 ここで手紙は終わりかと思ったがグラッジが「まだ続きがありま……え、この歪んだ文字は一体……」と声を震わせて驚いていた。俺も手紙を覗き込むとそこにはとても読み辛いミミズが這ったような文字が書かれている。


 どういうことだ? と俺が尋ねるとグラッジは少し先を読んで文字がおかしくなっている理由を見つけたらしく、そのまま手紙を読み始める。




――――青の魔人と接触したら、もう手紙に続きを書き込むことはないと思っていたが私はまだ生きている。いや、生きているというよりは青の魔人に死なない程度に嬲られているだけと言うべきか。奴は私がここの洞窟にいることを知ってから断続的に魔獣を送りつけているのだ。やはり青の魔人は魔獣に命令を送ることが出来るようだ。青の魔人が差し向けた魔獣の猛攻によって体はボロボロになっていくばかりだ。今では利き腕を怪我して、ろくにまともな文字も書けない。――――


――――青の魔人になんとか六心献華(ろくしんけんか)を当ててやりたいが奴はずっと空を飛び続けて射程範囲まで近づいてこない。いくら「降りてこい、1対1で戦え!」と言っても「じわじわ死んでいくのを眺めるのが楽しいんじゃないか!」と下衆な笑い声をあげる、最低な魔人だった――――


――――青の魔人は私が死なないギリギリのラインを狙って毎日数百匹の魔獣を送り込んできた。もう、こんな地獄の日々が5日も続いている。奴に殺されるつもりはないし、刻邪病(こくじゃびょう)で死ぬつもりもない……私は必ず六心献華(ろくしんけんか)で相討ちしてみせる――――


――――その為に青の魔人を逆上させて直接私に攻撃を仕掛けてくるように仕向ける必要がある。私の狙いが正しければ『あの言葉』を伝えればきっと青の魔人は逆上して私に近づいてくるはずだ。その時こそ、私の罪に刃を突き立ててみせる――――




 手紙はここで終わっていた。グラドがいう『あの言葉』とは一体何だろうか。青の魔人を理解している様子からも何か関係があったようにも思える。それに『今こそ、私の罪に刃を突き立ててみせる』という言葉にも青の魔人に対する因縁じみたものを感じる。


 しかし、最初に青の魔人を見かけた時は青の魔人を知らなかったような書き方をしていたはずだが一体どういう事だろうか? 距離を取って魔獣を差し向けてくる青の魔人と何度か会話を交わしたうえで弱点や脆さ……みたいなものを見つけたのだろうか?


 自信のありそうなグラドの書き方も気になるところだ。とはいえ青の魔人に六心献華(ろくしんけんか)を当ててグラドも青の魔人も消滅してしまったようだから、もう確かめようはないのだけれど。


 長かった手紙を全て読み終わり、俺達は全員放心状態になっていた。英雄グラドが歩んできた激動の人生は俺達の心に強く残り続ける事だろう。





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