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【第149話】イグノーラと死の山




 ガーランド団がカリギュラに着いてから早50日が過ぎていた。俺達は何度もアビスロード下層への往復を繰り返し、パラディア・ブルーを大量に集める事に成功した。


 グリフォンがいた層よりも更に下層へと足を伸ばした俺達は気が付けば75層にまで達しており、ウィッチズケトル特製の直通螺旋階段も50層・60層・70層にまで伸ばすことが出来た。


 ウィッチズケトルとガーランド団の技術者が協力したとはいえ、こんなに短い期間で直通階段を作り上げる彼等は大陸トップクラスの技術者グループなのではないかと思える、正直鼻が高い。


 40層より先の階層では強くて珍しい魔獣も多く、素材で多くの金を稼ぐことが出来た。おまけに修行も捗ったし一石二鳥である。


 修行と言えば新たに『俺、サーシャ、グラッジ』が魔力循環の修行を詰めていき、とうとう色堅(シキケン)を会得する事ができた。ゼロやリリスと比べれば練度が低いかもしれないが、それでも以前よりは随分強くなったと思う。


 なおシルバーはまだ習得に苦戦しているようで彼の前で色堅(シキケン)という単語を口にするのは暗黙の了解で避けられている。


 とはいえ、他のハンター達も魔力循環の修行をしているものの未だ色堅(シキケン)は会得できていないのだから、そんなに焦らないでほしいものだ。そんなことを言えるのは俺が会得できていて余裕があるからなのだろう、俺って実は凄い人間なのかもしれない!


 と、図に乗るのはここまでにしておこう。パラディア・ブルーを集め終わったのだから、そろそろ俺達は次の目的に向けて動き出さなければいけない、そう『死の山の調査』だ。


 もし、イグノーラへの魔獣襲撃が強くなっている原因を掴むこと出来て、その原因がグラッジではなく死の山にあるのならグラッジの抹殺指令を取り消させることが出来るかもしれない。


 それに死の山が全ての原因ならばモンストル大陸各国の力を一か所に集結させて根本から魔獣活性化を止められる可能性だってある。俺達の次の旅が大陸の命運を分ける大事なものになるかもしれない。


 俺達は長い間世話になったウィッチズケトルの大掃除を終えて旅立ちの時を迎えようとしていた。


 ゼロはウィッチズケトルの代表として死の山の調査についてくるらしい。あとは他の学者さん達に別れの挨拶をするだけだ。各部屋へ挨拶周りをしていたその時、突然別階層にいるウィッチズケトルの職員が息を切らして俺達のところへやってきた。


「ハァハァ……ゼロさん、ガラルドさん、大変です! イグノーラがかつてない数の魔獣に襲われているとの報告がありました!」


 職員の報告に俺達全員が驚かされた。魔獣寄せを持つグラッジがイグノーラから大きく離れてカリギュラにいる今、イグノーラを襲う魔獣が減る事はあっても増える事はないはずだ。訳の分からない状況に困惑しているとゼロがハッと思い出したように呟く。


「思えばグラッジ君がカリギュラに来たからカリギュラ全体が魔獣に襲われまくると思っていたのに然程頻度は変わってはいなかったね。これはグラッジ君の魔獣寄せが弱くなっているとか神獣が魔獣除けになっているのかもしれないね。いや、でもそれだとイグノーラが襲われている理由が分からない……もしかして、死の山に近いからか?」


 死の山に異変が起きていて、その影響が近い場所から順に起きているのだとしたら、いずれはカリギュラだって大変なことになるし俺の故郷ディアトイルやコメットサークル領だって死の山とは近い距離にあるから危険だ。


 まだ仮説の段階でしかないけれど堪らなく不安である。でも、俺達に出来る事は死の山の調査とイグノーラの防衛を手伝うぐらいしかない、といってもイグノーラに顔を出した時点で捕らえられる可能性もあるが……。


 ここはガーランド団代表である俺がバシッと指示を出すべき場面だったのかもしれないが、それよりも先にグラッジが迷いなく言い切った。


「死の山へ向かいましょう。きっと死の山が全ての根源であり、そこをどうにかしなければ始まらないと思います。だけど、イグノーラの状況も気になりますので死の山調査組とイグノーラ組の二手に分かれましょう。僕は魔獣を一層引き付けてしまう可能性もあるので死の山調査組に入ります」


 グラッジの案が最良かもしれない。特に反対する者もいないようでシルバーが更に作戦を詰める。


「良い作戦だグラッジ、だったら俺はイグノーラ組に回ろう。腕の立つガラルド、リリス、サーシャは死の山調査組に入って船で死の山の近くまで行くといい。そうすれば、陸地から離れる分魔獣寄せの影響がイグノーラに及びにくくなる。カリギュラにいる間に船に魔石燃料も積み込んだから三日とかからずに死の山付近まで行ける事だろう。イグノーラ組は状況が分かり次第、死の山の入口へ使いを送ることにするぜ、それでいいな?」


 ここまでくれば、あとは他のハンター達をどんな割合で分けるかを決めるだけだ。どちらも敵の勢力が未知数なだけに難しいところではある。俺は最悪の事態を想定して自分なりの配分を指示した。


「死の山調査組は11人だけでいいだろう。あんまり多くてもパラディア・ブルーが足りなくなるし、あまり強くないメンバーがいたらフォローも大変だしな。そして、未知の手強い魔獣が多い可能性も考えられるから同行するのは強さ的に上位の人間が望ましい。だから俺、リリス、サーシャ、グラッジ、ゼロの他にパープルズと門番兄弟の力を借りたい、それでいいか?」


 シルバーは俺の案に首を縦に振った。一方パープルズの4人とエナジーストーンの門番兄弟はまさか自分達が選ばれるとは思っていなかったようで目を点にして驚いていた。


 だが、俺は彼等が腕の立つ人間だと身をもって知っている。全員俺が1度は戦った人間だからだ。


 まぁブレイズだけは一撃でやられている光景をコロシアムとジークフリートの計2回見てしまった訳だが、それは考えない事にしよう。ガーランド団は皆、死の海を乗り越えてウィッチズケトルでの修行を終わらせた精鋭なのだから。


 人員配置も決まったところでいよいよ出発の時だ。俺達はウィッチズケトルの面々と別れの挨拶を交わし、カリギュラの入口まで来た。そこからは船に乗りに行く『死の山調査組』と『徒歩でイグノーラを目指す』組に分かれた。


 死の山調査組は11人しかいない事もあり3隻の船を動かすわけにもいかず、2隻をカリギュラ近くの海岸に停泊させたまま、残り1隻の船で死の山へ向かった。





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