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【第135話】船室での語らい




「一気に片をつけたかったようだが連撃も暴風も決め手にはならなかったようだな。もう何度言ったか分からないが、今度こそ諦めてくれるかガラルド」


 魔量が底をつく勢いで放ったサンド・テンペストをソルは難なく冷静に避けた。その時、不敵に微笑んでいたことからも少し戦闘を楽しんでいるように見える。一時は本当に殺されかけたが再度降参を促す辺り、やっぱり極力殺しは避けたいと思っているようだ。


 ソルの気遣いを充分に感じながら俺は言葉を返す。


「やっぱり優しくて強いな兵士長さんは。何度俺らが抵抗しても降参を勧めてくれるもんな。だけど賢さは足りてないみたいだぜ? この勝負、俺達の勝ちだ」


「何を言っている? 満身創痍の貴様に今更何が出来――――ハッ! まさか……」


 ソルは俺の方を見ながら言葉を詰まらせて驚いた。いや、正確には俺を見て驚いたのではない、俺の肩に手を当てているリリスの姿に驚いているのだ。ソルは更に言葉を続ける。


「そうか、そういうことだったのか……。打撃の応酬は時間を稼ぐため、そして、最後の暴風は――――森の木々を削り、船まで瞬間移動する為の直線経路を作ったという訳か」


「正解だ。海岸横の森は背の低い木が多い。ここからでも船から出る煙が確認できるからな。その方向に削ってしまえば船が視界に入る」


 それだけではなく、今いる位置から海岸まであまり多くの木が進路を塞いでいなかった点も上手くいった要因だ。更に13戦士の応援も少なかったことなど、あらゆる点で俺達の運がよかったから逃げられたに過ぎない。


 俺はアイ・テレポートで飛んでしまう前に別れを告げる。


「あんたとは色んな意味で敵対したくなかったよ。立場が違えば仲良くなれていたような気がするからな」


「ふっ、敵に何を言われても惨めなだけだ。さっさと瞬間移動で消えてしまえ。悔しいが私には瞬間移動を止める術がないからな。だが、今回は逃げられても次は確実にグラッジを抹殺する、精々頑張って逃げるのだな」


「ご忠告どうも。それじゃあ行こうか、リリス」


「……はい、分かりました、アイ・テレポート!」


 激闘を終えた俺とリリスは瞬間移動で船へと戻った。




※




 俺とリリスが船の甲板へ着地するとガーランド団の皆が元気に出迎えてくれた。船から海岸の方を見渡すと兵士達が弓と杖を持ったまま悔しそうにうなだれていた。どうやら完全に射程範囲から逃れられたようだ。


 そして船横の海面には大量の矢が浮かんでいて船にはほとんど傷がついていない。その点からもガーランド団は見事に船を遠距離攻撃から守り切ってくれたと考えられる。


 更に海の様子を確認してみると海面が薄っすらと氷結し、短い道が出来ているのも目に入った。グラッジ達は無事氷の足場を作って海を渡って船に乗り込めたようだ。


 俺とリリスが甲板に着地してから30秒ほど経った頃だろうか。船の下部から這い上がってきたシルバー、グラッジ、サーシャは安堵のため息を吐いて、その場にドサっと座り込む。


 俺と同じように相当疲れているようだ。俺達は一旦船室に入って今後のことを話し合う事にした。


 他の船員に船の移動を任せ、主要メンバー5人は船室の中でくつろいでいた。ようやく俺の息切れが収まったところでシルバーが拍手で逃亡成功を祝い出す。


「いやー、見事に船を傷つけずに兵士から離れられたな。特にガラルドはソルを抑え込んでいたわけだし大活躍だな」


「褒めてもらって光栄だが、特に活躍したのは戦力の配分を考えたサーシャと開幕からソルの攻撃をしのぎ続けていたグラッジだと思うぞ。あんな手強い兵士長相手に15歳の少年がよく頑張ったな、偉いぞ」


 俺は手放しにグラッジを褒めた。しかし、グラッジは気まずそうに下を向いたかと思うと椅子から立ち上がり、深々と頭を下げて謝り始める。


「僕は褒められる資格なんてありません、それより謝らせてください。魔獣寄せのスキルを持っている事を黙っていて本当にすいませんでした! 僕のせいで皆さんも狙われる立場に……」


 グラッジは今にも泣きだしそうな、それでいてホッとしたような顔をしている。バタバタと合流して船に乗り込む形になってしまったし、腰を据えて謝ることが出来なかったぶん、ようやく謝ることができてスッとしたのかもしれない。


 だが、あんな呪いを持っていれば旅人にカミングアウトできる筈が無いし、周りの人間が少なからずリスクを伴うのも当然だ。俺はすぐにグラッジにフォローを入れた。


「それは仕方の無い事だ。俺がグラッジの立場でもきっと黙っているさ。だからもう、この件で謝るのは無しだ。それよりグラッジに聞きたいことがある。魔獣寄せのスキルっていうのは強まったりコントロールできたりするものなのか? グラッジの爺さんであるグラドのことも含めて色々と教えて欲しい、これからの為にもな」


「お爺ちゃんのことも知っているんですね、分かりました、お話します。ですが、その前にガラルドさん達はイグノーラの内情をどの程度まで知っていますか?」


「俺達はまず王と謁見した際に――――」




 そして、俺はグラハム王と話して得た情報と図書館で得た五英雄についての情報を全てグラッジに伝えた。グラッジは頷きながら情報を整理して言葉を返す。


「あの短期間に色々と調べられたのですね。そうです、お爺ちゃんは五英雄と呼ばれていて、かつては救世主扱いされていました。同じ体質を持つ者同士、僕とお爺ちゃんは約7年間2人旅を続け、魔獣と戦う毎日を過ごしていました。ですが、常に一緒にいても、お爺ちゃんが過去を語ってくれることはほとんどありませんでした」


 グラッジは確か7歳頃に魔獣寄せのスキルを発見して祖父との暮らしを始めたはずだ。だから7歳から十14歳ぐらいまでは外で暮らす生活を送っていた計算になる。そしてグラッジは更に昔話を続ける。


「お爺ちゃんには狩りや野営の仕方など色々な事を教えてもらいました。ですが、魔獣寄せについては『自分の意思でどうにか出来るものではないから諦めろ』と言われてきました。どうやら魔獣寄せは自分の意思で強弱する事は出来ず、加齢によって強くなってしまったりもするらしいです」


 年老いているとはいえ五英雄の1人に鍛えられたら相当強くなれる事だろう。グラッジが強い理由に更に説得力が増した気がする。


 俺は益々五英雄グラドのことが気になってきた。人柄でも些細な事でも何でもいいから教えて欲しいとグラッジへ尋ねた。


「ここからカリギュラまではまだまだ時間がかかる事だし、今のうちにグラドがどんな人だったか教えてくれないか? なんなら今後に繋がる情報じゃなくてもいい。単純に友人であるグラッジの祖父がどんな人かが知りたいんだ」


「いいですよ! それじゃあ皆さんの家族の事も教えてください。厳しい旅の息抜きになりますよね」


 そこから5人で順番に家族の事を語り合った。リリスは女神の仲間と楽しく暮らしていたことを、サーシャは実の両親との僅かな記憶とラナンキュラ家の事を、シルバーはジークフリートでやんちゃをしていた事と両親と義妹の事を楽しそうに話していた。


 俺には家族がいないという事を伝えた時にグラッジが申し訳なさそうな顔をしたけれど横から顔を出したリリスが「もうすぐ女神の妻ができますけどね」と言って暗くなりそうだった空気を明るくしてくれた。


 とはいえ俺にも故郷ディアトイルにお世話になった人達は沢山いる。親代わりに育ててくれた村長の家と村長の兄弟の家で交互に寝食を共にしていたし、日が暮れるまで冒険ごっこをして遊んだ友人もいる。


 いつか俺自身立派になって大陸から身分差別が無くなった時には胸を張って里帰りしたいものだ。


 そしてグラッジは祖父グラドとの忙しくも楽しい日々を語ってくれた。魔獣を倒す祖父の背中はとても逞しかったが親から離れて泣きじゃくるグラッジをあやすのはとても下手だったらしい。


 どうにかグラッジに元気になってもらいたいグラドは木の枝や石で玩具を作ったりして元気になってもらおうと頑張ってくれていたらしい。どこにでもいる普通の祖父と孫のやりとりが思い出話に詰まっていた。


 グラッジの話を聞いていた俺は「いつかグラドに会ってみたいな」と呟くとグラッジは遠い目をしながら1年前にあった出来事を話し始めた。


「僕の楽しかった思い出話はここまでにして、そろそろ1年前の話をしなきゃいけないですね」





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