8話 百合子の憂鬱
百合子目線。
総一郎さんがトラックで行ってしまった。
溜め息をつき、さっきから感じている視線をさっと見る。
何かが建物の陰に隠れた、すばやく近づく、二度見する頃には目の前に立ってやる。
そろりと物陰から出てきた人物に。
「コハクッ!」
小柄な軍人は百合子を見上げながら怯える。
「ゆ、百合子さん、えっと、こんにちは・・」
「こんにちはじゃありません!コハク、いつまでそうしているのですか?こそこそと嗅ぎ回って。」
「百合子さん、ボクは百合子さんが・・」
「あなたの好意に応える気はありません。」
間髪入れずに答える。
そうでなければ、期待させてしまう、改めてはっきりと断ろう。
「私は総一郎さんを愛しています。私達の宝物が、この子です。」
「だー!」
呼ばれたと思って返事をする光一郎。
「ズ。」コハク
「ズ?」私
「ズ、ズルいズルいズルいーー!」
そう言って走り去ってしまった。
二度目の溜め息。
「ゆーりーー。」
カオルコが見張り台からスナイパーライフルを肩に担ぎながら降りてきた。同い年の26歳、センター分けのショートカットがいかにも、スポーティーなタイプの私の同期。
走り去るちっちゃいのを見ながらカオルコが茶化しにきた。
「さっきのコハクだよねぇ、朝からどったの?告白でもされたか?」
うっ
「はっきりと断りましたが諦めたようには思えなくて。」
「ゆりのどこに惚れたんでちゅかねぇ。」
光一郎に問いかけるから赤ちゃん言葉になってる。
「悪い子ではないんですけど。」
訓練も勉強も一生懸命だし、人を傷つけるようなタイプでもないし、ただ恋する対象が私なのが問題なだけで、と考えていると、先に宿舎に帰るカオルコから三度目の溜め息をつかされる。
「あんまり難しい顔ばっかしてるとシワが増えて、総君に嫌われるわよ。」
「大きなお世話です!・・・はぁ。」
まだ午前中だというのに、先が思いやられる。
次は総一郎。