5話 出来る事、出来た事。後編
次くらいは、百合子目線で出来たらいいな。
左側は老人に肩を預けているので、無我夢中で右手を出す。
昔から知っていたかのような感覚で掌を相手にかざしながら、
「か、風!」心で思うだけでもよかったが、声に出てた。
イメージだと、数メートル吹っ飛んでる予定だったが、ちょっと後ろにふらついた程度だった。
それだけでじゅうぶんだった。
追いついた百合子のハイキックがトカゲ女の顔に直撃し、倒れた。
よくわからない感覚はさておき、今は、安全の確保。
「さぁ、今のうちに、車まで行こう、話はそこで。」
車と飼い猫のモチは無事だった、呑気に顔を洗ってた。
車に乗り込んで、互いに自己紹介をした、老人はジゴロウと言って、さっきの道場の師範だった、人間のままだ。
ユキはジゴロウの孫娘12歳、半獣人でいいのかな、シンイチさんは完全な狼男だった。牛の角の人やユキは人の顔を維持してる。
軍事駐屯地まで近い、車は畦道を走る。運転しながら百合子が思い出したかのように言う。
「私もさっきの不思議な能力が使えるかも知れません、火の感覚があるんですが、燃えそうなので使っていません。」
「僕も、風だけじゃなく、火もある、それに氷と、石なのかな?土の属性の感覚がある、さっきは一番安全そうな風を使ってみたんだ。」
特殊な能力に目覚めた人、獣人や半獣人、理性のなくなった人、変化のない人。
まだまだわからない事だらけだ。
出来ない事や出来なかった事を悔やんでいられない。
軍事駐屯地に近づいてきた、周りが畑なので、防犯として見晴らしがいいし、食料も調達しやすいかもしれない。
門付近に誰かがいる。
そうか、見晴らしがいいんだから、車が来れば警戒されるのは当然だ。