4話 出来る事、出来た事。前編
これも総一郎目線、三人称が難しい
車で市街地に入った時に、僕は言う。
「ごめん、百合子さん、きっと全員を助けながら軍事駐屯地までは行けない。」
少し表情が曇る、なぜなら、
百合子は、国を護りたい一心で入隊した。だからこそ、こんな不測の事態で町のみんなを救いたいと願うだろうけど、
僕は百合子を守りたい、例え打算的だと言われたって、でも。
「でも、助けれる命なら助けよう。」
表情が晴れた。
「はい、そのための服ですので。」
助手席から見て、ひどい有り様だと思う。
無造作に倒れている人、獣人とうつろな目をした人の争い、窓や玄関を閉め籠城する人、もし、ここで車を止めようものなら、四方八方から襲われるだろう。
諦めて、市街地を抜ける事を決心する。
だんだんと静かになってきた。
畑に差し掛かったときに女の子の声が聞こえた。
少し開けた場所だったので車を止めた、警戒しながら車を降りる。
市街地の路地から女の子が出てきた、もんぺ姿でおかっぱ頭だけど、
人間じゃない、耳が側頭部に付いてる、獣人?
「助けて!おじいちゃんが私を逃がすために怖い人たちと戦ってるの。」
理性がある。
理性のある獣人もいるのか?
百合子が女の子と目線を合わせながら声を掛ける。名はユキと言う。
「あなたのことも気になるけど、まずは、おじいさんの所へ案内して。」
「こ、こっち、おねがい。」息を切らせながら来た道を走って戻る。
女の子、百合子、光一郎を抱えた総一郎の順で路地を通る。
路地を少し進んだ所で道場の裏手にやってきた。この路地を守るように、胴着を着た老人が立っている。
「ユキ、どうして戻ってきた!?ん、あんたがたは、正常なのか?」
痩躯の老人のどこにそんな体力があるんだと言わんばかりに、もう何人もの人が倒れている。
後から聞いたが、御年72歳とは思えない動きで、獣人、理性のなくなった人を捌いている。
先の先を見抜き、相手の重心をずらしていなす。頭で分かっていても、そうそう出来るものではない。
さすがに体力の限界か、片膝をついた。
老人に襲いかかる獣人がいたが、百合子の方が速い。
百合子の前蹴りで獣人が吹っ飛ぶ。
ボクシングのような構えで様子を窺う
百合子のファイトスタイルは軍隊格闘術で、打撃、絞めに加えて、あらゆる状況化でも敵を制圧する技術。ナイフ、銃、ただの竹箒でさえ、武器になりうる。
視界に写るのは、あと二人。うつろな目の青年と牛の角が生えた太った獣人。
「総一郎さん、おじいさんをお願いします。」
視線は敵を見据えたまま、百合子は 軍用手袋を着けながら言う。
老人の弧の動きに対して、百合子は直線的だ。
青年が右腕を振りかぶって来るのを左ストレートで距離をとって、後ろ回し蹴りで倒す。
牛の角が生えた獣人も動きが素人なのか、ステップで軽くかわし、左右フックのコンビネーションから、両手で両角を握り、飛び膝蹴りをかます。
実に鮮やかだ。見とれている場合ではなかった。
「おじいさん、路地の先に車を置いてます、そこまで、」
肩を貸そうとしたが、光一郎も抱えているのでうまくいかない。
「ユキちゃん、この子を頼めるかな」
「あ、はい。」
きっと弟か妹が居たのか、だっこの仕方がちゃんとしている。
今度は、先に総一郎と老人、次に光一郎を抱えたユキ、殿を百合子が務める。
路地を抜け、車が見えたことで油断した、皮膚が鱗になったトカゲの顔をした女が噛みつこうと襲ってきた。
百合子はまだ間に合わない。