3話 世界が一変した日
まだ初日の話です。
強い光が窓から差し込んできた。
窓から空を見ると、水に油を垂らしたように、不思議な色をしていた。
声が聞こえた。
『輝く星を守ろうとした』
だからなんだというのだ?
総一郎は、アパートの外に出て、手のひらを天に向け雪のように降るナニカに触れる。
息子、光一郎を抱えて百合子も外に出てきた。いつもの着やすさ重視のロングスカートだ。
「総一郎さん、何が起きたんですか?それに、変な声が聞こえたんですけど?」
「百合子さんも聞こえたの?この光る雪といい、何だろう?」
近所の子供達は、光に触れて遊んでる、大人達は首をかしげながら警戒してる。
隣人のシンイチも居たので、声をかけようとすると、町全体から人々の悲鳴が聞こえてきた。
辺りを見渡す。
大人も子供を関係なく、
膝から崩れ落ちる人、両腕を抱き震える人、うつろな目で暴れる人、全身から毛が生え、動物と混じったような人。
友人、家族が突然、倒れる、人を襲う、有り得ない状況にパニックになるしかなかった。
「百合子さん!」百合子の方へ駆け寄る、光一郎ともどもなんともないようだ。
百合子も総一郎の全身を見て安堵する。
「アレ?体が変だ?」シンイチの言葉が聞こえた。
半袖のシャツから出てた細い腕に銀色の毛が生えてくる、顔も狼のように牙が生え、こっち見る顔にはもう、シンイチの面影はなかった。
かろうじて、シンイチの眼鏡が地面に落ちていた。
総一郎は思わず後ずさりながら
「シンさん?何が、どうなっているんだ?」
シンイチは頭を抱えながら、ヨロヨロとアパートの自分の部屋へと帰っていく。
銀色の狼男は、慣れない体で机の引き出しから、二つのものを取り出す。
後から心配そうに入ってきた総一郎に一つのものを投げ渡す。
車の鍵。総一郎は運転出来ないが、百合子は出来る。
シンイチは壁にもたれ、足をだらんと伸ばして座る。
薄れゆく理性の中、シンイチは語る。
「それを使って、安全な、所に・・・、この分だと、きっと、世界ごと、変わった。勝手な言い分だが、一生懸命、幸せに、生きてくれ、さぁ、はやく、行ってくれ。」
右手には拳銃が握られている。
最後にシンイチの顔を思いだし、感謝の言葉を伝え、ドアを閉める。
後ろで銃声が一発聞こえた。
悲しんではいられない。
足元に飼い猫が近づいてきた。オッドアイの白猫で名前はモチ、シンイチがくれた蝶ネクタイの首輪を着けている。特に変わった様子はなく、行儀よく座ってる。
百合子も近くにきた。
「シンイチさん?でしたか?銃声も聞こえて・・」
とまどいのせいか、少し早口になりながら、総一郎に問う。
「たしかに、シンさんだった。一生懸命生きて、幸せになれって言われたよ。それで、車の鍵を預かった、安全な所を探せって。」
「安全な所ですか?」
「とりあえず、必要な物を車に積んでいこう」
ありったけの食料とそれなりの衣服を取りに行く、百合子は動きやすさ重視の軍服に着替えてきた、総一郎はそのまま、ポロシャツにスラックス。
もう、後戻りは出来ない、考えるんだ、何が起きているのかを。
まだ、悲鳴が聞こえるということは、少なくとも、僕たちみたいに理性がある人がいる、なんとかその人たちと安全なエリアを確保して、生活の拠点を作らなければ。
「百合子さんとこの軍事駐屯地はどうだろう?あそこなら、備蓄食料もあるし、身を守れる環境でもある。」
「そうですね、知ってる人と出会えれば良いんですけど。」
結婚を期に退役したが、まだ百合子は連絡を取り合っているので入れてもらえるだろう、機能していればの話だが。
総一郎は息子を抱きかかえ、助手席に乗り込む。
百合子は飼い猫モチを後部座席に入れて、運転席に乗る。
人里離れた場所だったのが救いだろう、
けど、軍事駐屯地は市街地を通って、大きな畑を抜けた先にある。
本当に世界が一変したんだ。
百合子は車のエンジンをかけた。
光一郎がちょっとぐずった。