2話 序章―百合子
本人は至って真面目に国を護りたい一心で入隊した百合子、女性としては頭ひとつ分大きい体型ながらスラッとしなやかな筋肉は努力の証。
狙撃兵ながら白兵戦もこなす稀有な存在からか、言い寄る男が絶えなかった。
「小さい男は嫌いですので」
棘しかない言葉は、いつか出会う運命の人のために、邪魔しないでくれ。
入隊して8年が過ぎた頃、遠征先の思わぬ怪我で休養中、黒の軍服姿に松葉杖、左足のギプスが痛々しい状態で、日曜品の買い物に出ていた。曲がり角で、人とぶつかりそうになって、目が合った。
衝撃が走った。
恋に落ちた。
無意識に松葉杖が地面に落ちた。
よろける体を支えきれず、助けようとしてくれた彼ごと倒れ込む。
一瞬の間のあと、起き上がり、再び目が合う。これを逃せば二度と無い、と思い、声をかける。
「あ、あのぅ。」私の方が早かった。
「次はいつ会えますか?」同時だった。
周囲の目も気にせず、二人で笑いあった。
それから、何度も二人の時間を過ごし、互いの勤め先にも紹介するようになった。
周りの評価は、
小柄ながら幾つもの視点を持つ、学者の鑑。
でも、本当は、
研究に没頭し過ぎるあまり、生活全てが後回しになるタイプ。
視界に映る全てを把握し的確に対応する姿を見て、小柄な体型が何倍にも大きく見えた。
私は学ばないといけない、彼を支えるために。
穏やかな話口調、好きなクラシックや書物、雨の日の過ごし方、些細な事全てが好きになった。この人となら、たとえ何があっても大丈夫。
結婚式は挙げていない、互いの忙しさもあるが、なにより先に子宝に恵まれた為もある。数年いた軍隊を退役し、 息子に悪戦苦闘する日々を過ごしながらも平和な毎日だった。
子供が生まれ、一歳を過ぎたある日、空を横切る一機の戦闘機が落とした爆弾が、降ってきた隕石と融合した時、
世界が一変した。
こんなふたりの物語