18話 5年目のふたり総一郎&百合子
二人が引っ越して約3年、世界が一変して5年が経った。
変わった事と言えば、百合子さんは、肩までだった髪を少し伸ばすようになった、光一郎はよく食べ、よく寝る。
ジゴロウさんは、さすがに年には勝てず、実践指導は引退して、医務室によく顔をだしている。
孫娘で熊の半獣人ユキちゃんも大きくなって、17歳、変わらずおかっぱ頭の側頭部に丸い耳、割烹着姿が似合って、すっかり食堂の看板娘になった。
農家出身から自警団に入った坊主頭のタカモリくん、22歳だったかな、飲み込みが早い、勝率は互角くらいかな。あと数年したら負けるかもしれない。
5年目の春。
少し強くなると、試してみたくなるものだ。
「百合子さーん、一度、手合わせしてもらえないかな?」
やめておいたほうが、みたいな顔をする百合子だったが、一度だけなら、とあらゆるプロテクターを装着させられる総一郎。
「なにもここまでしなくても・・・」
たしか『先の先を見抜き、相手の重心をずらしていなす。』だ。
「父ちゃん!」
光一郎が応援してくれている。
「死ぬなよ。」
違う、応援ではない、心配だった。
ユキちゃんが審判をする。
「行きますよ、構えっ。」
互いに2メートル程離れ、
総一郎は左足を後ろに引き、両手は前の基本の型。
一方百合子さんは空手の左半身のポーズだ。
「始めっ!」
先の先を見ボディブロゥ!
前のめりになる総一郎。
痛い、強い、重い、速い。
「待った待った、もう一回だけ、今のでなんとなく掴めたから。」
ユキと百合子が見つめあってる、しぶしぶ承諾する百合子。
「わかりました、もう一回だけですよ?」
「構え・・・・・・始めっ!」
先のせローキック!
足を刈られ側宙させられる総一郎。
一回転させられた、頭から落とさない所が百合子さんのやさしさなんだろうか。
「待った待った、足への攻撃は聞いてないから対応できないよ。」
ユキちゃんが肩をすくめ両手を広げてる、光一郎も同じポーズをする、仕方なく提案する百合子。
「わかりました、上半身への攻撃のみにしますよ。」
「ありがとう、バシッと決めさせてもらうよ。」
ユキちゃんの溜め息混じりの掛け声。
「構えっ」
総一郎は変わらず基本の型。
百合子さんは、やや重心を低くしている。
「始めっ!」
せ双掌打!
平たい石で水切りをするかの如く転がる総一郎。
「とーちゃーーん!」
「そーうさーーん!」
遠くから光一郎と百合子さんの心配する声を聞きながら、仰向けになった総一郎は、
もう二度と百合子さんと組手をしない事を誓う。
でも、いいんだ、光一郎は自警団よりも研究者になりたいって言ってくれてるんだ。




