17話 春は出会いと別れの季節
前半説明回。
そろそろ桜が咲き始めた頃。
無理やりドラム缶型の試作品を軍用のジープに取り付け、なんとか動いた、ガソリンの心配はなくなったが、異能力を使うので非常に疲れる。
駐屯地の北西に位置する製鉄所のグループと北東に位置する牧場のグループとで、ひとつの街を作る計画が浮上している。少しずつ生活を豊かにする方向に進んでいた。
製鉄所はコテツ一家が取り仕切っていて、本当の家族経営で生き残った者が集まったので種族がバラバラだ。
コテツさんは齢70ながらいまだに現役で指揮している。
息子のイッテツ、イタチ族の獣人とよく金属談義をしている。
牧場主はカナコ、まだ30代で火が使えて、子供もいるので、百合子さんと仲が良い。牧羊犬が数匹と従業員が数人あとは、牛、鶏、羊を飼っている。
そして、三地点の間に市庁舎が建つ予定で、初代市長は、シュウヘイだ。
訓示は、『獣人だろうと半獣人だろうと人間だろうと、働く者は受け入れる。』
自警団は狼の獣人ヨウスケ、30代の妻子持ちの人がリーダーを勤めるみたいだ、いつぞやの大会で勝ったのが効いたらしい。
シュウヘイを中心に、コテツ、カナコ、ヨウスケを補佐に置き、運営していこうとしている。
そんなある日。
朝一番にサトルが本棟宿舎の僕たちの部屋に来た。
サトルが部屋に来た時は、必ず光一郎を抱っこしながら雑談する。
この時も、光一郎を抱っこしながら、重大な事を言い出した。
「医師不足で困っているコミュニティがあるらしいんだ、俺は行こうと思ってる。」
「えっ・・・・・・・・・・。」
「だー。」
今のは光一郎じゃない、サトルだ、サトルなりの止まった時間の動かし方だ。
ずっと左手で抱きながら、右手で指をウネウネさせながら光一郎をあやしてる。
「う、うん、元々サトルの夢だったし、遠いの?ひとりで?」
「車が使えるのなら二時間くらい掛かる、向こうの希望は5人、だけど、独りかどうかはまだ未定。」
質問は二つのはずだけど、三つ返ってきた、まぁいっか。
「ここだと、殆んど顔馴染みしか来ないし、トワコが居るとどうしても甘えてしまう。」
百合子さんが質問する。
「いつ出発するんですか?」
「春の終わりには出発する。まずは病院内で勤務、場合によっては周辺の診療所で町医者として居て欲しいと言われている。どちらかというと、後半を希望している。自分の力を試したい、いや、人の命を預かる身で試すって表現はどうかと思うが、決めたんだ。」
珍しく饒舌で熱く力説するので、呆気にとられていると、それに気づいたのか、元に戻った。
「まぁそういうわけだ、別に今生の別れじゃない。」
そういって、2度目の夏を迎える前に、サトルはみんなに見送られながら、この町を出ていった。
医師は五人だが、独りではなく、彼女とふたりで。
車で二時間は遠くないかもしれませんが、自立が目的ですので。




