16話 ボーイズハート秋から冬へ
ちなみに、魔法瓶は、内瓶と外瓶のあいだを真空にすることで、熱が逃げにくくなるそうです。
魔法 瓶。
魔法(を蓄積する)瓶。
すみません、ツッコミは心のなかで。
食堂事件?が起きて一週間後にようやく、研究施設に機材の搬出を終えた。
それから3ヶ月掛かって、プロトタイプを製作。
薄い金属と薄い金属の隙間に真空を作り、それを何層も重ね合わせる。ドラム缶サイズの乾電池、上部の突起に手をかざし、異能力を放出する。
全然だめだ。
入力に対して、出力が乏しい。研究が必要だ、金属の種類、配合率、属性の相性もあるのかもしれない。タサクさん達と知恵を出し合う。
秋から冬へと季節は流れ、雨が降ったり止んだりな曇り空が続いたある日。
なぜか、外で男達による、異能力披露大会が始まっている。
タカモリ君は氷の異能力で、おにぎりサイズの氷の玉をいくつも空中で静止させる。
「自分は大きなものは作れないので、小さいもので工夫しました、で、これを一気にぶつける。」
30個くらいの氷の玉が一斉に的に飛んでいく、いくつか的から外れるものの、器用にこなしてる。
総一郎も試してみるが、3~4個以上空中に静止させれない。
コツを聞こうとしたんだけど、タカモリ君はシュウヘイさんとしゃべって、どっかに行ってしまった。
「食事、まだだったんで行ってきてもいいですか?」
「おぅ、いいぞ、頑張れよ。」
「飯食いに行くだけですよ。」
暖かい目でタカモリ君を見送ったシュウヘイさんは、自分の番、風の異能力を足の裏から放出し。
3m程の垂直跳びを披露する。
「着地も同じやり方で、着地の衝撃を和らげる、ただホバリングが出来ないんだ、空中を飛び続けるのはうまくいかない。」
風を使える人達が練習しだしたのでシュウヘイさんが注意する。
「跳ぶ事よりも着地の練習しろよ、じゃないとケガするぞ!」
総一郎も試してみるが、タイミングが合わず跳ぶことすら難しい。
司会?のシュウヘイさんが僕を促す。
「総一郎君は、どうだい?」
じゃあひとつだけ、と。
中央に鉄の棒を刺して、10mくらい離れて、人差し指を鉄の棒に向ける。
辺りが一瞬強い光に包まれ、指先から鉄の棒に稲光が走る。
衝撃で周りの人達がどよめく、どうやら雷を使える人は、今の所いないみたいだ。
次に土の異能力が使えるジュウゾウさんが、土で出来た両手持ちハンマーで地面を思い切り叩く、それでも壊れない土のハンマーを披露する。
総一郎も作ってみるが、長さ50cmくらいの棒が出来た、すぐ折れた。
もっと練習しなければ。
少年がオモチャを与えられたように、各々が異能力の可能性を披露する。
端っこに戻って見てた総一郎に、声を掛けてきたシュウヘイさん。
「総一郎君は色々使えるみたいだね?」
「放出するものだけで、しかもみんなより弱いですよ。それに、サトル君みたいな目もないし、キネさんみたいに召喚も出来ないですよ。」
「ふーむ、今さらだが、なぜこんな世界になってしまったんだか、なんの因果か運命のいたずらか?」
そんな話をしてると、狼の獣人と熊の半獣人が相撲を取っていた。
同日。
サトルは胴着を着て畳が敷かれた訓練場に呼ばれていた。
同じく胴着を着て正座して待つ人物に合わせ、サトルも正座する。
はりつめた空気の中、外から漏れた一瞬の光を期にジゴロウが口を開く。
「もしかしたら、ワシのかわいい孫娘が巻き込まれ、大怪我をしてたかも知れんと思うと、あいわかった、と許す気にはなれん。」
ジゴロウの怒気がサトルにも伝わる。
「覚悟はしている。許されるとは思っていない。」
「武道の経験はあるのか?」
「剣術を父から教わった、忙しい人だったので、基本だけ。」
「立て。ワシに勝てば許してやる。」
ジゴロウは構える、サトルも素手で木刀を持ってるかのような構え。
サトルは突きの要領で右正拳突きを出すが、捌かれ、掌底で飛ばされる。
「立てっ!」
それから、一時間近く立ち向かっては倒されるを繰り返しているが、少しずつ二人の心境に変化があった。
「立てっ、ワシはまだ許しとらん!」
息を切らしながら言うが、何度も立ち向かう姿から、もうとっくに許してる。
疲れきったサトルも、許してるもらう覚悟で立ち向かうが、だんだん体で教えるかのように倒してくるジゴロウに不思議な気持ちが芽生えてくる。
蹴ってくるならこう倒せ、殴ってくるならこう捌け。
そんな姿に父の面影を重ねる。
決着の時。
打ち、捌き、手刀、払い。
互いの掌底が互いの目の前で止まる。
サトルは三歩後ろに下がり一礼。
「ありがとうございました。」




