15話 ガールズトーク秋から冬へ
コハクの暴走は7月、冒頭は10月くらい。そこから冬ですね。
右目は包帯で隠しているが、左目は3ヶ月掛かって、うっすら見えるようになってきたサトルはコハク、シュウヘイ、食堂に居た人達、自警団の面々、一人一人に頭を下げに行った。
嫌味、暴言も言われたが、その後の献身的な働きもあって、次第に和解へと繋がった。
秋から冬へと季節は流れ、雨が降ったり止んだりな曇り空が続いたある日。
修繕が終わった食堂の角のテーブルにコハク、カオルコが隣に並び、対面に百合子が座る。
「ワタシは総一郎とライバルだから!」
「なんのライバルですか?」
「もちろん、百合子さんのです。」
コハクのライバル宣言に呆れる百合子だが、明るくはっきり自慢するコハクは、全くめげない。
さらに、からかう余裕さえ出るほど一回り大きくなった自信は。
「でもぉ、なんだか総一郎を好きにな」
フォークがコハクの頬をかすめ、コンクリート壁に突き刺さる。
「続き次第では眉間に刺さりますが、どうしますか?」
「なりません、なりません!助けて、カオルコ先輩。」
束の間の挫折とともに小さくなり、
カオルコに抱きつきながら怯える。
「・・・・鬼百合。」
「カオルコ!何か言いましたか?」
「ひぃぃ、なにも言ってません。」
ふたりで抱きつきながら怯える。
「ふぅ、全く。それはそうと、コハクはサトルを許せましたか?」
腰に手を当て、話題を変える百合子。
「許せたというかなんというか、ワタシは記憶にないのに、一方的に謝られても困るというか・・・まぁ悪い奴じゃないし、近くにいると、身長差で首が疲れるというか・・・」
カオルコの頭上に豆電球が点灯する。
「はっはーん、なるほどなるほど、つまり、コハクちゃんは、サトルンに恋をしたというわけですな!」
トラ耳まで赤くなるコハクは全力で否定する。
「ち、ちがーう!」
「あらあら、そうなの?」
百合子も便乗するが、コハクが矛先をカオルコに向ける。
「カオルコ先輩こそ、誰か居ないんですか?」
「あたしゃ、ほら独りの方が楽っちゅーか、いい男がいないっちゅーか?」
カオルコも慌てて矛先を変える。
「ユ、ユッキーは、どーゆー人が好きなの?」
14歳になったばかりの熊の半獣人ユキ。
ユキは料理が好きで食堂のお手伝いをしている、おかっぱ頭の間から丸い耳がピクっと動いて百合子達の所に来た。
「何か、言いましたかー?」
「ユキの好みのタイプはどうなのかなーって?」
好みと聞かれてもいまいちピンとこないが、これだけは外せない一個をはっきり答える。
「うーん、いっぱい食べてくれる人!」
「おかわりっ!」
少し離れた所でご飯を食べていたタカモリがユキにお茶碗を渡す。
「はいっ!」
ユキはご飯大盛りでタカモリに渡す。
その様子を見ていた3人の頭上に豆電球が点灯する。
外も一瞬光った。
「んわ!なんだなんだ!」
カオルコが真っ先に声を上げる。
「この光は総一郎さんですね。」
「今、外で異能力披露大会やってるみたいですよ、自分は抜けて来ましたが。」
タカモリ君の言葉にそれぞれが反応する。
(なにしてるんだか?)と百合子。
(楽しそー。)とカオルコ。
(サトルもいるかな?)とコハク。
それぞれの想いを胸に3人が食堂から出ていく。
見に行くと、狼の獣人と熊の半獣人が相撲を取ってる。
囃し立てる周りを見て呆れる、百合子。
一緒に騒ごうとする、カオルコ。
サトルが居なくて残念な、コハク。
三者三様な胸中はさておき、久しぶりに晴れてきた。
同日。
医務室でトワコはカルテを見ながら、後輩に質問されていた。
「どうなんですか?まだ日も浅いですけどサトル君でしたっけ?」
「まぁ筋は良いんじゃないか、両親ともに医者で本人も手伝ってたらしいし、基礎は出来てるよ。」
「トワコさんにしては、好評価ですね、かっこいいからですか?」
丸めた紙で後輩の頭を叩く。
「ばかやろう、20も下に唾なんか付けるか!おまえと違ってサトルには信念があるから物覚えが早いだけだ。」
後輩は叩かれるのがわかっているが避けずに受け止めつつ。
「あたっ、はいはい、私も信念持って仕事しますよぅ。」
トワコはタバコを吸いに外に出ると、騒がしい男どもの中心に居る人物に視線を向ける。
風の力を使い、高く跳んでいた。




