13話 戦い終えて
目覚めてすぐに気付いたのは、脱力感、異能力を使いすぎたんだろう、重たい体に鞭を打ち、起き上がる。
百合子さんは元気だ、すでに起きて、食事の支度を済ませている。
だんだん蒸し暑くなってきた。
有り合わせの朝食を済ませ、光一郎は百合子さんに抱っこしてもらい、食堂へ向かった。
食堂は自警団の方々が朝から大掃除をしてくれている、虎人間の仕業にしたいが、コハクだと知られてる、ただ、操られていたので責めるに責めれない、事故だったということで落ち着いている。
自警団の人の話が耳に入ってきた。
「何がどうなったらこんな有り様になるんだ?」
「虎人間が暴れてたらしいぞ。」
「いや、ひどいのは、ここで爆弾使った奴だぜ。」
すみません。
「深夜でも事件があったらしいぞ、シュウヘイさんが撃たれたとか細長いあんちゃんが医務室に運ばれたとか?」
何だって?
百合子さんと目を合わせ、あわてて医務室へ向かう。
コンクリートで出来た三階建てで病室も多い、数名勤めているが顔見知りなのはトワコという軍医だ。
医務室に入るなり勢いそのままに軍医を呼んだ。
「トワコさん!」
百合子さんに負けず劣らずな高身長で軍医としての腕は確か、狐の半獣人になったらしく側頭部に尖った耳が付いてる、ぶっきらぼうで、唯一シュウヘイさんを呼び捨てにする。
びっくりして糸目が見開くトワコ、昨日の疲れか椅子でうたた寝していた。
「なんだ、総一郎と百合子かい、ようやく片付いたと思ったら。」
「シュウヘイさんとサトル君は無事ですか?」
「あぁ、あいつなら大丈夫だよ、あの程度、日常茶飯事だし、もう帰ったよ。細長い子はマズいね。あっちの部屋で寝てるよ。」
伸ばしっぱなしの髪を掻きながら答える。
部屋をそっと覗いてみる。
サトルがベッドで寝ていた。体はシーツで隠れてわからないが、両目を覆うように包帯で巻かれている、誰がこんなことを。
「シュウヘイに聞いてみるといい、あいつが運んで来たんだから、知ってんじゃないか?」
「わかりました、コハクさんはどうですか?」
「コハクなら二階の三番目んとこ居るよ、胸の火傷はちょっと残るだろうね。」
ごめん。
「百合子さん、ちょっとコハクさんとこ行ってもいいかな?」
これは、僕なりのけじめだ。
「構いませんよ、私はここで待ってます、シュウヘイさんの所は一緒に行きましょう。」
即答だった。
コハクと一方的に会話をした。
少し晴れやかな顔をしてたのか、百合子さんは何も聞かなかった。
作戦本部棟に向かった、今日は移動続きだ。
奥に私室があるはずだが、手前の応接室のソファに座りながら仮眠していた。半袖シャツの太い右上腕部には包帯が巻かれている。
部屋に入った瞬間、空気がはりつめる、瞬時に対応できる姿勢はまだまだ衰えていない。
「あぁ、君たちか。」
空気が和らぐ、対面のソファに座らしてもらい、僕が率先して、何があったか聞いてみた、シュウヘイさんは思い出しながら答えた。
「いやぁ、昨日の食堂でのご主人とサトル君の会話を聞いててね、部屋に案内したんだが、気になって戻ったんだ。」
少し険しい顔になった。
「そしたら、ガラスが割れる音がして、ドアが開いたんだ。サトル君じゃなかった、目出し帽被った黒い軍服の男だった。」
黒い軍服、特殊部隊『黒蜂』あらゆる状況下でも単身、制圧出来るように教育される部隊、『黒蜂』だけが着る事が許された軍服。
百合子さんを見る。
「私もかつて所属していた特殊部隊の服ですね、ですが、ここには私しか居なかったはずですが。」
「いや、君が退役したあとに入った人物がひとり居たんだ。」
「ギンジだ。」
「訓練、任務にストイックな奴だったが、あそこまで非道な奴だったとはな。」
僕はサトル君の能力を黙っていた。
続けてシュウヘイはギンジとのやり取りを語る。
もうここには用は無いとか、欲しいものが手に入ったとか言っていた。
もう帰ってこないと思うが、一応警戒するよう、巡回班には伝えておいた。
それから、茂みで倒れていたサトルを医務室まで担いで運んで、今に至るという事らしい。
「しつれいします。」
入口から若い男の声がした、少し慌てたように息を切らしながら。
シュウヘイが何があったか聞くと。
若い男は一度こちらを確認してから報告した。
「マシロさんが見当たりません、交代の時間になっても来ませんでした。」
「マシロも襲われたか?とりあえず日が暮れるまで捜索しよう、タカモリは巡回班に伝えてきてくれ。」
タカモリ君は農家出身だったが自警団に入った17歳、氷が使えるらしい。
シュウヘイは殆んど寝ずに捜索に参加しに行った。
時刻は昼を過ぎていた。
僕たちは一旦、自室で遅めの食事を少しだけ食べた。
捜索に参加していると、看護師の方が報告に来てくれた。
サトル君の意識が戻ったと。
僕たちは再び、医務室へと向かった
ゲームのおつかいイベントみたい。




