11話 バトルイン食堂
サブタイトルは、わりと、いいかげんです。
閃き重視で決めてます。
百合子は思い切り総一郎ごと椅子を蹴り飛ばした。
紙一重で直撃を避けた、虎の一撃は床に大きなヒビを入れる。
食堂に居た数人が悲鳴をあげ、外に逃げる。
「なんで邪魔するの?」
コハクは左の裏拳で百合子をなぎ払う。
椅子から立ち上がるも、光一郎を抱いたままでうまく避けれず、 身を挺し背中で食らう。受け身も取らず床に倒れ込む。
光一郎に怪我は無いが、母の痛みが伝わるのか、大泣きする。
コハクのターゲットが百合子に向く前にモチがコハクの顔に飛び付く。
「なにすんだよ、邪魔だよー。」
ハエを払うかのように両手で顔に付いたモノを払う。
自分から地面に下りたモチは、次に飛び付く機会を窺う 。
「百合子さん!」
ようやく立ち上がった総一郎、コハクの目に違和感を覚える。
「そうだよ、おまえだ、総一郎。」
ターゲットがこっちを向いて、総一郎は安心する。
「そうだ。こっちだ。」
自分を囮に反対側の角の厨房の方に逃げながら、策を考える。
テーブル、椅子をなぎ倒し、総一郎を追い掛ける。ジゴロウとの特訓の成果か、かろうじて避ける。
「ガルゥ・・・にげるなぁ。」
入口に人影が見える。
「サトル君?だめだ、ここは危ない!」
食堂にサトルが入って来た。偶然を装って、もっと暴れろと思いながら。
「と、虎の獣人?なにがあったんですか?」
サトルが百合子に近付く。
百合子はなんとか立ち上がり、サトルとは初対面ながらも目を見て、懇願する。
「すみません、この子と安全な所へ行ってもらえませんか?ぐずってますけど、お願いします。」
半ば強引に光一郎をサトルに渡す。
サトルは呆然としたまま受け取る。
奥の厨房から入口めがけてテーブルが飛んでくる。
「グルルゥ。」
もう言葉を発せなくなっている。
モチはそんなコハクの足元を俊敏に動き、踏み潰そうと躍起になるコハクの足止めをする、さらに百合子が傷を負いながら牽制する。
痛みを堪えながら百合子は気付いた事を総一郎に伝えてしまう。
「まるであの時のシンイチさんみたい。」
一年前と同じなら治せない、諦めムードが漂う。
だが、シンイチと聞いて総一郎は思い出す、あの人が書いた小説『光と音』。
火、氷、風、土以外でもう一つ、制御出来るかどうか怖くて使えなかった異能力の事を。
総一郎は百合子に、耳打ちをする。
「百合子さん、一つ試したい事があって、でも、溜めるのにちょっと時間が掛かるんだ。」
「助けれる可能性があるんですね、わかりました、やってみます。」
一縷の希望に百合子の目の輝きが戻る。
ヘアゴムで髪を結い、転がる椅子を足場に高く飛ぶ、ロングスカートが食堂を舞い、ドロップキック、素早く体勢を整える。
両腕でガードし反撃するコハクの鉤爪が百合子を襲う、腕、脇腹を引っ掻かれながら、ぎりぎり致命傷を避け、時間を稼ぐ。
少しずつ総一郎やサトルの居るところに追い詰められるが。
総一郎の右手が白く光る。
「よし、いける。」
総一郎の声に百合子は異能力を出す。
両手に火を纏い、コハクに向け手を叩く、猫だまし。
一瞬大きな炎がコハクの目の前に現れ、思わず仰け反る。
「目を醒ましなさい!」
さらに、ゆり子の上段足刀蹴りが顔面に直撃し、鼻血が舞う。
総一郎と百合子は入れ替わる。
「みんな伏せて!」
総一郎の言葉より速く百合子は、未だぼうっと立ってるサトルを屈ませ、覆い被さる。
ふらつくコハクの胸元に右手のひらを当てる。
右手を支えるように左手を添え、一気に放電する。
一瞬の閃光と轟音。
衝撃に耐えきれず、蛍光灯が割れ、窓ガラスは全て外側に弾け飛ぶ。
衣服があちこち破れ、仁王立ちを維持していたコハクだったが、そのまま後ろに倒れ、みるみる元の半獣人の姿に戻っていく。
飼い猫モチは、的確に百合子を助け、ちゃんと生きてます。




