表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才色兼備な伯爵令嬢と周囲の皆さん  作者: あい・すくりーむ
4/9

プロポーズの裏側(前編)

今回はヴィレット公爵がジュリア様にプロポーズしたときの物語です。

悩み相談のはずが、いつの間にか婚約だの結婚だのという展開に、本編ではジュリア様の思考はフル回転していました。

では、プロポーズした側のヴィレット公爵はどんなことを考えていたのでしょう?表面上は冷静(?)な紳士の心の内を覗いてみましょう。

「はぁー…どうしましょう。」


珍しく執務室でため息を吐くのは、私の部下であるジュリア・ロベール伯爵令嬢。先日の使節団歓迎パーティー以来、様子がおかしいとは思っていたのだが…


「ため息などついて、悩み事ですか?」


「ヴィレット様!?も、申し訳ございません、仕事中に…。」


驚いて振り返った彼女は持っていた何かをサッと隠し、姿勢を正す。


「構いませんよ。お疲れのようですし、少し休憩にしましょうか。」


ジュリア様がお茶を淹れて戻ってきた。私も手元の書類を片付け、応接用ソファへと腰掛けた彼女の正面に掛ける。


相談事ならばじっくりと腰を据えて聞いた方がいいだろう。そうでもしないと彼女はすぐにはぐらかして、自分ひとりで背負い込んでしまうから。



紅茶を一口飲み、落ち着いたところで口を開く。


「それで、何を悩んでいらしたのですか?」


「…」


しばらくの沈黙。

私には相談しづらいことなのか、それとも私は信頼に足る人物ではないということなのか。


「私ではお力になれませんか?相談相手としてもお役には立てないのでしょうか?」


「そんな、そういう訳ではありませんわ。ただ…」


「ただ?」


これは…迷っている。それも、相当に面倒な悩みか、小さい悩みか、そのどちらかだろう。

彼女は私に気を遣いすぎなのだ。「この程度のことを相談しても構わないのか」とでも思っているのだろう。

彼女の前の上司、ダントン侯爵であれば気軽に相談できていたのだろうか?


確かに、彼の評判はすこぶる良い。落ち着いた大人の雰囲気は女性の間でも人気が高いと聞く。上司としても男性としても、彼と比べると私は見劣りしてしまうのだろう。幸いなのは、彼が妻を大切にする既婚者である点であるが。


「このようなことを上司に相談するのは憚られるのですが…。実は、ベルクマン侯爵からこういったお手紙が届きましたの。」


そう言って彼女が差し出した手紙を受け取る。質の良い紙だ。なるほどトルマ王国の有力貴族は伊達ではないようだ。


便箋の質に反して、手紙の内容は最低だったが。


“貴女こそ我が妻に相応しい。そちらにとっても悪い話ではないはずだ。プロポーズの返事を待っている。”


何だこれは。プロポーズ?まさか、歓迎パーティーでの()()のことを指しているのだろうか。ふざけているのか、この男は。


「これは…ベルクマン侯爵からこういった手紙が送られてきたのは、今回が初めてですか?」


「それが、その…この一週間、毎日届いていますの。」


「一週間?まさか、歓迎パーティーの翌日から毎日ですか?」


道理で、ここ最近ジュリア様の様子がおかしかったわけだ。相手が他国の侯爵ともなると、適当にあしらうこともできずに困っていたのだろう。


「ええ、仰る通りです。」


「そうですか…それで、父君は何と?」


「父は“ジュリアの好きなようにせよ”と申しておりました。」


好きなように…つまり、肯定も強制もしなかった、と。

ロベール伯爵家当主、あるいは外務長官としての立場を考えるなら、この婚姻は願ってもない話であるはずだ。他国の有力貴族との繋がりを持てば、伯爵家といえどアメスト王国内での力は増す。


それに、他国の貴族との婚姻は、互いの国の繋がりを強固にする常套手段だ。しかし、彼はこの話を率先して進めることはせず、娘であるジュリア様に一任した。


「なるほど。ロベール伯爵家、あるいは外務長官としてこの婚姻を推し進めるつもりはない、と。」


ジュリア様が沈黙を返す。恐らく、彼女も同じ考えに至っているのだろう。


「では、どのように対応するかは貴女次第というわけですね。…それで、ジュリア様はどのようにお考えなのですか?」


「私ですか?そうですね……私は、できれば穏便にお断りしたいと考えていますの。ですが、それらしい理由が見つからなくて。」


よかった。ジュリア様は断るつもりのようだ。

万が一にも彼女がベルクマン侯爵を気に入って…いやそれはないか。もしもロベール伯爵家やアメスト王国のことを思って、この婚約を受け入れていたらと思うと背筋が冷える。


「それらしい理由、というと?」


「私に既に恋人や婚約者がいれば、それを理由にこのお話をお断りできるでしょう。ですが、今のところそういった方はいらっしゃいませんの。そうなると“断る理由はないでしょう”と押し切られてしまいそうで。」


なるほど。確かに、恋人や婚約者を引き合いに出せば、さしものベルクマン侯爵も引き下がる…だろうか。相手の身分によっては“自分の方が相応しい”などと言って取り合わないのではないか?


彼のあの強引な様子から考えれば、十分にあり得る。


それならば――――この状況を利用してしまおう。


簡単なことだ。私とジュリア様が婚約してしまえばいい。アメスト王国の公爵である私が相手ならば、彼も引き下がるだろう。何か言いがかりをつけられても私なら対処できるだろうし、必ず彼女を守り通す自信はある。

読んで下さってありがとうございます。


誤字脱字、読みづらい等ありましたらご指摘くださいm(__)m

評価の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして応援していただけると嬉しいです。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ