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霊獣 その1

勇者ルートヴィッヒ一行が魔王を討伐して半年が過ぎた。

季節は実りの秋を迎えていた。

1ヵ月前まで猛威を振るった暑さもすっかりと鳴りを潜め、今はひんやりとした朝の空気が赤や黄色に染まった山々の彩りをくっきりと浮かび上がらせていた。




夜明けよりも少しだけ日が高くなった時間帯、ラルクは日課である聖シリン湖での洗濯を済ませ、木に干した衣服が乾くのを待っていた。

今日、洗ったのはゼネクロの服。

そのため、ラルクはお気に入りのガルチェ&ドッバーナの服を着て、湖畔に寝転がりぼーっと空を眺めていた。


(平和だな……。)


あからさまなフラグを立てる主人公。


「ぎゃあああああ!助けてくれええええええ!!」


その時、聖シリン湖を囲む森の中から男性の叫び声が聞こえた。

世界最速のフラグ回収である。

ラルクは起き上がると声が聞こえた方に走る。


「誰か、助けてくれ!」


常人の千倍の脚力を持つラルクが森の中を駆け抜け、一瞬で声の主を見つける。

周囲には生臭さが漂っている。

声の主はラルクを見つけるとすがるように近づいてきた。


「あ、あんた!助けてくれ!バケモノに追われているんだ!」


「バケモノ?」


ラルクは男の言葉に疑問を抱く。

魔族や魔獣は魔王が死んだことによって滅びたはず。

この森の中も動物くらいはいるだろうが、バケモノと呼ばれるような生物が生息していただろうか、と。

そこでラルクは思い出した。


(ああ、いたな。)


ラルクが男の言う『バケモノ』に当たりをつけたところでソレはやってきた。


「許さへん……絶対に許さへんでえ!」


そいつはサンマと呼ばれる細長い魚に人間の手足がついたような生き物だった。

そして、魚の顔があるべき位置から首が生え、その上に耳のところにエラかヒレか分からないものが付いているが人間のような頭が乗っかっていた。

また、体は全体的に緑っぽく、これが魚だとして食べたいとは思えない見た目だった。


「出たああああ!助けてくれえええええ!!」


男が再び叫び声を上げ、腰が抜けているのかラルクの方に這いつくばりながら近づいてくる。

ラルクは男ではなく、半魚人に向かって声をかける。


「よう、アカシヤ。」


「お前は……ラルクか。イカした格好をしているから一瞬分からなかったぞ。ただでさえ、お前の顔は特徴がなくて他の人類と区別つけにくいのに。」


半魚人と普通に挨拶をするラルクを見て、男は驚いたが、バケモノと思っていた存在が自分と同じ人類と話しているのを見て見逃してもらえるかもしれないと安堵する。


「あ、あんた!そのバケモ……お魚様と知り合いなのか?」


「こいつは聖シリン湖やこの近辺の川を守護する霊獣と呼ばれる存在だ。名前はアカシヤだ。」


アカシヤというサンマのような姿の半魚人はこの一帯の水辺を守る獣の姿をした精霊、すなわち霊獣だった。

ラルクは勇者ルートヴィッヒと旅をしていた時に、聖剣を作るのに聖シリン湖で取れる聖水が必要でアカシヤに会ったことがあった。

聖シリン湖にはこのアカシヤというサンマのような霊獣の許可がなければ近づけないのだ。


「しかし……」


ラルクは男の方に向き直る。


「霊獣であるアカシヤに追われているとは、お前は何をやらかしたのだ?」


「え、いや……私はその……ですね。」


男は口ごもるばかりで明確な答えを返せない。

代わりにサンマのような霊獣アカシヤが答える。


「その者は鮭を乱獲していたのだ。しかも、卵だけを腹から抜き取り、魚は川べりに捨てていたのだ。大方、イクラを作るつもりだったのだろう。」


「なんだとおおおおおおお!?」


イクラとは鮭の卵を粒状にばらしたものであり、塩漬けにして食べられる。

この季節の人気の食べ物のひとつであり、高値で取引される。

一方、この時期のメスの鮭は栄養が卵に持っていかれるため、味が悪く販売に向かない。

鮭ごと持って帰ると大荷物になることもあり、この男は卵だけを持って帰ろうとしたのだろう。

ただし、それはマナー違反である。


イクラはラルクの好物でもある。

だからこそ、ラルクもこの男が許せなかった。


「美味しいイクラを育ててくれた鮭さんへの感謝の気持ちを忘れ、腹を裂いて川べりに捨て去るその所業……例え神が許しても俺とそこの霊獣が許さん!」


そして、サンマのような霊獣アカシヤに言う。


「アカシヤよ、俺が見届けよう!この男を生きたまま腹を裂き、臓物をほじくり出し、川べりでミイラのように乾燥するまで放置するがよい!」


「いやいや、そんなことしないから!ちょっと驚かせて反省してもらおうと思っただけだから!」


霊獣は恐ろしいことを口にするラルクに思いっきり引いている。

ジョークであってほしいとアカシヤは思ったが、どうやらラルクは本気のようだ。


「なんだと!?では、お前がしないなら俺がしてやろう。さあ、覚悟しろ。お前が鮭にしてきたことだ、自分がされても文句はあるまい?」


特徴のない顔に怒りの表情を浮かべてラルクがイクラ男に近づく。


「ひ、ひええええ!すみません!もう二度と鮭を捨てません!助けてください!」


「お前はいままで鮭に『助けてください』と言われて一度でも助けたか?」


「さ、鮭はしゃべりません……。」


「ほう、しゃべれないから助けなくてもよい、とお前は言うのだな?」


ガシッ!


ラルクは手を伸ばしステータス200程度の握力でイクラ男の顔の下半分を掴む。


「これでお前もしゃべれないな。『助けてください』と言えないなら助けなくてもいいな?」


「ふがふがほごっ!」


「ふむ。『来世では鮭に生まれ変わって皆様の食卓に並ぼうと思います。よかったらあなた様も召し上がってくださね☆』か。よい心がけだ。」


「文字数が全然違うから!」


サンマのような霊獣アカシヤがツッコミを入れる。




その後、アカシヤの必死の説得によりイクラ男は無事に解放されることとなった。

ただし、放置した鮭を今から片付けることと、二度と卵だけを取って鮭を捨てないと約束をして。

私は何を書きたかったのでしょうか?

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