勇者の成り上がり
―――1ヵ月後。
バナナイカ王国では勇者による魔王討伐を記念したパーティーが開かれていた。
「長年続いた魔王の暴虐により、多くの者が犠牲となった!国土は焼かれ、その炎を沈めるように我がバナナイカ王国には悲しみの雨が降り注いだ!しかし、止まない雨はない!ついに、魔王は討たれたのだ!そう、勇者ルートヴィッヒに!!」
国王のスピーチにパーティーの出席者たちから歓声が沸く。
「もちろん、今日はその勇者にもきてもらっておる!さあ、壇上に出てきてくれ、勇者ルートヴィッヒ!!」
さらに歓声が大きくなる。
バナナイカ国王に促され、壇上にやってきたルートヴィッヒは正装で、腰には勇者の証である聖剣を差している。
煌びやかな装いは彼の端正な顔立ちをさらに引き立てる。
「さあ、勇者よ。皆がお前の言葉を待っておる。今の気持ちを聞かせてくれ。」
「俺は魔王を倒した。」
また歓声が上がる。
「だが、それは俺だけの功績ではない。それぞれに理由があってここにはいないが俺には頼れる仲間たちがいた。それに魔王討伐の旅を支援してくれたバナナイカ国王。そして、何よりも俺たちを信じて送り出してくれた全ての国民のみんな!その誰一人が欠けても魔王討伐は成せなかった。誇っていい。この勝利はバナナイカ王国全員で掴んだ勝利だ!!」
「うおおおおおおお!!!!!!」
今日一番大きな歓声が上がる。
「今日はこのパーティーで美味い料理とこの平和をとくと味わうとしよう!」
勇者の一言に歓声と笑い声が起きる。
「そうそう、ひとつ言い忘れておった。」
バナナイカ国王が言う。
「この度、我が娘ローザと勇者ルートヴィッヒの婚約が決まった!王子が生まれず跡継ぎの問題があったが、それも解決した!次の国王はこの勇者ルートヴィッヒだ!!」
(掴んだぞ、俺は!勇者としての栄光!そして国王としての権力!俺は成り上がった!!)
***
その夜。
「……ーイ……ルーイ、起きてくれ。」
バナナイカ王国の城に用意された勇者のための寝室で寝ているルートヴィッヒに声をかける者がいた。
「むにゃむにゃ……誰だい、俺を呼ぶのは?むふふ、ローザ姫かにゃ?俺のかわいい子猫ちゃん☆」
ルートヴィッヒはゆっくりと目を開ける。
「ふぐりっ!?」
そこに立っていたのはルートヴィッヒが裏切った、魔王を倒した本当の男ラルク(全裸)だった。
「どうしてこんなところに……それになんで全裸なんだよっ!?」
寝たままだとちょうど視線がラルクの『ラルク』にぶつかることに気付いて慌てて飛び起きながらルートヴィッヒが部屋の外に漏れない程度の大きさの声で叫ぶ。
「実はルーイに頼みがあってな。」
「頼みだと!?魔王討伐の功績を自分に返せってことか!?今更、魔王を倒したのは自分だなんて言っても誰も聞かないぞ!!」
「そんなことなどどうでもいい。もっと大切なことだ。」
「なんだ……腐っても幼馴染だ。話くらいは聞いてやる。」
自分が一撃も浴びせられなかった魔王をパンチ一発で倒した男に逆らえるわけもなく、かといって人を呼べば自分の嘘がばれかねないためルートヴィッヒは大人しくする。
「ルーイには俺のパンツを買ってきてほしいのだ。」
「はあ!?」
「実はな、今朝ほど聖シリン湖で洗濯をしたあとに木の枝に服を干したまま転寝をしていたのだが、起きたら風で飛ばされたのかパンツがなくなっていてな。1枚しかないパンツだったので困っていたのだ。」
「ズボンとシャツがあるならそれを着てパンツを買いに行けよ!」
「馬鹿を言うな。パンツを穿かないでズボンを穿いたら股が気持ち悪いだろ。」
「じゃあ、俺のところにくるならせめてシャツは着ろよ!」
「シャツ着て下だけ丸出しだったらヘンタイっぽくないか?」
「全裸も十分ヘンタイだから!」
そう叫ぶとルートヴィッヒはクローゼットから新品のパンツを2枚持ってきた。
「このパンツをやるからこれを穿いてさっさと出て行ってくれ!」
「いや、俺はゼネクロのパンツがいいんだ。こんな派手なパンツは趣味じゃない。」
「これはパール・スメスという一流ブランドのパンツだぞ!いいから穿いてみろ!」
ルートヴィッヒに促され、渋々という感じでラルクは新品のパンツに足を通す。
しかし、その穿き心地に衝撃を受ける。
「な……なんだ、これは!穿いているのに穿いていないような解放感!でも、何かに守られていることを確かに感じられる安心感!革命だ!これはパンツ革命だ!!」
「気に入ってもらってよかったよ。ゼネクロもいいが、こういうパンツもいいだろ。たまには他のブランドも試してみろよ。」
「ありがとう、ルーイ。やはりお前に頼ってよかったよ。」
「これで魔王討伐の件は貸し借りなしだぞ。」
「いいのか!?こんな素晴らしいパンツを魔王みたいなつまらないことでチャラにしてもらって!」
「お、おう!もちろんだ!俺とお前の仲だからな!」
「持つべきものは気前のいい幼馴染だな!」
「俺もそう思うよ、心から。」
「じゃあ、俺は隣国に戻るよ。おやすみ!」
そう言うとラルクはパール・スミスの派手なストライプ柄のパンツを脱ぎだす。
「なぜ脱ぐ?」
「服を持ってこなかったのでな。パンツ一丁で外を歩いていたらヘンタイみたいだろ。」
「全裸の方がヘンタイだわ!この服も持っていけ!」
「ゼネクロか?」
「ガルチェ&ドッバーナだ!」
パンツを買いに行くためのパンツがなかった。