最近、義母の様子がおかしいので幼馴染に相談してみるか……
最近義母の愛花さんの様子がおかしい。
愛花さんが僕を引き取ってくれたのは今から4年前。僕が中学2年生の時である。僕の両親が蒸発したところを拾ってくれたのだ。
当時は愛花さんも25歳、切れ長の目にショートの黒髪で美人で多く男からの求愛を受けていたという。当時は僕からしても憧れのお姉さんのポジションだったから拾ってくれてとっても嬉しかったのを覚えている。
愛花さんは今年で29歳。まだまだ十代で通るほどの肌艶に大人の色気で義子の僕でもたまにドキッとするほどだ。
そんな愛花さんの様子が最近特におかしいのだ。
「愛花さんこれ何?」
「ん?それは源氏物語よ。授業で読んだことあるでしょ?」
「ああ…これが」
装丁を手に取ってみようとするが、愛花さんに取り上げられてしまう。
「これは、まだ英ちゃんには早いわ」
「いや授業でやってるって……それに、やってないとしても、もうそろそろ十八歳だよ?」
「それでも、…よ。万が一にでも英ちゃんが光源氏に憧れたら困るもの」
そう言って本を鞄の中にしまう。
「光源氏に憧れるって……光源氏って若紫って子供を育てて自分好みの女の子に育て上げる変態でしょ?憧れないよ」
「私は変態じゃないわよ!!!!!」
急に迫真の顔で否定をする愛花さん。
そしてフッと我に返って焦る。
「あ、い……今のは、その……何でもないわ。気にしないで。ごめんね?夕飯作るわ。」
最近、こういう感じで微妙に話がかみ合わないことが多い。
他にも………
「愛花さん!!ふ、ふく!!服着て!!」
「服?ああ、下着じゃ駄目?」
「駄目ですよ!!僕だって男なんですよ!!」
「で…でも親子だわ?そんなに恥ずかしがることかしら?」
「そ、そうだけど……で、でも…愛花さんも顔真っ赤じゃないですか!!」
取り繕うとしている愛花さんの顔は真っ赤だった。
「顔真っ赤じゃないわ!!英ちゃんの方が真っ赤よ!こんなおばさんの体で興奮してるの?おっぱい触ってみるかしら?」
「触りません!!」
高校生3年生になってからこういった謎のからかい?が増えた。いったいどういうつもりなのだろう。まったく……あやうく立ちそうだった。何がとは言わないが。
本当に最近の愛子さんが分からない。
良い人なのは変わらないが、なんかこうエロくなったというか…って違う違う!!何で義母をそんな目で見てるんだ?
エロくなったじゃなくて……愛花さんと上手く話しが噛み合わなくなった。中学生まではふつうの会話だったのに、高校生から気恥ずかしい会話や良く分からない言動が増えたような気がする。
………
……
「こんな感じでさ……最近、愛花さんとあんまり上手くいってないんだ。せっかくの家族なんだしあんまりぎくしゃくしたくないって言うか…」
「なるほどね~、えいくんのお母さんか~」
僕の相談にホンワカした声で返してくれるのは幼馴染の坂崎結衣。その声の通り、いつも穏やかで優しくて、僕の両親が蒸発したときも何度も寄り添ってくれた。愛花さんとは同じくらい僕の恩人だ。
そんな恩人が今度は僕と愛花さんの関係について相談に乗ってくれている。
「そうなんだよ……なんかぎくしゃくしちゃって上手い事話せなくってさ……何か思いつくことない?もう頼れる人が結衣しかいなくって」
「う~~ん……そうだなぁ、たぶんだけど一つあるよ?」
「え?何!?教えて?愛花さんがなんで最近おかしいか!!」
結衣がニッコリと笑いながら僕を指さす。
「たぶんそれだよ」
「え?どれ!?全然分かんないよ。なんで愛花さんとギクシャクするか」
「いや、だからそれだよ~。その愛花さんって呼び方じゃないかな?たぶん、えいくんのお母さんはえいくんに『お母さん』って呼んで欲しいんじゃないかな?」
「た、たしかに…」
な…なるほど…それは完全に盲点だった。たしかに義理の家族で問題になるケースで一番多いのは呼び方の問題だ。
そして、僕は当然のように引き取られてから4年間ずっと『愛花さん』と呼んでいる。
「まあ、でもえいくんのお母さんは真面目な人だから怒ってるんじゃなくて心配してるんだけだと思うけどね」
「愛花さんが……心配?」
「そうだよ。いつまでたっても『お母さん』って呼んでくれないから、自分が母親をちゃんとやれているのか。息子がちゃんと成長しているのか?それが気になって変なコミュニケーションになっちゃっただけだと思うな」
結衣がズバリと言ってのける。
結衣の言っている事は的を射ていて、もう原因はそれ以外考えられなくなった。
となると問題は……
「それじゃあさ…僕が単純に愛花さんを『お母さん』って呼べば解決するの?」
「う~ん…それじゃ駄目かな?いきなり呼び方だけ変えても、向こうも困惑するだろうし。あくまで成長した姿を見せて呼び方を変えなきゃ」
「僕としては家事を手伝ったり、テストで良い成績を取ったり成長してる姿は見せているつもりなんだけど……」
「ん~~不十分かな~?だってそれはあくまで引き取ってくれた『愛花さん』に恩を返すために頑張ってる事だよね?そういう事じゃなくってね…」
「じゃあどういうこと?」
「えいくんのやんなきゃいけないことは『お母さん』に成長した姿を見せて、ちゃんと『お母さん』してくれてありがとうって伝えることだよね?」
結衣はホンワカした声で続ける。
「だったらやることは一つだよ。彼女さんを作って、お母さんに紹介することじゃないかな?そしたら、『お母さん』も息子は成長したんだって安心できるはずだよ。結衣も同じ女だからそういうのは分かるな~」
「な…なるほど……」
僕には分からない感覚だ。結衣に相談して良かった。これで原因は分かったし、解決策も分かった。『彼女を紹介して、お母さんありがとうと伝えれば良いのか』
しかし問題がある。
「結衣、問題がある。僕には生まれてこの方彼女を作ったことが無い。というか作れそうな気配もない」
「分かってるよ~、だからえいくんのお母さんも心配したんだと思うよ?」
「そう言われると厳しいものがあるな……」
結衣の天然がグサグサと僕の純情を突き刺してくる。
「じゃあ…どうしたらいいんだよ」
「そんなの簡単だよ。結衣が手伝ってあげる!」
「ん?それって結衣が女の子を紹介してくれるって事か!?助かる!!」
結衣の申し出に喜ぶと、僕とは対照的に結衣はふくれっ面をした。
「むぅ~~~!そういう事じゃない!バカ!!」
「え?じゃあ…どういうことだよ…」
「え~~分かんないの~~?」
「いや…マジで分かんない」
「ん~~仕方ないな…教えてあげる」
結衣はふくれっ面をした自分の頬に溜まった空気を指で押しボヒューと吹き出して答える。
「結衣がえいくんの彼女さんになってあげる!」
「はぁ!?結衣が!?っていいのか!?俺の彼女だぞ!ってか俺の気持ちは!?」
「大丈夫だよ、あくまでフリなんだから~。彼女のフリ。まさかえいくん彼女を作って紹介するつもりだったの?」
「えと、いや……まあ…」
「そんなの高校生の彼女さんには重たいよ~。お母さんに紹介なんて彼女さんが遠慮しちゃうしね。だから、結衣みたいな事情知ってる偽彼女の方が良いでしょ?」
「た…たしかに!!」
結衣の言ってることは常に的を射ている。
「いや…本当に助かる。それじゃ、今日の夜にでも手伝ってもらっていいかな?できるだけ早く愛花さんとの仲を修復したいんだ!」
「いいよ~結衣も早い方がいいと思うし」
「ああ、ありがとう。ほんとに結衣に相談して良かったよ…」
「うん…結衣もえいくんの相談受けられてよかったよ~これでライバルに差がつけられそうだしね」
「……え?」
「あ…いや、なんでもないよ~!それじゃ、また今日の夜ね?えいくんの彼女さんになるんだから精一杯おしゃれしていくよ!それじゃあね~」
結衣はそういって足早に帰って行ってしまった。
同日夜、結衣を僕の部屋に待たせ愛花さんに話しかける。
「愛花さん……話があるんだけどいいかな?」
「ん?何かしら、英くん」
愛花さんは持っている本をぱたんと閉じ、僕を綺麗な目で見る。
しかし、僕は…その愛花さんの閉じた本に目を奪われる。
まさかの婚活本、つまり愛花さんが婚活をしている!?
「ゼ〇シィ…?え、あ、愛花さん結婚するの!?」
「あ、え?これは違うの。し、知り合いの話!!知り合いの彼氏が今度18歳になるらしいから結婚を考えてて、私に相談されたんだけどね。ほら、私この年で結婚したこともないし彼氏もいたことも無いから……なんにもアドバイスできなくてね」
「あ、愛花さん……」
愛花さんに申し訳なさを感じる。そりゃそうだろう。僕みたいなコブ付きだったら恋愛も難しいだろう。
「そんな顔しないでね。私は英ちゃんと過ごした四年間、とっても楽しかったわ?それこそ、恋人なんか必要ないくらい。これからもたぶん必要ないと思うわ。だって英ちゃんがいるもんね?」
「愛花さん……そうだね!」
愛花さんが冗談めかして言ってくれている事だが嬉しい。そんな愛花さんのために僕は孝行をしないと。
「そんなことよりも英ちゃん何か話があったんじゃないの?」
「そ、そうなんだ。今日は愛花さんに大事な話があって…」
「え…大事な話…このタイミングで?」
愛花さんが急にそわそわしだす。
「こ…これ…もしかして普段のアピールがもしかして功を奏したの?や…やった…ついに、しかも英ちゃんから……そうよね、英ちゃんももうすぐ18歳だし考えるわよね」
そして、何かをぼそぼそと言っている。
そりゃ、あの冷静な愛花さんも息子から大事な話だと言われればそわそわもするだろう。
大丈夫……僕が安心させるから!!
「愛花さん……いや『お母さん』!!今日は紹介したい人がいます」
「……へ?お母さん?」
「結衣!!入ってきて!!」
僕と愛花さんがいるリビングに青色のワンピースでおしゃれした結衣が入ってくる。結衣の茶色掛かった綺麗な長髪と一致していてすごく似合っていた。
「お母さん…こちら結衣です。僕の彼女なんだ!!こんな僕でもついに彼女ができる程成長しました!お母さん!今まで育ててくれてありがとう!!そしてこれからもよろしく!」
自分の気持ちを乗せて伝えきる。
僕の成長に安心しきった、愛花さんは柔らかな笑顔で………というのが僕の思い描くストーリーだがいつまでたっても返答が来ない。
「……か…って!…ああ……っか…お!…お……っわ…」
「お……お母さん?」
愛花さんは目をグルグルにしながら、色んなひらがなを発していた。
そして、その顔のまま僕の両肩を掴む。
「え?お母さん!?」
「え、英ちゃん……」
「なに…お母さん?」
「その、『お母さん』ってのを今すぐ止めましょう。私はあなたの母では無いわ……はい!『愛花さん』って復唱して」
「いや…でも、お母さん…」
「『愛花さん』です!!!!!!」
「ご、ごめん…愛花さん…」
愛花さんの見たこともない剣幕に呼び方を戻してしまう。
しかし、愛花さんはそれでも収まらない。
「英ちゃん……そこの女は誰なの?」
「えと……僕の彼女で……結衣って前話したことないかな、いつも相談に乗ってくれてる…」
「英ちゃん……私はそこの女が、結衣っていう事もその結衣って子が英ちゃんの幼馴染って事も知っているうえで聞いているのよ。さあ、答えて……その女は誰なの?」
や、やばい……この言い方は…確実にばれてる?結衣が僕の彼女じゃ無い事が。
まさかの状況に結衣に助けて…と目線を送る。
すると、それを察知してくれたのか結衣は僕と愛花さんの間に入ってくれた。
「お母様…、紹介に預かりました坂崎結衣です~。えいくんとは結構前から付き合っていて…」
「ふ~ん……いつから付き合ってるの英ちゃん?」
「……は、僕!?え~~と、え~~と…」
「六月二十三日です。もう付き合って二か月くらいですね」
「私は英ちゃんに聞いたの、勝手に答えないでくれるかしら?結衣ちゃん?」
「いえ、えいくんって付き合った記念日をよく忘れちゃんです。本当に困りますよ~」
「それは嘘ね。英ちゃんは母の日も、私の誕生日も、私が英ちゃんを引き取った日も、忘れたこと無いわ。いつもサプライズでプレゼントをくれるの」
愛花さんが勝ち誇ったように結衣を見る。
「結衣ちゃん?あなた英ちゃんと付き合ってるって嘘じゃないかしら?」
そして確信をつく様に問いかける。
いや、もうバレてる……仕方ない、これはもうネタ晴らしをするしかない様だ。
僕が口を開こうとする…が、結衣にガシンっと片手で口を塞がれる。
「ああ、ごめんねこの一連の流れはさ…っもが!?~~むが!!もがが!!」
「え~~?嘘じゃないですよ?それに幼馴染の関係が終わって恋人になる流れって普通じゃないですか?なんでそんなに疑うんですか?まさか……自分がえいくんと付き合いたいから……とかですか?」
「そ…そんなことないわ!!私と英ちゃんは健全な……」
「健全な……何でしょう?」
「健全な……健全な……ふぅふ…」
愛花さんは顔を真っ赤にして何かをボソッと呟く。
そして、その後再び激昂する。
「と、とにかく!!英ちゃんと結衣ちゃんのお付き合いは認めません!!だって嘘くさいんだもの!!英ちゃん!!見つけるにしてももっと良い女を見つけなさい!!た、例えばもっと身近な人とか…」
「そんなこと言って~結衣たちの仲を裂こうとしても無駄だって!!」
結衣と愛花さんの間にバチバチと火花が散る。
な…なんでこんなことになったんだ…。
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短編で続き書くかは未定です。